暗闇の森のイビル・プラント編
暗闇の森のイビル・プラント編
暗闇の中にキラリと一瞬の閃光と空を斬る音が響き、ルミーアを襲おうとした”それ”が地面に音を立てて落下した。
「……サイサリス……?」
ランタンの明かりの中にに《ラクリモーサ》を構えた彼女があるのを見て、サイサリスが助けてくれたのだと分かりほっとなり、自分を襲おうとしたものの正体を確かめる。
「……触手……?」
「……違う、おそらく木の根っ子……」
サイサリスの大鎌で切断され地面に転がっているそれは確かに木の根のようなものだ、そこへ遅れてユリィと勇矢もやって来る、二人もその木の根を見て驚く。
「おいおい……この世界じゃ木の根っ子も人を襲うのかよ……」
「そんなわけないだろう勇矢」
「……気をつけて、囲まれた!」
サイサリスが周囲を見渡しながら注意を促すのを聞いて全員に緊張が走る、それぞれに武器を構えて警戒する。 しかしランタンの明かりの外にいてはルミーアでは邪悪な気を感知出来ても敵の正体を知るのは難しい、サイサリスに「何がいるの?」と尋ねる。
「……木の根、木の枝……蠢いている……」
「魔獣か!?」
「いえ、おそらくは邪精霊の類かと思います勇矢さん」
サイサリスの言葉からルミーアは咄嗟に思いついた事を言ってみる、実態を持たない邪悪な精霊は滅多に人前に姿は現すものではないが人里離れた奥地には潜んでいると言われている。 だからこんな街道を少し外れた程度の場所で遭遇するのは珍しい事例ではっても過去になかったというわけでもない。
「……来る!」
「……ちっ!」
「このっ!!」
サイサリスの言葉を合図にユリィと勇矢との三人でルミーアを囲むような陣形で根や枝を迎え撃つ、もちろんルミーアも風の刃【ヴェント・ラーマ】の魔法で援護する、普通に考えれば炎の魔法で焼き払いそうなものだが、それでは森を火事にし結果的に自分達も危険になる恐れもある。
勇矢はアインのサポートで、サイサリスは戦闘用魔導人形である事による高度な暗視能力で、ユリィはハンターとしての経験と勘で暗闇での戦闘を凌いでいるがこのままではジリ貧である。 視界のほとんど利かない中での全方位からの攻撃では集中力も体力もいつまで持つものではない。
何とかしなければと、師匠であるカーマイン・グローランスから教わった邪精霊の知識を必死で思い出そうとする。
「……イビル・プラント……!!」
植物にとりつき、とりついた植物のみならず周囲の植物まで支配し獲物を捕獲し養分を吸い取るというその邪精霊の名を思い出しはっとなる、本体を倒さない限りは無限に再生される根が枝と戦わねばならないと記されていたはずだった。
「……本体か……」
ルミーアの叫ぶような声での説明にユリィが呟く、昼間ならまだしも暗闇の森を敵の攻撃を防ぎつつどこにいるとも知れないイビル・プラントを探すなど無謀である。
その時に足元から出現した根がユリィの足に絡みついたのをルミーアの【ヴェント・ラーマ】が斬り裂いた。
「……くっ!? 段々と狙いが正確になっているっ!? こっちの位置を把握してきているのかっ!!?」」
忌々しげに叫びながら、じっとしていてはやられるとユリィは悟る。 イビル・プラントがどうやって獲物を感知するのかは知らないが、徐々に襲撃してくる根や枝の数が増えている事からも危険は時間と共に増すだけだった。
「あっちです! あっちから強い邪悪な魔力を感じます!」
魔法で三人を援護しつつも敵の居場所を探っていたらしいルミーアが声を上げ手を伸ばしその方向を示した、そんな彼女にユリィは流石だなと感心しながらも、居場所が分かっても倒しに向かえないのではどうしようもないという事に焦燥感を覚えていた。
「……どうする!?」
「どうなっているんだ、これは!?」
「おそらくはイビル・プラントかとギル様!」
手にした《双剣》を振るい主であるギル・ガーメッシェを襲おうとした数本の枝を細切れにしたメイドのローゼ・クライノートは「イビル・プラント? 邪精霊かっ!?」と返すギルに頷くと、続けて現れた自分の足元からの根をも斬り裂く。
「……ギル様、失礼っ!!」
「……ん? うおっ!?」
ローゼはギルを思いっきり蹴っ飛ばすと、直後に先ほどまでギルのいた場所の地面から生えてきた数本の根を斬り刻む。
「いきなり何をするかっ!?」
「ですから失礼と申しました!」
怒鳴るギルに悪びれた様子もなく返しながら、そうしている間にも襲ってくる根や枝を次々と斬り裂いていく。 ギルは不満そうな顔をローゼに向けはしたものの、それだけだった。
「……まったく……しかしイビル・プラントか、なら本体を叩かねばキリがないのではないか?」
「はい! 森の奥に邪悪な気を感じますので、本体はおそらくそこかと……」
「ならばさっさと行け! お前ならこんな暗闇どうという事はないだろう?」
並みの魔族より夜目が利くというだけではない、敵が発する微妙な音や殺気や闘気、更には微妙な空気の流れの変化すら感じとる事が出来るというのがローゼ・クライノートという魔族だった。 そんな彼女がどうして普段は物腰の柔らかいおっとりと笑顔を絶やさないメイドをしているかという理由をギルは知らない。
「よろしいのですか?」
「当然だ! 私を誰だと思っている、自分の身くらいは自分で守れるわっ!!」
「あらあら? ギル様もおっしゃるようになりましたわねぇ~」
「お前な~~~!!!!」
大袈裟に驚いたという顔をしてみせるローゼを思いっきり睨みつけてやると彼女は「はいはい、仰せのままに……」と苦笑してからスッと闇の中に姿を消した、「まったく、馬鹿にしおってからに!」と文句をローゼの気配がなくなった闇に向かって言ってやる。
ローゼはギルが幼少の頃からの世話係りで、一見すると年はそう変わらないのは寿命の長い魔族は成人してからの老化は人間の数倍は遅いからである。 そんなローゼは優しく時に厳しく親身になってギルの面倒をみたのでギルは彼女を従者ではなく姉か何かのように思ってしまっていて、そのせいかどうにも頭が上がらない。
もっともその事実をギルは嫌ではなく、いつかローゼに自分のことを見直させてやろうという目標すら持っていた。
「……そのためにも、まずはこの程度を切り抜けてみせねばな」
自分に言い聞かせるようにそう言って、構えている《アンヘル・カイド》を握り締めた。
「サイサリスさんならっ!!」
襲い掛かってくる枝を《永遠なる刻の剣》で斬り払いながら勇矢が叫んだ言葉に意味を理解しユリィは驚く、確かに彼女ならこの暗闇をものともせずに進めるだろうが、この状況での単独行動は危険ではないかと思える。
「勇矢さん! いくらなんでも一人じゃ危険ですよ!?」
ルミーアも同じように考えたのだろう、勇矢に抗議した。
「分かってるけど、このままじゃ皆やられる!!」
勇矢も出来るなら彼女を一人で行かせたくはないが自分達がついていっても足手まといにしかならないだろことは分かる、ならば今はサイサリスの力を信じるしかない。 男としては不甲斐なく思うが、そんなものは平和を生きる男のチンケなプライドでしかないのをこうして命の危険に晒される状況下においては思い知る、実力がすべての危機的状況下で男だ女だと言ってもどうにもならない。
「……私は行けるわ、大丈夫」
「サイサリス……」
サイサリスは根拠もなくこうは言わないのをルミーアは知っている、現状と自身の持つイビル・プラントの知識を分析し可能であるという結論を出したから言うのだ。 それは分かっていても、サイサリスの戦闘能力の高さを知っていても人間では予測しきれない事に対しての不安というものが付きまとうものである。
そんなルミーアの心境を知ってか知らずか「……大丈夫」ともう一度言うサイサリス。
「……分かった、頼む!!」
「……了解」
覚悟を決めたという風なユリィの言葉に頷くと同時に地を蹴ったサイサリスは前方の枝をなぎ払い暗闇へと消えた、それが、闇がサイサリスを呑み込んだというように見えたルミーアは得体の知れない不安を覚える。
「ぼうっとしないルミーア!」
勇矢の叱咤するような声にルミーアは我に返った。
「今はサイサリスさんを信じて、俺達は俺達のやるべき事をするんだ!!」
「それは!?」
《ハルバート》を振るいながら問うユリィに勇矢はにやりと笑みを浮かべて答えた。
「決まってる! 全員でこの状況を凌ぎきるんだっ!!!!」
何もサイサリス一人が危険なわけではない、今はこの森にいる限りはどこにいても危険は変わらないなら、サイサリスは敵の撃破を、勇矢達は自分と仲間の身を全力で守りあうというのが現状で出来うる最大限の事だ。
もしかしたら自分の選択が間違っているのではというのはもちろんある、もしもサイサリスに万一の事があれば、彼女を欠いたメンバーで不覚をとってしまったらと想像すると恐ろしくはある、そんな不安を振り払うかのように勇矢はがむしゃらに《永遠なる刻の剣》を振るい続けた。
サイサリスの目は僅かな光を増幅し暗闇の中でも十分に活動出来る視界を維持出来る、だから闇の中に樹木という障害物のある森でも全速力で疾走出来た。 そして彼女の全力なら襲い来る枝や根の攻撃精度では彼女を捉えるのは難しく、順調に目標めがけて進んでいた。
多少特殊な状況下であるが敵を見つけ撃破するという任務としてはごく普通のものだ、この時代に目覚めてからはともかくそれ以前はそういった戦闘任務の繰り返しがサイサリスの日常でありそこに疑問や迷いを持つ必要はない。
この時代に目覚めた時に最初に会った人間――カーマイン・グローランスに「……あなたが次のマスター?」と問うと彼は「もう君のマスターはいない、だから君は君の自由に生きなさい」と言った。 自由というのはよく分からないが、マスターでないにしろマスター不在の間は敵対勢力の人間でなければその命令は尊重すべきものであるから、サイサリスは命令があるまでは自己の判断で行動するようにはした。
そして今も味方である人間の命令通りに敵の撃破と言う任務を遂行している、それだけのはずだった。
「……急がないと」
そんな言葉が無意識に口をついているのに気がつく。
任務に焦りは禁物なのは承知しているはずで、これまではこんな焦燥感を感じた事はなかったはずである。 味方の人間の生命が危機に瀕しているからとも考えるが、過去においてはマスターの危機であってもこんな事はなかったと思う。
それは戦闘用魔導人形にとってマスターは命令を与える者であり、それ以上でもそれ以下でもない、最優先で守る存在ではってもそのマスターが死んだら次のマスターの指示に従うだけというのがサイサリスだった。
しかし、今のサイサリスはユリィ達に死んでほしくないと、彼女らを失いたくないと感じていた。 しかもどうしてそう思うのかは自分でもまったく分からないのに頭のどこかではそれを当然と受けいれているのである。
「……今は任務に集中……」
小さく自分に言い聞かせ雑念を振り払うサイサリスの視界に不気味な人の顔をしたようなものが浮き出ている木が見えた。
「……イビル・プラントの本体を確認、攻撃開始!」
《ラクリモーサ》を構えている両手に力を込めて目標めがけて真っ直ぐに疾走するのは一気に勝負を付けるためである、サイサリス専用に製造されたこの《ラクリモーサ》には魔力が付与されており邪精霊であっても斬り裂き、その存在を消し去る事が出来る。
前時代から共に戦ってきた相棒とも言える武器を操り、人間、非人間を問わず多くの敵を葬ってきた、だからこれから斬るイビル・プラントもそのうちのひとつに過ぎない。
「……はっ!!」
もちろんイビル・プラントもサイサリスに対し迎撃行動に出てくる、何十本という枝や根が彼女めがけて伸びてくるのをすべて《ラクリモーサ》で斬り伏せる、それに驚いたのかイビル・プラントの”顔”が歪んだがサイサリスにはどうでもいいことで一気に間合いを詰めようとする。
「……終わり」
目標まであと四、五メートル程、サイサリスなら一気に踏み込み《ラクリモーサ》を振るえる間合いだ、だから勝利を確信し《ラクリモーサ》を振り上げたサイサリスの左肩を、その時に激痛が襲った。
「……っ!!?」
背後からの鋭くとがった枝が自分の肩を貫いたと分かった時には、何本もの枝がサイサリスの両腕両足、そして胴体に巻きついてきて彼女を拘束する。 スマートな体形とは裏腹に並みの男の戦士以上のパワーを持つサイサリスは何とか振り解こうともがくが相手のパワーも強く、逆に更に強く締め付けられるだけだった。
「……うっ……くっ……」
貫かれた左肩の激痛と身体中を締め付けられる痛みに苦悶の声を漏らす、戦闘用の自分に何故痛覚などというものがあるのかとこれまでも戦闘で損傷する度に思ってきた疑問を抱くより前にこの状況を打破する策を模索するのは、自身の破壊もありえるかなり危険な状況だからである。
別に破壊されるのは怖くはない、だがここで破壊されてはルミーア達が死んでしまうかも知れないという想像をサイサリスは恐ろしいと感じていた、だから必死になって足掻く。
「はぁぁぁあああああああああっ!!!!」
「……!!?」
不意に身体中を拘束していた力が消えうせて、バランスを崩し倒れそうになったサイサリスの視界に《双剣》を携えたメイド服の女性が映る。
「……ローゼ・クライノート!?」
「話は後です! 【双剣舞踏】っ!!!!」
ローゼはダンスを踊るかのような華麗な動きでイビル・プラントを何度も斬りつけていく、そしてトドメと言わんばかりに《双剣》を突き刺し、そして《双剣》をイビル・プラントに突き刺したままでその幹を蹴り後方へと跳び華麗に一回転してから着地した。
「……終わりです」
戦闘中とは思えない、まるでお茶でも運び終わった時のような笑顔でローゼが言うと同時にイビル・プラントが「グゴォォォォォ!!!」という叫びを上げながら光を放ち、そして粒子となって消えていくのでサイサリスはそれが断末魔の叫びだと分かった。、
サイサリスと勇矢達が合流したのは戦闘終了から三十分程経ってからだった、最初は彼女の無事にほっとなった勇矢だったがすぐに左肩の無残な傷に驚き「大丈夫なのか!?」と声を上げた。
「……問題ないわ、この程度なら一日か二日で修復するから」
「問題ないって……」
すぐにでも手当てをしてあげたいとは思うが戦闘用魔導人形には人間用の薬はまったく意味をなさず、せいぜいが傷口を人に見られぬように包帯を巻く程度でしかないのはブルー・ベアの時に聞いていた。 カーマインやエターナルならばあるいはこの場で治療する手段を持っているかも知れないが、いない人を頼ろうとしてもしょうがない。
「……それより、ごめんなさい、任務失敗……」
勇矢達は「失敗?」顔を見合わせた、今こうして森が静かなのはイビル・プラント本体が倒されたからであるのは間違いなく、サイサリスが何故失敗などと言うのかが分からず怪訝な顔していると、彼女は敵を目前にして不覚をとりローゼに救われた事を説明した。
「……私は任務を……果たせなかった」
その言葉を口にするのがサイサリスには辛かったが、どうしてそう感じるのかまでは分からなかった。 遂行した任務の成功か失敗かは所詮結果に過ぎず、ただその事実をマスターに報告し次の命令を待つ、その際に罰を科せられるというなら例え自らの破壊であっても受けるだけだった。
今でも罰は怖くはない、なのにこの三人に失敗と言うのは、自分が役に立てなかったと言うのには勇気が必要だった。
「……そうだったのか……ま、あんたが無事ならそれでいいさ」
「そうですね、今度ローゼさんに会ったらお礼を言わないとです」
ユリィとルミーアは気にするなとばかりにそう言ったのにサイサリスは驚いた、そして勇矢の発した言葉には更に驚く。
「ごめん、サイサリスさん。 俺が一人で行ってなんて無茶言ったせいで……」
勇矢の顔はサイサリスを責めようという様子はなく、寧ろ自分のせいでサイサリスを負傷させた事を謝罪しているようだった。
サイサリスは勇矢に非があるとは思わない、彼の判断は間違いなく最善手でありこの負傷も含めての結果はすべて自己の責任であるはずなのにそう言う勇矢が彼女には理解出来なかった。
何か言おうと思うが言葉が出てこない。
「……まあ、済んだ事は言っても仕方ないさ。 別にあんただって悪いわけじゃない」
「そうですよ! それを言ったらサイサリスの足手まといにしかならなかった私達三人の力不足が悪いんです、勇矢さんだけの所為じゃないし、サイサリスは全然悪くないんですよ!」
最後の言葉はサイサリス本人に向けられたものだ。
結局のところ突発的な危機に対して全員が全力で対処しただけの事であるし、結果切り抜けられたならそれで良しという事なのである。 誰かのミスや力不足を責めるのは簡単だが敵がこっちの都合や力量に合わせて攻めてくるはずもなく、不確定要素による失敗や力不足などあって当然なのが実戦というものなのだ。 だから大事なのはどんなにピンチでも最後まで足掻こうという意志であり、常日頃から己を鍛える努力を忘れない事であると以前にユリィが言っていたのをサイサリスは思い出した。
精神論というのはサイサリスには理解しがたいものだが、全力を尽くした結果に誰かを責めても仕方ないとユリィ達は思っているのだろうと考えた。
そして、そんな彼女らといるのは悪くないとそんな風に感じるサイサリスだった。
サイサリスが仲間達と合流したのと同じ頃にギルと合流したローゼは彼があちこち傷だらけになりながらも無事なのを確認してほっとした。
「ずいぶんと傷だらけですが……ご無事でしたか、本当に口だけではなくなってローゼは嬉しいです……ううぅ……」
それでもギルをおちょくるのを忘れずに大袈裟に感激したふりをしてみれば案の定「お前は私を馬鹿にしているのか!?」と大声を出し睨んできた、 捻くれているようで実は案外素直なギルはローゼにとっては手のかかる弟のようなものでついついからかってしまう。
王族と従者という立場は自覚はしていてもやってしまうのは、結局はそういう性分なのだろうと思う。
「まったく、とんだ厄介ごとに巻き込まれたものだ!」
「そうですねぇ……ギル様が近道をしようとか言い出したせいでとんだ目にあいましたねぇ?」
「……うぐぅっ!?……し、仕方ないだろう! いくら私でもこんな事になるとは予測出来ん!!」
拗ねた顔で怒鳴るギルが子供のように可愛く思え微笑を浮かべながら「はいはい」とローゼが答えると更に拗ねた顔になるギルは本当に子供のようである。
「それで、これからどうなさいますか?」
あまりからかうと本気でへそを曲げてしまってなだめるのが一苦労なのでこの辺で話題を切り替える、そういった微妙な舵取り加減を心得ているのは幼少時より面倒を見続けてきたローゼならではであると言える。
「とりあえずは次の町までとっとと行って休む、それから……」
言いかけてギルはあごに手を当てて何か考えるような仕草をした、そして名案を思いついたとでも言うように微笑を浮かべた。
「そうだな、あの人間達を追いかけてみようローゼ」
「……はぁ? サイサリスさん達をですか……?」
怪訝な顔でそう返しながら、先ほど分かれた戦闘用魔導人形の少女の顔を思い出すローゼ。 あれ程に精巧に人間を模した戦闘用魔導人形というのは聞いた事もないがあれこれと詮索する気もなかったので「あなたの事は誰にも言いませんよ」とだけ言って分かれた。
ギルになら言っても問題ない気はするし従者としては報告するのが責務という気がしないでもないが、そう約束した以上は簡単には他者に言うべきではないだろうと思うのは、魔族にも人間にもつまらない野心や好奇心を持つものがいてそういった連中がちょっかいを出そうとしないとも限らないからである。
今日始めて会った人間であっても、いや、始めて会ったからこそそういう非礼をする気になるようなローゼではない。 だから彼女の事は聞かれたら答えればいいだろうと決める。
「うむ、奴らは私と同じ目的、《願いの宝珠》を狙っているようだからな。 隙あらば倒してしまった方がいいであろう? それにあの男には今日負けた借りを返さねば気が済まぬしな?」
倒すとは言ってはいるが別に殺そうとまで思っていない、少なくとも女の子を無闇に傷つけるような事をするようなギル・ガーメッシェではない。 だから、《願いの宝珠》を諦めようと思う程度に彼らの邪魔をしてやろうという事だろうとローゼには分かる。
だからローゼにはギルを止める理由もなく、寧ろそれはそれで面白い事になるかも知れないと思った、だからにっこりと笑顔でこう言う。
「はい、ギル様の仰せのままに」




