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戦闘用魔導人形の少女編


           インフィニティア冒険物語 戦闘用魔導人形オートマタの少女編


  

 


 勇矢も山歩きくらいはした事はあるが、それは学校の遠足なのでそれなりにちゃんとした山道を歩いてのことである、だから鬱蒼と木や植物が生い茂る道なき道を進むというのは一苦労どころではなかった。

 「……勇矢、もっと早く歩かないと日が暮れる……」

 『大変なのは分かりますが、勇矢も男の子でしょう? がんばってくださいよ』

 「それは分かってるけど……」

 サイサリス・リーチェはともかく、《永遠の腕輪エターナル・ブレスレット》状態で勇矢の左腕に嵌っているだけのアインに対しては釈然としないものを感じるが、それを言うのも男として少し情けない気がしたので我慢する。

 武具に宿る武具精霊を自称するアインは一応は女の子の姿をしてはいるが、そういう存在に性別があるのかとも思わないでもなが、人格が女の子であると言ってしまえばそれまでなのだが。

 勇矢達がこんな山の中にいるのは、ユリィ・ゼフィランサスの仕事の手伝いで、山中に生える希少なキノコを採取しきてくれというものだった。 その程度の仕事をわざわざハンターに依頼するのは、山の奥へ行けばいくほど魔獣に襲われる危険もある事と、そのキノコは非常に高価なものでハンターに依頼料を払っても十分に採算が合い、戦闘の素人が行って魔獣に襲われるよりは割が合うのである。

 そういった場所に凶暴極まりない魔獣が生息している事はほとんどなく、寧ろ下手に巣などに近づいて刺激しなければ襲われる危険も少ない魔獣である場合が多く、ハンター側もリスクが少なく手軽に収入を得れる仕事として積極的に引き受ける。

 ちなみにユリィとルミーアは別の、魔獣を退治してくれという依頼に出向いてこの場にはいない。 出来れば明日には出発したいから二手に分かれて効率よく片付けようという事である

 「……急ぐ」

 またも急かすサイサリスは起伏のある斜面も平然と歩き、そして疲れを知らないかのように顔色ひとつ変えないのを、タフってレベルじゃないようなと不思議に思う。 言い方は悪いが、まるでロボットだなとさえ思ってしまう。

 「それにしても……」

 奥に進むの連れて日本で言うところの赤松に近い木が生えているのに気がつき、目的のキノコとはマツタケのようなものだのだろうかと考える、人間がほぼ同じに姿に進化し、文化形態も近いのだから動植物も似た形態に進化してもおかしくないのかもしれない。

 生物学者でもなく、ましてやよそ者とも言える勇矢が深く考えても仕方ない問題でもあるが、ちょっとした好奇心は沸くものである。

 「……勇矢、動かないで」

 「……えっ?……って、ちょっ……」

 どこから取り出したのかサイサリスはナイフを構え、躊躇なく勇矢めがけて投げた。 突然の事に硬直した勇矢の頭の左をナイフが通過し、ヒヤリとした後に「え?」と背後を振り返るとすぐ後ろにあった木の幹に体長五十センチはある蛇にナイフは突き刺さっていた。

 「……毒蛇、噛まれると十分で死ぬから……」

 「……え……あ……そうなのか……」

 「……そうなの」

 顔を引きつらせ冷や汗を流す勇矢は、木の幹に貼り付け状態になった毒蛇を見つめながら、魔獣だけが危険な存在ではないと思い知る。 日本の街中でで暮らしていては経験もないが、人の目に着かない所に隠れた小さな生物に襲われ命を落とす事は勇矢の世界でもあることで、なまじ目に見えない場所にいるだけに気がつけば手遅れという話をテレビで見たときにはぞっとなり、そんな生き物が自分の生活の場にいない事に感謝したものだ。

 体格や進化の度合いと脅威度は決して比例しない、極端を言えば地球の文明を遥かに凌駕し数日で侵略可能な兵器を操る宇宙人が目に見えないウィルスに敗北するという映画を視た時は皮肉話だなと思った。 これ自体は架空の話ではあっても、致死率の高いウィルスと日々戦っている研究者のドキュメンタリーや、身近なところでは進化したインフルエンザ・ウィルスの猛威を振るうのをニュースで知ればリアリティのない話ではないと勇矢は考える。

 目に見えないところに潜む死の危険に対して油断してはならないなと、勇矢は気を引き締めた。

 「……ごめんなさい」

 「え?」

 「……毒蛇がいる可能性を勇矢に言わなかったのは、私のミス……」

 無表情のまま淡々と謝罪するサイサリスは、ただ事実を報告しているという風に思え、勇矢はその事に苛立つことはないがどうして彼女は感情を表すという事をしないのかが気になった。

 「いや、俺が自然を甘く見ていただけだよサイサリスさん。 寧ろ助けてくれてありがとう」

 「…………そう」

 照れる事もなく変わらない無表情なサイサリスの紅いの瞳に見つめれて勇矢がドキッっとなったのは、一瞬ではあったがそれが人工的な無機質のようなものに見えたからだった。

  



 このチェスというゲームは面白いとカーマイン・グローランスはつくづく思う、その異界のチェスというゲームを自分に教えてくれた永遠とわの魔女エターナルは彼の向かいに座り次の一手を考えている。

 「……あなたは勇矢君をどうしたいんですか?」

 「ん? どうもしないよ?」

 言いながらポーンを動かすエターナル、今度はカーマインが手を考える番だ。

 「あなたなら《願いの宝珠》くらい簡単に手に入れられるでしょう?」

 〈世界カケラ〉さえ移動してみせるエターナルから見ればひとつの世界内などどこへでもすぐに行ける距離だろう。

 「う~~ん? そうなんだけどねぇ……男の子なんだし自分のことくらい少しは自分でがんばってもらわないとね~♪」

 『あなたはまたそんな……適当な……』

 カーマインの気持ちを代弁するように言ったのはエターナルの右腕に嵌っている《永遠の腕輪エターナル・ブレスレット》のツヴァイだ、男の子の人格を持つ彼はアインとは二人で一組の武具精霊だ。

 「大丈夫だよ、勇矢は強い子みたいだしいね」

 「ふむ?」

 勇矢という青年の第一印象を思い出し、確かにそうかも知れないと思いながらビショップの駒を動かした。

 「うわっ! いい手だねぇ……」

 驚いた顔をしてから「う~ん……」と唸るエターナル。 彼女の手筋は一応の基本は身についてはいるのだが性格通りに大雑把で気まぐれな部分があり、その論理的思考から外れた一手は良い結果をもたらしもすれば悪くなる事もあるのだが、彼女はそれすら楽しんでいる節がある。

 秋月勇矢をこの異世界で旅に出すというエターナルの一手は果たしてどういう結果を彼に、そしてルミーア達にもたらすのかのかは、大賢者とも呼ばれるカーマインにも予想がつくものではなかった。



 ブルー・ベア、人間の倍程の体躯を持つ魔獣と遭遇したのは毒蛇の一件から十五分程経ってからだった。

 「……ここは私が」

 サイサリスはそう言うや否や《ラクリモーサ》を構えブルー・ベアに向かっていった、この樹木の立ち並ぶ場所では巨大な鎌ラクリモーサは不利に思えた勇矢だが、サイサリスはブルー・ベアに攻撃を仕掛けずに回避に徹していた。

 ブルー・ベアは彼女を敵と認識し丸太にも思える腕を振るい、周囲の木々をなぎ倒していく。

 「……そう言う事か!」

 勇矢はブルー・ベアのパワーに驚愕しつつも、サイサリスの作戦に気がつき声を上げた。

 「……周辺の障害の除去を確認……ブルー・ベアへの攻撃行動を開始」

 完全ではないにせよ《ラクリモーサ》を振るえるだけのスペースが確保され、攻撃に転じるサイサリスは、それでも正面からは攻めないでスピードでかく乱しつつ斬りつけていく。 しかしどれも浅く致命的なダメージには到っていないようだ。

 「……敵のパワーとスピードは平均値を大きく上回っている……突然変異種と推定……それでも……」

 後ろへ跳ぶことで攻撃を回避したサイサリスは《ラクリモーサ》を強く握り、そして再び地を蹴る。

 「……戦闘目的に変更はなし、敵を殲滅する……」

 ブルー・ベアの腕の威力を警戒しているのだろうサイサリスが間合いを大きくとり手数も少ないのは仕方ない、あの太い腕の直撃を受ければ人間など吹き飛ばされるだけでは済まない、鋭い爪を回避しても下手をすればパワーだけでミンチ状態である。

 「アイン、サイサリスさんは大丈夫なのか?」

 『……通常のブルー・ベアなら……勝てない相手ではないですが……』

 「さっき突然変異種とか言ってたぞ!?」

 《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》を構えてはいるが、攻撃をする機会を見出せずに苛立ち気な顔で戦闘を見守っている勇矢はそれでも相手の攻撃パターンを掴もうとしてみるが、相手はモーション・パターンの決まったモンスターではなく、生きた動物だからそれも容易ではない。 剣道を習っていても所詮は対人用の戦闘術であり、一夕一朝で対魔獣戦への応用は難しい。

 ましてや、ゲームの知識や技術などカケラほども役に立つものではない。

 「……目標のダメージ軽微、戦闘続行……」

 押されているという状況でもブルー・ベアの状態を冷静に分析しながら攻撃をしているサイサリスは、不意に足を滑らせバランスを崩して待った、そこへブルー・ベアの豪腕が振るわれる。

 「……っ!!」

 咄嗟に《ラクリモーサ》で防ごうとし致命傷は回避できたが代わりに《ラクリモーサ》は宙を舞い後方へと跳ばされてしまった。

 「サイサリスさん!?」

 「……《ラクリモーサ》損失……左腕損傷、回避行動……」

 武器を失っても慌てることなく淡々と呟くサイサリスに違和感を持っている場合ではない、勇矢は反射的にブルー・ベアに向かって駆け出す。 「こっちだ、熊の化け物っ!!」と挑発しサイサリスから引き離そうとする。

 「……勇矢、無茶……」

 「無茶でもやるしかない!」

 その挑発に乗ったのか、武器を持っている勇矢の脅威度が高いと判断したのかは分からないがブルー・ベアは勇矢に対し両腕を広げた威嚇のポーズをとった。 その姿に足を止めて怯みそうになるが「しっかりしろ勇矢!」と自分を叱咤し気力を振るい立たせた。 

 「行くぞっ!!!!」

 《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》を握り締めて突撃していく、気持ちで負けていたら勝てるものも勝てない。

 『勇矢! 左に跳ぶ!』

 「え!?」

  突然のアインの声に驚きつつもワンテンポ遅れて勇矢は跳び、ブルー・ベアの腕が空を切った。 アインの声がなかったら直撃を受けていただろう事にヒヤッとなる。

 『大丈夫です、私がサポートします! 勇矢は思い切り私を、剣を振るうことに集中して!』

 「助かるよアインっ!!」

  感謝の言葉を口にしてから、中段の構えをとりつつ間合いを計る。 サイサリスが負傷し一人で戦うことに感じていた不安と恐怖は、この頼れる相棒の存在に気がついた瞬間に吹き飛んだ。

 『勇矢、この間合いを維持……3、2、1、今ですっ!!!!』

 「胴ぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 アインの合図で一気に踏み込むと《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》を横なぎに振るいブルー・ベアの左わき腹を斬りつけた、勇矢の予想に反して、まるで豆腐を斬ったような軽い手ごたえだったにも関わらず分厚そうなブルー・ベアの毛皮や肉を斬り裂いた、その斬れ味に驚愕する。 

『エターナル様の時ほどではありませんが、私自身で《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》の力を可能な限り引き出します!』

 「分かった、頼むっ!」

  ブルー・ベアの後方へと走り距離を保ちつつ反転し構えをとりながら答える勇矢の視線の先で、青い熊の魔獣は身体を倒し前脚を地につけて四本の脚で大地を踏みしめた。 そして咆哮と同時に突撃してくる、自分の倍以上の巨体が迫っても勇矢は慌てない。

 『合図と同時に回避、攻撃!……今です!』

 「小手ぇぇぇえええええええええええっ!!!!」

 気合の声と共に振られた《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》はブルー・ベアの丸太のごとき太さの左前脚を斬りつけて、易々と切断してみせた、スピードの乗った巨体がバランスを崩せば立て直すことは出来ずに勢いよく横転する。

 『トドメです、勇矢っ!!』

 「了解っ!!」

 勇矢はまだ立ち上がれないブルー・ベアの正面に回りこむと《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》を振り上げてベアの顔を見下ろすと、青い魔獣のその瞳が「何故殺す?」とでも言いたげに見えぎょっとなり一瞬躊躇した。 おそらくは自分達が縄張りに入ったために襲ってきたのであろう魔獣を殺すのは人間のエゴに思えるが、こちらとて理由もあるしむざむざと殺されるわけにはいかないのだ。

 「お前に恨みはないが……すまないっ!!  面ぇぇえええええええええんっ!!!!」

 振り下ろされた刃はブルー・ベアの頭部を真っ二つに叩き斬り、断末魔の叫びをあげた魔獣は永遠に沈黙した。

 「……はぁ……はぁ……」

 自らの手で命を奪った魔獣を見つめる勇矢に勝利したという高揚感は沸かなかった、いまだ手に残る魔獣の頭を割った感覚が懸命に生きていた生物の命を奪ったという事実を知らしめ、罪悪感を覚える。

 無論そんなのは偽善だ、勇矢はこれまで無数の命を奪い、食らい生きてきた。 もちろんそれらは勇矢自身の手で殺してきたわけではないが、そんなものは言い訳にもならない、自分が手を汚したくないから誰かにやって貰っているだけだ。

 人はどんな生き物でも命は尊いものだという愛護の精神を持つ一方で、その尊い命というのは自らに有益な存在だけという矛盾をはらんでいる。 可愛いペットのインコは尊い命であってもごみを荒らすカラスは駆除してほしい厄介者でしかなく、たいていの人間はその死を望んでいるだろう。

 また、人は命と物を自分の基準で区別する、例えば牧場にいる牛は生き物いのちであってもスーパーに並んでいる牛肉は食料ものとしか認識しない、それらがかつては尊い命を持ち、生きて動いていたことを想像する人間は少ないだろう、だからこそ人は肉を食える。

 だから水族館の魚は可愛いい殺すのはかわいそうという一方で、マグロなどの解体が一種のショーとして見世物に出来るという矛盾。

 命を存続させるために命を奪うというそんなシンプルな自然の摂理は、人間の世界では身勝手な論理感や基準で矛盾をはらんでいる。

 『……勇矢、あなたは間違ってはいない。 生きるためには戦い命を奪うしかないんですよ』

 勇矢の表情から察したのだろうアインが慰めるように言う、そこへサイサリスが歩み寄って来る、その表情は勇矢がどうしてつらそうな顔なのか不思議に思っているようだった。

 「……勇矢、敵を倒したのにどうして喜ばないの?」

 「……どうしてって……え!?」

 言い返そうとした勇矢は彼女の左の二に腕がざっくりと抉られているのに気がつき驚愕に目を見開いたのは、そこからあふれ出た大量の鮮血がサイサリスの服を紅く染めていたからではない、ブルー・ベアの爪で抉られたのであろうその深く痛々しい傷からは一滴も血が流れていなかったのだ。



 ユリィとルミーアが魔獣退治から宿屋に戻った時に勇矢とサイサリスも帰還していたと聞き、夕食をとろうと誘うために二人の部屋に行きそこでブルー・ベアの一件を知り愕然となったのは、もちろん予期せぬ魔獣との遭遇自体もあるが何よりサイサリスの秘密が知られたという事だ。

 その事実に比べれば、彼らが依頼を果たさずに戻って来てユリィが依頼主に謝罪しなければならないという問題などどうでもいい些細な事だった。

 「……戦闘用魔導人形オートマタ……そう言っていた」

 勇矢はユリィとルミーアを責めるという風ではなかった、ただ二人の口から事実を確認したいという表情だったから、ユリィも仕方ないと溜息を吐き口を開く。

 「……ああ、サイサリスは古代文明の遺した戦闘用魔導人形オートマタ、それは事実だよ」

 そう言ってちらりとサイサリスを見ると彼女は黙ってユリィを見返している、相変わらずの無表情だが自分が言うべきことは言ったという風に訴えてると分かり先を続けた。

 「カーマインがある遺跡を調査していた時にサイサリスは発見された、二年くらい前だったな……その時同行していたのがルミーアとあたしだ」

 弟子のルミーアはともかくユリィが同行したのは、別件でカーマイン邸を訪れた際に「君も一緒に行きませんか? 遺跡調査もいい経験になりますよ」と誘われたからだった。 そしてその調査中にサイサリスの入ったカプセルを発見したカーマインは二人にこのことは極秘にするようにと口止めして、サイサリスを連れて帰り彼女に住む家とそして”リーチェ”という苗字を与えた。

 更に二人はサイサリスの友達になってやってくれと頼のまれ、交流が始まり紆余曲折はあったが今の三人の関係がある。

 「……そうか」

 勇矢がさほど驚いた様子がないのはすでにサイサリスから同じ事を聞いていたからだろう、ユリィからも同じ事を言われ事実であることを認めざるを得ないという顔だ。

 「で、でも! サイサリスは……」

 「……いいのルミーア、私は人形……人間の創った戦いの道具……事実は変わらないから……」

 自分を哀れむでもなく淡々と語るサイサリスを怒鳴りつけたいユリィだったが、そんな事に意味はないと分かるからぐっと堪える。 代わりに勇矢に視線を移して様子を伺うと、彼は困惑した表情でサイサリスを見つめていた。

 「……すまない、少し頭を整理する時間をくれないか?」

 ユリィの視線に気がついた勇矢は彼女が答えを求めていることを察したのだろう、そう言った。

 「……そうだな」

 思ったよりは平静を保っているように見える勇矢に少しほっとしながら、ユリィは答えた。





 宿屋の傍にはちょっとした広場があり、勇矢はそこで夜空を見上げながら考えていた。 ずいぶんと時間が経った気はするが答えも出せずに戻ろうという気にはなれない。

 戦闘用自動人形オートマタ――勇矢の世界で言えばゲームなどにある戦闘用少女型のロボットになるのだろうが、実際にそういう存在を目の前にすれば、そこが異世界であると分かっても信じられない。 自立した思考を持ち人間に比べれば微々たるものだが感情のようなものも伺えるロボットなど実際には製作など不可能だと思っていた、少なくとも自分の生きている間のテクノロジーでは創れないだろうと考えていたのだから。 

 「……アインはサイサリスさんが戦闘用魔導人形オートマタだって知ってたのか?」

 『……はい、でも……』

 「分かっているよ、昨日今日彼女にあった人間が気軽に知っていいような話しでもないんだからな」

 騙されたとか秘密にされてい事を起こる気はない、誰にだって事情があるには当然だという考え方をするのは、実生活の経験もあるしゲームなのどキャラが似たような状況で相手の事情も考えずに憤慨するのを嫌なことだと感じていたからも少しはある。

 結局問題なのはサイサリスとどう接していけばいいのかという事である、もちろん道具扱いなどする気はないが、普通の女の子として接してサイサリスが喜ぶというのかどうかは疑問だ。

 勇矢個人の感情を抜きにして客観的に見れば、戦闘兵器は戦闘兵器である事が存在意義であり、それらから戦闘という行為を取り上げるのはその存在を否定するに等しい。 それは自立した人格を持つロボットも同じで、人工生命体である彼らは人から命令され人のために働くために存在するのであり、ヒューマンフォーム・タイプだからとつまらない感情移入は彼らの存在を侮辱する事にもなりかねないのだ。

 異世界という場所で、更にヒトに似せてヒトとはまったく異なる存在サイサリス・リーチェ。 ゲームなどではそんな事も愛の前には関係ないといわんばかりに恋人関係にもなるものだが、現実には、少なくとも勇矢にしてみればそんな簡単な問題ではないという事実が立ちふさがる。

 言うまでもないが、勇矢はサイサリスとは恋人になりたいわけではない。 自分を助けてくれる恩人として、共に旅する仲間としての付き合い方を模索しているのだ。

 「……はぁ…………ん?」

 再び空を見上げると、そこには勇矢を見下ろす蒼い澄んだ瞳があり、思わず「どわっ!?」と声を上げてしまう。 

 「ちょっと! こんな可愛い女の子の顔を見て”どわっ!?”って何よ!!」

 「……エ、エターナルさん!?」

 「そだよ~♪」

 おそらく魔法で浮いていたのだろうエターナルは、笑いながら着地した。 勇矢はまだドキドキしている心臓を落ち着かせようと深呼吸してから「いったい、何なんですか!?」と訪ねる。

 「ん? 何かこの辺に悩み多き男の子がいる予感がしてちょっと来てみたのよ」

 「……何なんですか、それ?」

 エターナルはそれには答えずに優しい笑みを勇矢に向けている、まるで勇矢が何を悩んでいるかをすでに知っていて、それを言い出すのを待っているかのような、そんな笑顔だ。

 幼く無邪気な子供のようでいて、すべてを包み込むような慈愛に満ちた母のようなエターナル。 そのエターナルを見ていると彼女に相談すればすぐにでも解決するような錯覚を覚えて、気がつくと口を開いていた。

 「……成程ねぇ~? でもさ、それってそんなに悩む事なのかな?」

 「……え?」

 「勇矢にとってサイサリスは何なのかなぁ?」

 「何なのって……」

 さっきも考えたが、恩人であり仲間でもある、更に言えば友人にもなりたいと思うと伝えるとエターナルは「ね?」と微笑んだ。

 「あの子を誰がどんな目的で生み出したなんて君にはどうでもいいでしょう? サイサリスは今この時代に生きていてあの子の周りにはユリィやルミーア、そして君がいる……それだけの事でしょう?」

 エターナルの言ってる事がいまいち理解できずにキョトンとしていると、エターナルは「う~ん?」と考えてから言った。

 「そうだねぇ? 例えば君に妹がいたとして、ある日その子が実は血が繋がっていないって分かったらどう思うかな?」

 どうも何もない、勇矢には妹はいないが、それでも血の繋がりなんて関係なく兄妹として過ごしてきた時間になんの偽りもなく、妹、つまり大事な家族である事は揺るがないだろう。

 「……あ!」

 「そういう事だよ勇矢、サイサリスがどんな存在かなんてどうでもいいでしょう? 君が仲間だと思うなら君にとってあの子は仲間であって、そうでしかないんだよ?」

 「……でも、それをサイサリスさんが望むのかな?」

 そもそもはそこを問題と思っていたのが、しかしエターナルは意外そうな顔をして言った。

 「それこそどうーでもいいでしょう~♪」

 「……へ?」

 「君が仲間とか友達と思ったくらいでサイサリスに迷惑がかかるわけでもないんだしさ、だったら君の好きなようにすればいいじゃん?」

 聞きようによってはとんでもない無責任な事を言っているように聞こえるが、それでも何故か納得出来た。 誰かと友達になろとすればまず自分が相手を友達と思うことが始まりであり、相手に気持ちは問題でないのかも知れない。

 そう思いついてしまうと、先ほどまでうじうじと悩んでいたのが馬鹿らしくなった。

 『へぇ、エターナル様も偶にはいい事をいいますねぇ……』

 『……確かに』

 「ちょっと! アインにツヴァイ! 偶にはって何よ、偶にはって!!!」

 「……エターナルさん」

 「ん?」

 勇矢はしっかりとエターナルの目を見据えながら、軽く頭を下げる。

 「助かりました、ありがとう」

 そう言うとエターナルに背を向けて走り出した、先ほどまでの思い気持ちが嘘のように心が軽くなったのを自覚しながら、サイサリスに今の自分の気持ちを言わなければいけないと思いながら宿に向かって走る。

 そも勇矢の後姿を見送りながらエターナルはやれやれという顔で呟いた。

 「これが、若さかなぁ~♪」

 


  戦闘用魔導人形オートマタであっても睡眠、というか機能休止スリープは必要としても、毎晩ある必要はないのは彼女が戦闘用であるゆえだがこの時代に目覚めてからは人間に不信感を抱かせないために毎晩睡眠をとるという人間の真似を習慣づけていた。

 だが、今日はまだ機能を休止させないのは勇矢が戻って来るのを待っていたからである。 彼が戻って来ればいろいろと言いたい事もあるだろうから明日の出発の前には懸念材料は片付けておいた方が効率がいいという判断である。

 「……左腕部の修復完了を確認……来た」

 ブルー・ベア戦で損傷した左腕の自己修復による修復状況を確認した時、戦闘用の優れた集音能力は勇矢の足音を捉えた、そして扉が開き勇矢が入ってくる。

 「……まだ起きていてくれたんだ、助かったよ」

 「……あなたは私に話があるだろうと思ったから」

 「そうか、なら言うよ?」

 サイサリスは黙って頷く、正直言って彼が自分をどう扱おうと関係ない。 ヒトによってヒトと戦い倒すために創られた自分はヒトの命令に従って自己の判断で最適に行動するだけだ。 だから、人間の振りをして生活しているのも自分を目覚めさせたカーマイン・グローランスの「普通の女の子として生きなさい」という命令・・を忠実に守っているに過ぎない。

 「サイサリスさん、明日からもよろしく頼むよ?」

 「……え?」

 「それだけだよ。 じゃあ、おやすみ」

 それだけ言うとさっさと自分のベッドに入ろうとする勇矢に戸惑い、つい呼び止めていた。

 「……それはどういう事なの? 命令?」

 「違うよ、仲間として、友達になりたいなって思う男として宜しくねって意味だよ」

 「…………」

 そして今度こそベッドに入り込む、何か言おうと思いながらも何も言葉が出てこず、やがて勇矢の静かな寝息が聞こえれば眠ってしまったんだなと諦める。

 ”友達”という言葉は情報としてサイサリスの頭脳にも入っている、だから友達になりましょうというルミーアやユリィの命令・・通りに友達として接してきた。 しかし勇矢は「友達になりたいと思う」と言った、その曖昧な言葉をサイサリスはどう解釈していいのか分からなかった。

 「……あなたは、私に命令しないの……?」

 そのサイサリスの疑問に、すでに眠りの世界に落ちている勇矢が答える事はなかった。

 


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