↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sランク冒険者が推し活したらパパ活だった  作者: ヒナツキスバル
第三章 疑惑の鎖を渡る鼠
PR
21/28

再会

 ――少し前。


まりな、ユキ、ひかりの三人は、暗い倉庫の床に転がされていた。


両手も、両足も、きつくロープで縛られている。口には猿ぐつわまで噛まされ、立ち上がることすらできない。


「………」

まりながどうにか身体を動かそうとしても、ロープが手首へ食い込むだけだった。


すぐ近くから、ユキの浅い呼吸が聞こえる。


ひかりは床へ横たわったまま、静かに周囲の気配を探っていた。


拘束そのものを解くだけなら難しくない。

だが、外に何人いるのか分からない。どこに人がいるのかも分からない。

ここで力を使って騒ぎになった時、まりなとユキまで確実に守れるか。

それが分からなかった。


三人とも確実にここから出られる瞬間まで待つ。

ひかりはそう判断していた。



しばらくして、倉庫の外から女性の声が聞こえてきた。


「で? 問題の女子高生はどこ?」

「倉庫で『ゆっくり』してもらってます」

「そう……イケそうな子たちなの?」

「三人ともなかなかじゃないですか? 一人は相当、先方が喜びそうなルックスですよ」


ユキの身体が小さく震えた。

「急いで迎えに来てくれるように依頼したから……それまではここで待機してもらって」

「………!」


迎え。

どこかへ連れて行かれる。

そう理解した瞬間、まりなは身体を必死に捻りながら少しずつ壁際へ寄っていった。


そして、

――ガン!

縛られた両脚を持ち上げ、渾身の力で壁を蹴る。

――ガン! ガン!

何度も、何度も。


「……何?」

「おいコラ! うるせえぞ!」

それでもまりなは止めなかった。


――ガン!

その時、事務所の入口からインターホンの音が響いた。

「迎えかしら。早かったわね」


少しして。


「はい……」


「えーっ!? ソウくん? ちょっと待ってね」


「………!」

聞き覚えのある名前に、まりなの目が見開かれる。

――ソウくん?


「ちょっと。壁蹴ってる子、静かにさせて」

「うっす」


足音が近づいてくる。


倉庫のドアが開き、外の光が差し込んだ。

厳つい男が一人、倉庫へ入ってくる。

「お前か」

「……っ」


男は壁際にいたまりなへ歩み寄ると、襟首を掴んで身体を起こした。


そして、その頬を叩く。

――パァン。


「……ううっ!」

「静かにしてねーと、痛い目見るぞ」


そのまままりなを床へ乱暴に転がした。。


「………っ」

ユキの猿ぐつわの奥から、押し殺した泣き声が漏れた。


ひかりはその様子をじっと見ていた。

その目には、はっきりと怒りが浮かんでいる。

だが、まだ動かない。

今ここでこの男一人を倒しても、外には他にもいる。


三人で確実に出る。

それまでは。


「ったく……」

男は吐き捨てるように言い、倉庫を出ていった。

ドアが閉まり、再び辺りが暗くなる。


「………」

まりなの頬がじんじんと痛んだ。


すぐ近くから、ユキが必死に泣くのを堪える声が聞こえる。

それを聞いていると、自分まで泣きたくなってくる。


その時だった。

ふわり、と空気が動いた。


「………?」

すぐ隣に誰かの気配がある。

「まりな」

「………!?」


囁くような声。

いつの間にか、ひかりは拘束から抜け出していた。

まりなの目が大きく見開かれる。


ひかりはまりなのそばへ膝をつき、叩かれた頬へ柔らかく冷たい手を添えた。


「何も心配しなくていいわ」

指先に、淡い白金色の光が灯る。

その光が、まりなの頬へゆっくりと染み込んでいく。

じんじんとしていた痛みが薄れ、熱を持っていた頬から腫れまで引いていった。


「………!?」

「……聴こえる?」

まりなは目だけを動かす。

「誰か、助けが来たみたい」


壁の向こう。

遠くから、先ほどの女の明るい声が聞こえる。

そして、その中に若い男の声が混じった。


くぐもっていて、内容までは分からない。

けれど。


まりなには、その声に聞き覚えがあった。


――やっぱり、秋山パイセン?

どうしてここに。


「まりな。お願いがあるの」

「………?」

「もう一度、壁を蹴って」

「!?」


次の瞬間、ひかりの指先から白金色の光が伸びる。


まりなの手首へ触れると、きつく食い込んでいたロープが音もなくほどけていった。

足首の拘束も。

猿ぐつわも。

まるで最初から結ばれていなかったかのように、するりと床へ落ちる。


「………」

口が自由になった。

「ひかり、何これ!?」


少し離れた場所では、ユキの拘束も同じように解けていた。

「え……?」

ユキは自分の手首を見つめる。

「何……これ……?」


「説明はあとでします」

「いやでも――」

「まりな」

ひかりがまっすぐ見つめる。


「とにかく、壁を蹴って」

「………」

「味方に、私たちの居場所を知らせるの」

「……分かった!」


まりなは立ち上がり、壁へ向かった。

そして思い切り蹴る。


――ガン!!

もう一度。

――ガン! ガン!

「ここ!! ここにいるから!!」


ユキがまた泣きそうな顔でまりなを見る。

「まりな……!」

また男たちが怒鳴り込んでくるかと思った。


だが、しばらくして聞こえてきたのは別の音だった。


何かが激しくぶつかる音。


男の怒号。


そして、

「うわああああっ!?」


「な、何……?」

「なんか……ケンカしてるケド」

「………」


ひかりは壁の向こうへ顔を向ける。

くぐもった声。

男。

女。

何人かいる。

その中に、一瞬だけ低い男の声が混ざった。


「………?」

知っているような。

そんなはずはないような。

「……まさか」


「え?」

だが、確信はできない。


その直後だった。

「先にミキちゃんを返してください!」


「!」

まりなが顔を上げる。

「パイセン……!」


外から足音が近づいてくる。

一人。こちらへ向かっている。


まりなは反射的に倉庫のドアへ身体を向けた。


だが、ひかりのほうが一歩速かった。


「………」


ひかりはドアの前へ立つ。


一瞬だけ耳を澄ませる。

そして躊躇なくドアノブを掴んだ。



――ガチャッ。


◇


倉庫のドアが、内側から勢いよく開いた。

眩しい光に、まりなは思わず目を細める。


ひかりは迷うことなく外へ出た。


すぐ目の前には、ソウシがいた。


「……え?」

ひかりは一瞬その顔を見る。


だが、そのまま脇を通り過ぎた。


視線は、もっと奥へ向いていた。


そこには、

スーツ姿の黒髪の男。


片手でライフクリエイトの社員の襟首を掴み、壁際へ吊り上げている。


ひかりの瞳が、大きく見開かれた。

レンもまた、ひかりを見る。


二人の視線が交差した。


一瞬、時間が止まったようだった。


次の瞬間。



「レナード・ローレンス!!」

倉庫から出てきた小柄な女子高生とは思えないほど、低く、強く、威厳すら感じさせる声が事務所に響き渡った。


「………!」


ひかりはレンへ向かって歩く。

「あなたは……」


その表情には驚きと安堵。

そして、それ以上の呆れと怒りが浮かんでいた。

「いったい、こんな所で何をやっているのです!?」


レンの手から、社員の襟首がわずかに緩む。


「………」


信じられないものを見るように、目の前の少女を見つめる。


「お前は……」


「ルシエラ……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。