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Sランク冒険者が推し活したらパパ活だった  作者: ヒナツキスバル
第三章 疑惑の鎖を渡る鼠
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喋り方が全然違うんだけど!?

 夕方。


レンはスーツ姿で、これから外出する杏奈へ付き添う準備をしていた。


その時だった。


手元のスマートフォンから、今まで聞いたことのない通知音が鳴る。


「………?」

レンは画面を見た。

見慣れない表示が出ている。


何を意味しているのか分からず、そのまま固まっていると、隣にいた杏奈が画面を覗き込んだ。

「ソウくんから音声通話じゃん。出れば?」

「音声通話?」

「電話みたいなもん。ほら、ここ押すの」


杏奈が通話アイコンをタップする。

『もしもし? レン?』

スマートフォンのどこか遠くから、聞き慣れたソウシの声がした。


「………?」

レンは眉を寄せる。


「……ここ押すとスピーカーになるから」

杏奈がさらに画面を操作した。

「そうか」

レンはスマートフォンを正面から見つめたまま口を開く。


「……ソウシ、聞こえるか」

『ああ、レン! よかった。やっと通じた』

「だから、そこじゃなくてここに向かって話せばいいの。画面見てても声入んないから!」


『………今の誰?』

「杏奈だが」

『……声が全然違うんだけど!!!』

「いつものことだ」


「……ちょっと、あんたたち失礼すぎない?」


レンは気にした様子もなく、スマートフォンへ向き直った。

「それよりも、この手段での連絡は初めてだな。何か火急の用事か」

『はっ、そうだ。そうなんだ』

ソウシの声色が変わった。


『実は、ミキちゃんがいなくなった。連絡が取れない』

レンの表情が引き締まる。

「……あの戦士の少女か」

『だから戦士じゃないからね? って、あー、今それはどうでもいい!』

間髪入れずに訂正したソウシが、そのまま早口に続ける。


『とにかくミキちゃんがバイトに来てなくて、店長が連絡しても繋がらない。俺も電話してみたけど出ないんだ』

「………」

『結論から言うけど、俺はミキちゃん…三木まりなが「ライフクリエイト」の池袋事務所にいるんじゃないかと思って、今そこに向かってる』


そこで一度、ソウシが息を吸う。

『レン。一緒に来てほしいんだ』


「……そこにいるという根拠があるのか?」

『前に話しただろ。あの子の学校で「あーにゃんの紹介」ってパパ活の勧誘が回ってるって』

「……ああ」


『ミキちゃん自身も声掛けられてたんだ。だから、もしかしたらって思ってヒロナリに聞いた。そしたらヒロナリが、昔の事務所にライフクリエイトの名刺持ってて』

「……待て。ライフクリエイトとは?」

『あーにゃん……安西杏奈の会社だよ』


レンはゆっくりと隣を見る。


「………」

杏奈も眉を寄せていた。

「……ちょっと色々言いたいんだけど、とりあえず続けて」


『…ヒロナリが言うには、今回のやり方は前の「本部」に似てるって』

「本部?」

『闇バイトの時に、レンと俺が関わった連中』

ソウシは杏奈にも分かるよう、簡潔に説明を続ける。

『人を大量に集めて、末端には全体を教えない。使える奴だけ次の仕事に回して、上に誰がいるのか分からないようにする』

「………」

『ヒロナリは、ライフクリエイトの中にそいつらが入り込んでる可能性があるって』


杏奈の表情が険しくなる。


『それと……名刺がもう一枚あった』

「誰だ」

『マネージャーの名刺』


『佐倉のぞみ』

「……のぞみ?」

杏奈が明らかに反応した。


『レン。前に話したnezumiって覚えてる?』


「配信で、俺のことを知っていた者か」

『そう』


そこでソウシは、今度は杏奈へ説明するように言葉を続けた。


『nezumiのことはあーにゃんも知ってるよね?』

「………」

『あいつ、レンが配信に出る前から、レンとあーにゃんが一緒にいることを知っているかのようなコメントを残してる』


「……は?」


『あの時、そのことを知ってた人間は限られてた。俺とレン、それにあーにゃん本人を除けば、あの日部屋にいたスタッフ三人くらいしかいない』


「……女性マネージャー、男性スタッフ、撮影をしていた男だったな」

『うん』


 短い沈黙。


『その一人が、佐倉のぞみだった』

杏奈の目つきが変わった。

「……ちょっと貸して」

レンの手からスマートフォンを取り上げ、そのままマイクへ顔を寄せる。


「ソウくん。最初からちゃんと話して。のぞみが何?」

『…………あーにゃん?』

「安西杏奈。今それどうでもいいから」

『いや俺には結構どうでもよくないんだけど!?』

「三木まりなが消えてんでしょ。早く」

『……うん』


ソウシも気を取り直したようだった。


『ヒロナリが言うには、あーにゃんは高校生にまで話を広めて、大量に集めるみたいなやり方はしないんじゃないかって』


「あのデブ、よく分かってるじゃん」

杏奈の声が低くなる。

「あたしは未成年者は紹介しないよ」


そこで、少し呆気にとられたように間を置いた。


「っていうか、あの黒ギャルちゃん高校生だったの?」

『高校二年生だよ!』

「……マジか」


『それで……ストーカーの話と、三木さんが消えた件が繋がってるかは分からない。今この場で全部は説明できないんだけど……』


ソウシがさらに事情を説明しようとする。

だが、杏奈にはもう電話越しに一つずつ確認している時間すら惜しく思えた。


「……まあいいわ」

『え?』

「とにかく、これからすぐ行く」

『え? あーにゃんも?』

「当たり前でしょ。あたしの会社だし」


『………』

「その代わり」

杏奈の声が一段低くなる。

「聞きたいこと山ほどあるから、あとで直接聞かせてもらうからね。ソウくん」


『……はい』


杏奈はそのまま通話を切った。


「……行くのか」

「行く」

迷いのない返事だった。


「タクシーもう来るから。そのまま西池袋に向かうわ」

「分かった」


二人はそのまま玄関へ向かった。



通話が切れたあと。


池袋西口方面を歩いていたソウシは、しばらくスマートフォンを見つめていた。


「………」


三木さんが危ない。

ライフクリエイト。

本部。

佐倉のぞみ。

nezumi。


考えなければならないことは山ほどある。

それなのに。


「……あーにゃん、あんな喋り方なんだ……」


知識としては分かっていた。

配信中の『あーにゃん』が作ったキャラクターであることも。


それでも、何年も画面越しに見てきた推しの素の声と喋り方を、こうして真正面から聞かされると衝撃が大きい。


「………」

数秒、放心する。

そして我に返った。


「いや今それどころじゃない!」


ソウシはスマートフォンを握り直した。

そのまま西池袋へ向かう足を、さらに速めた。

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