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Sランク冒険者が推し活したらパパ活だった  作者: ヒナツキスバル
第三章 疑惑の鎖を渡る鼠
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17/21

エルフに会えると聞いて

 昼休み。


校内の廊下を一人で歩いていたひかりは、後ろから軽く肩を叩かれて振り返った。


「ひかりちゃん♡」

「……あ……」


そこにはユキが立っていた。

ユキは親しげな笑顔を浮かべると、そのままひかりの腕へ自分の腕を絡ませる。


「ごめんね、この前は途中で邪魔入っちゃって……」

「………」

「まりなも何か勘違いしてるっていうかさ。ちゃんとお話したいから、もう一回説明させて?」


ひかりの頭に、以前のやり取りが蘇る。

ユキとの会話へ強い口調で割って入ったまりな。


そして、そのあと自分へ言った言葉。


『あーいうのについてっちゃダメだよ?』


「ほんとに怖い話じゃないんだって。あーにゃんの紹介は身元がしっかりしたパパばっかりだから安心だし」

「ぱぱ……」


また知らない使われ方をしている言葉が出てきた。

だがユキは気にする様子もなく話を続ける。


「ホントにごはんだけで2もらえるの。しかも誰か紹介すると、そのぶんのバックもあるし」

「………」

「それに、特にカワイイ子にはもっと高額な案件もあるんだって。ひかりちゃん絶対イケるから!」


『2』

『バック』

『案件』


またしても、ひかりには意味のよく分からない単語が次々と並ぶ。

何を指しているのかまでは理解できない。


だが、まりながあれほど警戒していた以上、安易について行くべき話ではないことくらいは分かっていた。


「あの……わたし、そういう話はもう……」

「だーからぁ! そういう怖い話じゃないんだって」


ユキはすぐにスマートフォンを取り出した。


「あーにゃん知ってるよね。あーにゃん。この人!」

画面へ表示されたのは、配信用の衣装を身につけたあーにゃんだった。

森をイメージした背景の中で、長い耳をつけた『森のエルフ』姿の杏奈が笑っている。


「………」

ひかりの目が、そこで止まった。


「……これは……」

「ん?」

「エルフ……?」


「ああ、コスプレイヤーなんだよね、あーにゃん」

ユキは特に興味もなさそうに画面を見る。

「よく知らないけど、そういうキャラらしいよ」

「………」


ひかりの中で、それまで聞き流しかけていた話の意味が一変した。

――エルフ。

元の世界にも存在していた種族。

もし、この世界にも本物のエルフがいるのなら。

自分以外にも、あちらの世界から来た者がいるのなら。


レンや仲間たちの手がかりになるかもしれない。

あるいは、元の世界へ戻る方法すら知っている可能性がある。


「……この方に、会えるのですか?」

「え?」

先ほどまで断ろうとしていたひかりが急に食いついたため、ユキが目を瞬かせた。


だが、すぐに笑顔へ戻る。

「会える時もあるよ! 池袋の事務所に行けば」

「池袋……」

「ひかりちゃんカワイイから、あーにゃん会ってくれるかも!」


ユキはさらに嬉しそうに腕へ抱きついた。

「ねえ、行こうよ!」

ひかりはしばらく黙ったまま、画面の中の『森のエルフ』を見つめていた。


まりなの忠告も覚えている。

この誘いが、よく分からないものであることも分かっている。


それでも。

――この世界にもエルフがいるなら。

確かめたい。


「……分かりました」

「ホントに!?♡」


ユキの顔がぱっと輝く。

「ありがとう、ひかりちゃん!」


そのまま嬉しそうに抱きつかれ、ひかりは少し困った顔をしながらも拒まなかった。



放課後。


まりなは教室で帰り支度をしていた。

ふと視界の端に、鞄を持ったひかりの姿が入る。


「………」

まりなは少しだけ迷った。

――……たまには、遊びに行こって誘ってみよーかな。

普段、自分から誰かを誘うタイプでもないひかり。

この前の一件もあり、何となく気になっていた。


まりなが声をかけようとした、その時だった。

先にひかりへ近づいていく人物がいる。


「………」 

まりなの目が細くなった。


「……ユキ?」

昼間、ユキが再びひかりへ接触していたことをまりなは知らない。

だがユキは親しげに声をかけ、そのままひかりと一緒に教室を出ていった。


ひかりも拒む様子がない。

「………」


嫌な予感がした。


――ひかりが、ユキの説得に折れた?

すぐに首を振る。

――そんなわけないよね。

この前、あれだけ警戒していた。

何か理由があるはずだ。


それでも、ユキがひかりをどこへ連れて行こうとしているのかは分からない。


このまま見失うほうがまずい。

まりなは鞄を掴んだ。

――とりあえず、どこ行くか確認しよ。


場所が分かったら、秋本パイセンへ連絡すればいい。

危ない場所なら一人で入らず、誰かを呼ぶ。

そのつもりだった。


「……ったく」

小さく吐き捨てる。

「なんでまた、あいつと一緒に行ってんの……」


まりなは教室を飛び出し、ひかりとユキの姿を見失わないよう二人の後を追った。



 ユキとひかりは、池袋駅西口方面を並んで歩いていた。

その少し後ろを、まりなが一定の距離を保ちながら追っていく。


それにしても。

まりなの脳裏に、先日ひかりと話した時のやり取りが浮かんだ。


『じゃーね! マジ変なのについてかないでよ?』

『うん。まりなも』

『ウチは大丈夫だって!』

『……そういう人の方が心配だって、聞いたことある』

『なにそれ!』


あのひかりが、またユキの同じような誘いに乗ったとは考えにくい。

――……何があったの、ひかり。


「ったく、ウチはコナンくんじゃねーっつーの」

小さくぼやきながら、二人の背中を追う。


――場所分かったら、パイセンに連絡しよ。

頭に浮かんだのは、頼りになると断言していいのか微妙な、ソウシのゆるい顔だった。


やがて二人は、西池袋公園近くにある雑居ビルへ入っていく。


「………」

まりなは入口の前でスマートフォンを取り出しかけた。

「パイセンに連絡……」


しかし、ユキとひかりの姿はすでに階段の先へ消えている。


「ダメだ。何階か分かんなくなっちゃう……」

スマートフォンを握りしめる。

――場所だけ確認して、それから。

いざとなったら電話すればいい。


「……行くしかない!」

意を決し、まりなもビルの中へ入っていった。



 ユキとひかりが入った『ライフクリエイト』の事務所は、想像していたよりも小綺麗だった。


二人を最初に出迎えたのは、細身で整ったスーツ姿の男だった。営業職のような柔らかい笑顔を浮かべている。

その後ろから、やや厳つい体格をした別のスーツ姿の男が現れた。


二人は入り口すぐ近くの応接スペースに座るよう促される。


「ユキちゃん、お疲れ。こっちが言ってた子?」

「そうです♡ ひかりちゃん。めっちゃ可愛くないですか?」

「へえ……写真より全然いいじゃん」


細身の男は、ひかりを上から下まで眺める。

笑顔は崩していない。

だが、値踏みするような視線に、ひかりはわずかな居心地の悪さを覚えた。


「……あの」

「緊張しなくていいよ。今日はちょっと話するだけだから」

「こちらに、エルフの方がいらっしゃると聞いたのですが」


「………」

「………」

二人の男が、同時に黙った。


「あっ、ほら。あーにゃんのこと! ひかりちゃんちょっと天然なんですよぉ」


「ああ……うん。あーにゃんね」


男はそれ以上あーにゃんについて説明することなく、すぐ別の話へ移った。


「ひかりちゃんはさ、普通の食事会より、もっと条件いい話いけると思うんだよね」

「え、もっといい案件あるんですか?」

「あるある。向こうがかなり出すから」

「向こう?」


厳つい男が短く答える。

「海外」


「……え?」

ユキの表情から笑顔が消えた。

「海外って……旅行みたいな感じ?」

「まあ、そんな感じ。全部向こう持ちだし、普通じゃ会えないような人にも会えるし。いいでしょ?」


「でも……ひかりちゃん高校生ですよ?」

「だからいいんじゃん」

張りついた笑顔のまま、細身の男の口角がさらに上がった。


ユキの顔色が変わる。

――どうしよう。

――大変なことになっちゃった。


肩が小さく震え始める。

だが、そんなユキの心情など知らないひかりは、相変わらず落ち着いた様子で男へ尋ねた。


「エルフの方は、どちらに?」

「それはあとでね。まずこっちの話聞いて」

ユキが耐えきれず、立ち上がろうとした。


「待って。あたし、こんな話聞いてないんだけど」

「お前は連れてくればいいって、ちゃんと言われてんだろ」

「あたしは先輩から、紹介したらバックがあるって聞いただけ!」

「のぞみさんの下の奴だろ?」

「おい」


細身の男の表情が一瞬で凍りつく。

だが、厳つい男は気づかないまま続けた。

「だって、のぞみさんから『条件いい子探すように指示しといたから、出物があり次第こっちに回せ』って――」

「だから余計なこと言うなって」


そこでようやく、男は口を閉じた。


「……待って」

ユキの声が震える。


「あーにゃんの紹介じゃないの?」

「だから同じようなもんだって」

「同じじゃないよ!」

「今さら何言ってんだよ。紹介料欲しくて連れてきたの、お前だろ」


「違う……」

ユキの目に涙が浮かぶ。

「ウソだよ……こんなの聞いてない」

とうとう泣き出した。


ユキにとっては、安全な食事会へ友人を紹介すれば紹介料が入る、その程度の認識だった。

女子高生を海外の人間へ引き渡す話など、一度も聞いていない。

自分もまた、上の人間から都合よく使われていた。



 男たちとユキの言い争いを、ひかりは取り乱すことなく聞いていた。

そして静かに口を開く。


「では、この方々はエルフではないのですね」

「ひかりちゃん今そこ!?」

「でしたら、帰ります」

ひかりが立ち上がる。


細身の男がすぐに腕を掴んだ。

「いや、もうちょっといてよ」


ひかりは掴まれた自分の腕を見る。

「わたしの方は用はありませんので」


男の笑顔が消えた。

「……そういうわけにもいかないんだよね」


その時だった。

事務所のドアが勢いよく開く。


「ひかり!」

「……まりな」

「まりな!?」

「やっぱり! 何してんのあんた!」


泣いているユキ。

ひかりの腕を掴んでいる男。


そして室内に漂う、明らかに普通ではない空気。


まりなは一目で状況を察した。


「……もう一人増えたぞ」

「高校生?」

「は?」


厳つい男がスマートフォンを取り出す。

「……のぞみさんに聞くか」


まりながひかりのもとへ行こうとしたところで、細身の男が前へ出た。


肩へ手を添え、そのまま座らせようとする。

まりなは即座にその手を振り払った。


「触んじゃねーよ!」

「おお、元気な黒ギャルちゃんだね」

「うるせー!」


その時、厳つい男のスマートフォンに返信が届いた。

「返事きた」

画面を確認する。


「今夜中に引き渡しの段取りつけるから、三人とも縛って事務所に置いとけって」


「……!」

「は……?」


二人の男が立ち上がる。

「抵抗しないでね。痛いことしたくないからさ」


「ふざけんな! 警察呼ぶから!」

まりなは即座にスマートフォンを取り出そうとした。

だが男に手を打ち据えられ、スマートフォンが床へ落ちる。


すぐに拾い上げられ、そのまま取り上げられた。

「くっ……!」


まりなが抵抗しようと身構える。


その時。


「……まりな」

「……?」

ひかりが、すぐそばから小さな声で呼んだ。


まりなの耳元へ顔を寄せる。

「大丈夫だから……言うとおりにして」

「どういうこと……」

「わたしがなんとかするから」

「………」


ひかりの顔には、不思議なほど恐怖の色がなかった。

むしろ男たちの動きを、静かに観察している。

まりなには、その理由が分からない。


だがここで暴れれば、ユキまで巻き込まれる。

まりなは歯を食いしばり、一旦抵抗を止めた。


やがてユキ、ひかり、まりなの三人は手足を拘束された。


声を上げられないよう猿ぐつわを噛まされ、そのまま事務所奥の倉庫へ押し込められる。


扉が閉まった。


まりなは、ソウシへ連絡できないまま。

そして拘束されたひかりだけが、最後まで妙に落ち着いた表情を崩していなかった。

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