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Sランク冒険者が推し活したらパパ活だった  作者: ヒナツキスバル
第二章 ごはんを食べるだけ
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12/24

『推し』と『好きな子』

その頃。


家でだらだらと勉強していたソウシのスマートフォンが振動した。


何気なく画面を見て、送り主の名前を確認した瞬間、猫背だった背筋が少しだけ伸びる。


「……ミキちゃんだ」


だいたいこの時間に連絡が来るときは、バイトのシフト変更のお願いだ。

それでも、ミキちゃんから頼られたという事実だけで、何となく気分が浮き立つ。


ソウシはすぐにメッセージ画面を開いた。


『パイセン』


間髪入れず、もう一通届く。


『いまでんわしてもいいですか』


「!?!?!?」

ソウシは椅子からバネのように跳ね上がった。

「えっ、えっ、どういうこと?」

スマートフォンを持ったまま部屋の中をうろうろする。


「てかこれ、どうしたら良いんだ? 良いよって送る? こっちから掛ければいいの?」


散々悩んだ末、


『いいよ。こっちから掛けるね』

と送った。


既読がつく。


ミキちゃんと電話。

ミキちゃんと電話……。


何があったのかよりも、その事実ばかりが頭の中をぐるぐる回る。


ソウシは一度深呼吸してから、通話ボタンを押した。


コール音が二つ鳴るより先に、電話が繋がる。


『はぁい』

それだけで心臓が跳ねた。


「も、もしもし、秋山だけど……」

電波のラグなのか、向こうが歩いているのか、少しごそごそとした音が聞こえる。


やがてミキちゃんの声がした。

『もお……ウチ、色々あってよくわかんなくなっちゃって』

「え?」

『なんかうまく説明できなくって、電話にしちゃった。ごめんなさい』


……え、なんかわかんないけどかわいい。

思わず口元が緩みそうになる。


だが声には出さないよう、ソウシは必死に平静を装った。

「いやいや、いいんだけど。何かあったの?」


『……パイセン、これ聞いてショックうけない?』

「……え? ……俺? いや、聞いてみないとわかんないけど」

『最初にいっとくけど、全部ホントのはなしだかんね』

「う、うん」


『今、ウチのガッコで「あーにゃんの紹介でごはん食べに行く」っていうパパ活? みたいのが回ってんの』

「え………?」

ソウシの表情が止まった。


『それで、今日ウチ友達に欠員が出てどーしてもって頼まれて飲み会行ったら、あーにゃんと勇者くんが居て……』


ミキちゃんは少し言葉に詰まる。


『それで……色々言われたけど……あー……なんかもうわかんない……』


ソウシの時間が止まった。


信じたくない。

何かの間違いであってほしい。

あーにゃんは、ずっと憧れてきた人だった。

配信を追いかけ、コメントを書き、画面越しの姿に何度も励まされてきた。


本人に会えたときなど、まともに頭が回らなくなるほど舞い上がった。

そのあーにゃんが、パパ活のようなことに関わっている。

すぐには受け入れられない。


けれど。

会場にはレンもいたという。

そして何より――ミキちゃんは、こんなことで嘘をつく子ではない。

もっと詳しく聞かなければならない。


それ以上に、いつもならもっと歯切れよく話すミキちゃんが、明らかに混乱していることのほうが気になった。


「ちょ、ちょっと待って」

『ん?』

「三木さん、今何処にいるの」

『ジュンク堂のまねきの前』


ソウシはすぐに頭の中で位置関係を思い浮かべた。

「直接話聞きたいんだけど、南池袋公園まで戻れる?」

『バ先の前の公園?』

「そう、俺、今から行くから。そこで待っててくれる?」


少し間があった。

『……わかった』

「……じゃあ、一回切るね」


電話を切る。

ソウシは机の上の参考書もノートもそのままにして立ち上がった。


長袖のTシャツの上へ、上着代わりのパーカーを引っ掛ける。

玄関を飛び出した。


………ミキちゃんが待ってる。


◇



夜の池袋を走り、ようやく南池袋公園の前までたどり着いた頃には、すっかり息が上がっていた。


「はぁ……はぁ……」

ソウシは肩で息をしながら、辺りを見回した。


少し向こうに、ワンピース姿の女性の後ろ姿が見える。


一瞬、それが誰なのか分からなかった。


ソウシの頭に浮かぶミキちゃんといえば、コンビニの制服姿か、仕事中に髪をまとめている姿ばかりだったからだ。


黒のオフショルダーニットワンピース。

肩を大きく出した、大人っぽいデザインだった。

緩めに巻かれた髪は片側へ流され、耳元では大きなフープの耳飾りが揺れている。

いつもの平成ギャルらしさはそのままに、今日はどこか上品な、大人っぽい雰囲気があった。


その女性がこちらに気づき、振り返る。

「……パイセン」


ミキちゃんだった。


――うわぁぁぁぁ、滅茶苦茶綺麗じゃん……。


心臓が一気に跳ね上がる。


ソウシはにやけそうになる顔を必死に抑えながら、できるだけ普通を装って近づいた。


「……はぁ、はぁ、ごめん、待った?」

「大丈夫っす」


二人の間に、少しだけ沈黙が落ちた。


夜の冷たい風が吹き抜け、ミキちゃんの髪を揺らす。


ミキちゃんがわずかに目を細めた。

……寒いのかな。

さっきまで胸の中を占めていた「綺麗だ」という感情へ、別の気持ちが差し込んでくる。


確かにその服はかわいい。

似合っている。

けれど、肩がかなり出ている。

もう夜は肌寒い。

それに、この格好で池袋を一人で歩いていて、もし変な奴にでも絡まれたら。


そう思い始めると、急に心配でたまらなくなった。


「三木さん、あのさ」

「はい」

「その格好、寒くないの?」

「はぁー?」


ミキちゃんが勢いよく立ち上がった。


そしてソウシの前で、ワンピースを見せつけるようにくるりと身体を回す。


「これ超オキニで頑張って買ったんだけど! パイセンちゃんと見て! めちゃかわじゃん! 爆イケじゃん!」

「いや、その……か、かわいいけどっ」


言ってしまった。


自分で口にした瞬間、ソウシは顔から耳まで一気に熱くなるのを感じた。


「……え」


ミキちゃんの動きが、一瞬止まった。


「いや、だから……その……」


ソウシは目を泳がせながら続ける。


「肌寒くなってきたし……そんなに肩出してたら風邪引いちゃうよ……それに……」

「それに?」


「お、女の子が夜、そんな格好で歩いてたら、危ないよ……」


「……え」


今度はミキちゃんのほうが、少しだけ間の抜けた声を出した。


ソウシは着ていたパーカーを脱ぐと、そのまま差し出した。

「これ着て」


「えー、やだあ。せっかく可愛くしてきたのにー」

ミキちゃんは露骨に口を尖らせる。

「ダメだって。肩に掛けとくだけでもいいから着て」

「ぶー」


不満そうな顔をしながらも、ミキちゃんは渋々パーカーを受け取った。


袖を通す。


「あははっ、ダブダブ」

余った袖や裾を見ながら、楽しそうに笑う。


ソウシ自身は、特別背が高いわけでもない。体格だって細身なほうだ。

 

それでも、自分の服を着たミキちゃんはずいぶん小さく見えた。


 ――やっぱ、女の子って小さいんだな……。


ソウシは、本日何度目か分からない胸の高鳴りに、またひとり耐えることになった。

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