第38話 たからもの
休日の午後。
リビングのテレビには、昨日の花火大会の写真がスライドショーで流れていた。
「おっきい画面で見たい!」というみくのひと声で、俺のスマホをテレビに繋ぐ羽目になったのだ。
「あ! これ! りんごあめ!」
画面が切り替わるたびに、みくがソファから身を乗り出す。
「おっきかったねー!」
「お前、半分以上残しただろ。俺が食う羽目になったんだぞ」
「だって、あまったかかったもん!」
「『あまったかかった』ってなんだよ。甘かった、だろ」
隣で咲がくすくすと笑う。
「渡くん、りんご飴食べてる顔、ちょっと怖かったよ」
「歯にひっついたんだよ」
次の写真。真剣な顔でポイを持つみくと、それを横から見ている咲。
「みくいっぱーいすくえたよね!」
「三匹な。しかもおまけのやつだし」
「ちがうもん! みくがすくったの!」
「はいはい」
夜空に大輪の花火。わたあめを顔中につけたみく。俺の背中で眠るみく。
そして、入り口で撮ってもらった三人の写真が映し出された。
「これ!」
みくが、テレビ画面に向かって両手を広げた。
「これがいちばんすき!」
「なんで」
「だって」
みくが、少し考えるように首を傾けた。
「みんないるもん」
俺は何も言わなかった。
「たからもの!」
「……ただの写真だろ」
「ちがうもん! たからものだもん!」
咲がみくの頭を撫でた。みくは得意げにピースサインをした。
画面が、昨日の夕方の写真に切り替わった。
ベランダのプランター。花の、初開花の写真。
「そういえば」
咲が、画面を見つめたまま言った。
「この花、ピンクだね」
俺は画面に目を凝らした。水色だと思っていた花びらが、写真で見ると淡いピンク色に見える。
「青じゃなかったか」
「うん、私も水色だと思ってたんだけど……」
咲がスマホで何かを調べる。
「……突然変異かな」
「そんなことあるのか」
「あるみたい。土の成分とか環境で、たまに違う色が出るって」
「へえ……」
俺たちが画面を見ていると、みくがテレビに張り付くようにして言った。
「でも、かわいいよ?」
俺と咲が同時にみくを見た。
「ピンクのほうがすき。……だめなの?」
みくが、少し不安そうに俺たちを見上げる。
「だめじゃないよ」
咲が言った。みくの表情がぱっと明るくなる。
「みくちゃんがピンクの方が好きなら、よかったね」
「うん! えへへ!」
俺は、画面の中の淡いピンクの花をもう一度見た。
それだけだった。
「じゃあねー、みくのお気に入りランキング、はっぴょうしまーす!」
写真を見終わった後、みくがソファの上に立った。
「また急だな」
「いいから聞いて! だいさんい!」
みくが胸をドラムロールで叩く。
「はなび!」
「妥当だな」
「だいにい!」
「ピンクのおはな!」
「おお」
「そして! だいいちいは!」
みくが両手を大きく広げた。
「みんなでとった、しゃしん!」
「……お前、ほんとにそれ好きだな」
「うん! だってみんな、にこにこしてるもん!」
俺は息を吐いた。
口の端が、少し動いた。
咲もくすくす笑っていた。
夕方。
遊び疲れたみくがソファで眠り始めた頃、俺と咲は静かにベランダへ出た。
西日がオレンジ色に差している。
プランターのブルースターは、昨日よりも花びらをしっかりと開いていた。
やはり、淡いピンク色だった。
「……まだ増えそうだな」
蕾の数を見ながら、俺が言う。
「うん」
咲が頷く。
「よかったね」
「……そうだな」
それだけだった。
二人で並んで、花を見ていた。
遠くで子供の遊ぶ声がした。
「パパー……」
部屋の中から、みくの声が聞こえた。
寝言だ。
「おはな……かわいかった……」
俺と咲が、同時に振り返る。
咲が、小さく笑った。
俺も、少し笑った。
風が吹いた。
淡いピンクの花びらが、ゆっくりと揺れた。




