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第七十八話 甘い忠告

 適量に絞った魔力を込め、引き金を引く。

 火炎属性の魔法弾に袋を燃やされ、力を失った蜂がふらふらと近づいてくる。

 袋を封じれば即死する個体ばかりでないのはわかっていたが、体感、半分近くはとどめの一撃が必要だ。

 手綱を離し、剣を抜いた。軽く薙ぐだけで、巨大蜂は声もなく地へと落ちてゆく。

 ふう、と息をついて剣を鞘に納め、再度手綱を握る。

 さすがに手放しでコントロールできるほど、フォルテとの意思疎通はできていない。

 かといって、魔法銃だけではとどめの一撃で無駄に魔法弾を消費することになってしまうし、クリスタルソードだけで騎竜しながら正確に袋の付け根を狙えるほどの技術は、今のシディアにはない。

 シディアが銃と剣の二段攻撃でやっと一匹を始末している間、ネオンやミコトがいったい何匹を駆除していることやら。

「なんとかビー?なんだっけ?まぁいいや、集まれ集まれー!まとめて引きつけて~、一気にバーン!」

 状況にそぐわぬ楽し気な声に、思わず上空を見上げる。

 シディアたちの頭上を大きく旋回するレックスの上で、アリスが戦鎚を振り回していた。

 引き付けてまとめて攻撃するとなると、赤竜(レックス)に危害を及ばせない騎竜技術が必要だが、ヒューゴは涼しい顔で難なくこなしている。

 なお、戦鎚で袋だけを狙おうとすれば至難の業だろうが、もちろんアリスはそんなことはしない。蜂も袋も、平等に全て叩き潰す。それだけの話である。

「んー、このへん落ち着いてきた感じしない?もはやミコトだけでいけそうっつーか」

「そうだな。あっちのほうが数が多そうだ、移動するか」

 ネオンとともに周囲の様子を伺いながら、より数の多いほうへ移動し、巨大蜂の駆除を続ける。


 それにしても物凄い数だ。

 ここまでの数なのに、到着時に上空から視認できなかったのは、ネペンテス・ビーの異常なまでの攻撃性が原因だった。

 ヒューゴたちが駆け付けた際、奴らはほとんどが地上付近を飛び、隊員が集まっているテントを執拗に襲っていたらしい。

 幸い魔法で防御壁を作り出せる者、魔物避けの結界を張れる者などが数人いたため、なんとか全滅は防げていたが、一番隊の到着があと一歩遅かったら大惨事になっていたはずだ。

 ルギウスに端的に状況を伝え、急ぎ助けを呼ぶよう指示した三番隊の臨時隊長・ウゴの行動は、これ以上ないほどに正しかったのである。

 今はレオを筆頭に数人がキャンプ全体の守備にまわり、残りの一番隊が上空に群れを引きつけ駆除しているところだ。

 敵の頭数が減って余裕が出てきた今、シディアが考えることはひとつだった。

 ここまでの群れ、しかも絶滅種であるはずのネペンテス・ビーが、突然現れた理由は何か。

 単体で現れた場合は蚊などと同じく子育てのための栄養補給の可能性があるが、ここまでの集団となればさすがに違うだろう。

 ルギウスも言っていた通り、密かに生き残っていたとしても、これだけの数が三番隊に見逃され続けるのはあまりにも不自然だ。

 降って湧いたように現れ、人間を襲う絶滅種の群れ。

 魔王復活やブラッドナンバーが近くにある影響、というだけで片づけるには、どうにもきな臭い。何者かの意思を感じるのだ。

 意図的なものであるとすれば、やはり───。


 ほどなくして、その予想の答え合わせをする機会はやってきた。

 ネペンテス・ビーを掃討し地上へと降りたシディアたちを、拍手で出迎える人物がいたのだ。

「わぁ~♡ドクターのお気に入りだった蜂さんたち、もう全部倒しちゃったんだぁ。黒竜狩りの一族だっけ~?すごいすぉごい」

「ティラミス……!」

 抜剣したものの、連戦により魔力は底をつきかけている。こんなタイミングでばかり現れるのは、彼女なりの嫌がらせなのだろう。

 見知らぬ女に対するシディアたちの反応を見るや否や、真っ先に動いたのはミコトだった。短刀を抜き、メルの背から飛び出して行く。

 尋常ではない速さで地を駆け、悠々と木箱に座り足を組んでいる女に刃を振り下ろす。

 その時だった。切っ先に反応するように、薄い魔力の壁がちらついたのは。

(まずい……!)

 そう思った直後、シディアよりも先にヒューゴが叫ぶ。

「ミコト!ダメだ、止まれ!」

 隊長の言葉にぴたりと動きを止めたミコトは、大きく後退して皆の元へ戻り、短刀を下ろした。

 もう瞳の力を酷使できるほどの魔力も残っていないし、見えたところで細かいことまで分かるかは怪しいが、あのまま突っ込んでいたらミコトはただではすまなかっただろう。そんな気がする。

 ティラミスがポートシーガルの森でロードリックに怪我を負わされてから、そう時は経っていない。対策してくるのも当然というところか。

「やだこの子、殺意高すぎて(こわ)ぁい。まーたバケモノみたいなのとつるんじゃって、シディアくんったらずるいなぁ~」

 真っ赤な唇が妖しく弧を描いた。

 魅惑的、セクシー、などと表現すべきところだろうが、シディアたちにとっては恐怖と緊張を煽る要素でしかない。

「やっぱりお前たちの仕業か、魔王軍(カペル)。絶滅種───つまり既に死んだものを改造して使役する。ドクター・コセのやり方にそっくりだって考えてたところだよ」

「うふふ、さすがシディアくん♡ちなみに警戒されてるみたいだけどぉ、今日のボクは用事ついでに忠告しに来てあげただけ。あの黒竜(ダークドラゴン)───赤目って呼ばれてるんだっけ?もうブラッドナンバー絡みだってことはお察しでしょ。あれはねぇ、今までとは比べ物にならないと思うよぉ~」

「敵わないから逃げろって、そう言うのか」

 剣の柄を握りしめるシディアを、ティラミスはにやにやと眺める。

「そうそう、逃げちゃえばいいんじゃなぁい?だって、このまま進んだら───みんな死んじゃうよ?」

 ただの、言葉だ。しかも敵の言葉だ。惑わされてはならない。

 けれどティラミスの甘ったるい声が、今は重く圧し掛かる。


 ───魂を捧げることで、強大な力を得るシステムは理屈抜きに素晴らしい。

 ドクター・コセが言っていたことを思い出す。

 今日、黒竜(ダークドラゴン)と初めて対峙して、思ったのだ。最強の竜の名にふさわしい存在だと。

 訓練された一番隊の精鋭たちとともに戦ったからこその勝利だった。

 素晴らしい連携だったが、それでも無傷とはいかなかった。ヒューゴの強化魔法とアリスの会心の一撃が無ければ、もっとずっと戦闘は長引いて重傷者が出ていたかもしれない。

 その黒竜(ダークドラゴン)が、ブラッドナンバーを取り込んだとしたら。

 赤目はいったい、どれだけの力を得ているのだろう。

 考えれば考えるほど、怖い。怖いに決まっている。

 ───みんな死んじゃうよ?

 死にたくない。もう誰も失いたくなんてない。それでも───。


 重たい空気の中、一歩前に進み出る者がいた。一番隊の若き隊長・ヒューゴである。

「忠告はありがたいが───赤目はオイラたち竜騎兵団が狩る。狩らなければ、いつか村ごと吞み込まれるだけだからな。進まず逃げるなんて選択肢は、黒竜狩りの一族にはないんだ。皆若いが、覚悟を決めてここにいる」

 ティラミスは「ふぅん」と冷めた視線をヒューゴに送り、肩をすくめる。

「ボクはぜんっぜんかまわないけどね~。若い命がたーっくさん失われたって聞いたら、かくれんぼしてる聖女サマも出て来てくれるかもしれないし~?ねぇ?双子ちゃんたち♡」

 何も言うまい、と唇を固く結ぶ。

 姉の居場所をシディアとアリスが知っているか、探りを入れてきているのだ。ここで何かしら反応してしまっては、相手の思う壺である。

 口を開く気配がない双子に思うところがあったのか、諦めたのかはわからないが、ティラミスはつまらなさそうに手を振った。

「なーんちゃって。それじゃぁ、忠告はしたからこのへんで。今ちょっと忙しいのよねぇ~。アリスちゃんが()る気満々なとこ悪いけど、再戦はまた今度ってことで~。バァイ♡」

 瞬きの間に、ティラミスは忽然と姿を消したのであった。

 

 安堵も束の間。なんともいえない胸騒ぎに、シディアは辺りを見渡した。

 ティラミスの発した何気ない一言が頭の中をぐるぐると回る。

 ───用事ついでに忠告しに来てあげただけ。


 用事って、なんだったんだ───?



   第七十八話 甘い忠告 <終>


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