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第七十七話 絶滅種

「ネオンから話は聞いてたけど、戦闘中でもフォルテの扱いバッチリでびっくりしたぁ。本当にドラゴンライダーの才能あったんだね」

 キャンプに向けて出発早々、隣を飛ぶレックスの上からアリスが話しかけてくる。

 背後でネオンがうんうん、と頷く気配がした。

「足場安定しててウチとしては超助かったし。ぜんぜん素人とは思えないっしょ。コツとかあったら教えてくださいよ、シディア先生(せんせー)★」

 んー、と少し考えたあと、シディアは答えを口にする。

「コツってほどでもないけど、一応は計算しながら乗ってるかな」

「計算?」

「なんの?」

「速度とか角度とか。上昇下降はもちろん、方向転換にも関わってくるし。まあ風速や風向きだけじゃなく、フォルテの調子にもある程度左右されるから完璧には無理だけど、それなりには……いや待てよ、マチルダさんくらいフォルテを理解してたら、もしかして……?でもさすがに、それは一朝一夕ってわけには……」

 話しているうち、ひとりの世界に入り込んでしまったシディアが、仲間たちの冷めた視線に気づくことはない。

「ダメだこれ、わかるようでわかんないやつだ」

狙撃手(スナイパー)としては意味はわかるけど、それ計算しながら弾道の計算もするとかダルすぎー。ウチはやっぱ引き続き、後ろに乗ってるだけでいーわ。ってか、おーい、戻ってこーい」

「こうなるとしばらく一人でブツブツ言ってるから、ほっとこ」


 三人の会話を微笑ましく聞いていたヒューゴだったが、こちらに向かって飛んで来る一体の赤竜(レッドドラゴン)を見つけ表情を引き締めた。

 キャンプの方角からだ。

 しかも乗っているのは、先にキャンプに戻ったはずの三番隊ベテラン隊員である。人手を集めてきたにしては少々早すぎるし、見る限り彼一人だ。何かあったのだろうか。

「団長代理、大変です!」

 声の届く範囲に入るなり、ベテラン隊員は青ざめた顔で叫んだ。

「どうした?何があった?」

「キャンプが、キャンプが魔物の群れに襲われています!」


 キャンプの上空に辿り着いた一番隊は、揃って息を呑んだ。

 空から見える範囲だけでも、血塗れの隊員が十数人。倒れて動かない者も見受けられる。

「緊急事態だ、隊を三つに分ける!二番隊から来ている者は、救護に回ってくれ。不必要な戦闘はなるべく避けて、人命救助を優先するんだ。それから三番隊……ルギウスといったか。あなたとシディア、ネオンはウゴを探して保護し、話を聞いてくれ。彼なら敵について既に分析できているかもしれない。それ以外の一番隊は、オイラと一緒に魔物の掃討だ!何か知らんが相手は群れらしい、狩って狩って狩りまくれ!」

「了解!」

 ヒューゴの指示で一行は三手に分かれた。

 ベテラン隊員ルギウスとともに、シディアたちは三番隊の臨時隊長・丸眼鏡のウゴを探す。

 空から小柄な男性ひとりを見つけるのは骨が折れるかと思われたが、意外にも発見は早かった。

 一番手前の見張り台の中、上空からでなければ見つけられない位置に座り込んでいたのだ。おそらく、ヒューゴの指示を予測し、発見されやすい場所に移動したのだろう。

「ウゴ、一番隊を連れて来たぞ。皆戦ってくれてる、もう大丈夫だ」

 ルギウスがウゴの血まみれの身体を抱き上げた。左半身にところどころ銃で撃たれたような跡がある。この怪我では、ここへの移動も相当辛いものだったに違いない。

 呼吸は弱々しく、顔色は土のごとしだ。トレードマークの丸眼鏡も失い、力なくルギウスの腕に身体を預ける姿は、昨日見た彼とは別人のようだった。

 そんなウゴの唇が、ほんのわずか、よく見なければわからない程度に動いていることに、シディアは気づいた。隣にしゃがみ込み、口に耳を近づける。

「……ネペ……ス……ビー……」

 途切れ途切れに発すると、ウゴは目を閉じがくりと首を項垂れた。すぐさま呼吸を確認する。どうやら気絶しただけのようだ。ここまで出血していれば無理もない。

「なに……ビー?おい、ウゴ、しっかりしろ!」

 慌てるルギウスを横目に腰のポーチをまさぐり、回復薬を取り出した。本当は気絶する前に経口摂取させたかったが、一歩遅かったようだ。

 ウゴの血まみれの左半身に、とくとくと回復薬を垂れ流す。ここまでの怪我だと即回復とはいかないが、安静にしていれば命にはかかわらないはずだ。

「いったん寝かせてあげましょう。ルギウスさんの赤竜(レッドドラゴン)で、四番隊の救護テントに運べますか?」

「それは、もちろん。しかし……団長代理に届ける情報が何もなくなってしまったな……」

「いえ、情報は得られました。ウゴさんが伝えたかった言葉は───“ネペンテス・ビー”。蜂型の魔物の名前ですよ」

 わーお。と、ライフルの残弾数を確認しながらネオンが声をあげる。

「さっすがシディア。物知りぃ~★んで、名前以外の情報は?」


 過去に読んだ、古い魔物図鑑の記憶を手繰り寄せる。

 食虫植物のウツボカズラと、蜂が融合した魔物。それがネペンテス・ビーだ。

 体長は三十センチほど。ぱっと見は巨大な蜂だが、いわゆるお尻の部分がウツボカズラの袋になっているのが特徴である。

 巨大な針で敵を刺して攻撃するため、その跡はしばしば銃創に間違われる。これはウゴの傷とも一致する。

 とにかく攻撃力が高い。すばしっこいのでこちらの攻撃が当たりにくいのも厄介な点だ。

 攻撃と同時に魔力を吸い取り、袋に溜め込むという能力を持っている。


「……基本的な情報はこんなところかな。ちなみに、袋が魔力で満たされると爆発系の大魔法を放つ。集団で同時に放たれたら、最悪キャンプが消し飛ぶ威力のはずだ」

「キャンプが……消し飛ぶ!?」

 ネオンが目を丸くする。

 ルギウスもウゴを赤竜(レッドドラゴン)の背に乗せながら、記憶を辿っているようだった。

「そうか、ネペンテス・ビー。言われてみれば聞いたことがあるな。しかし何十年も前……少なくとも俺が生まれた頃には絶滅していたはず……」

「そうですよね。俺が昔読んだ魔物図鑑でも、絶滅種のページに載っていました」

「ウゴは個体数を報告せず、「群れ」と言ったんだ。数えるという行為を日常的に行っている三番隊がそう称したということは、それなりの───。密かに生き残っていたとしても、そんな数が事前調査で引っかからないわけがない。今日になって突然発生したとでもいうのか」

 悔し気に唇を噛むルギウスを、ネオンが「まぁまぁ」となだめる。

「気持ちはわかるけど、そのあたりは後でいーっしょ。ところでシディア、弱点とか効率のいい倒し方とかあんの?」

「ああ、それも特徴的だったからよく覚えてる」


 もう一度、脳内で魔物図鑑のページをめくる。

 巨大蜂の見た目に惑わされがちだが、実はウツボカズラのほうが本体だ。

 そのため、蜂から袋を切り離す、もしくは燃やすか凍らすか、何らかの方法で袋を封じれば容易に倒すことができる。

 袋を封じられた蜂は良ければ即死、悪くても普通の蜂レベルまで弱体化するのである。

 切り離さず傷つけるだけだと、蜂も袋も再生する可能性があるので注意が必要だ。

 なお、切り離された袋を再利用するような頭脳はないので、落とした袋は放置して良い。


「……あと、別の本で読んだから創作かもしれないけど、袋の内側は毒性の粘液がべったりついてるって話もある。素手では触らないのが無難だな」

「うわー、想像したら気持ち悪っ。とりま袋をバンバン落としてけばいーってことか★」

「よし、倒し方をヒューゴに伝えにいこう。それから俺たちも参戦だ」

 ルギウスとウゴを乗せた赤竜(レッドドラゴン)を見送り、シディアとネオンも待たせていたフォルテに乗り込む。

「一応聞くけど、ヒューゴのとこに着くまでに出会う蜂さんたちは?」

「できる限り駆除。合流を優先するから俺は攻撃にまわれない、頼んだぞネオン」

 背後でネオンがライフルをかまえる気配がした。

「おっけー、まずは一匹っと★」

 いつの間にか接近してきていた巨大蜂に、ネオンの銃弾が飛ぶ。

 袋の付け根を素早く的確に狙う銃撃は、さすがの一言だ。

 見事に真っ二つになり落下したネペンテス・ビーを見下ろし、シディアはごくりと唾を飲み込んだ。これの「群れ」と今から対峙するのか。

 巨大な虫というのは、それだけで恐怖である。不気味というべきかもしれない。

 黒竜(ダークドラゴン)とは全く別の種類の怖さを感じながら、シディアはフォルテの手綱を操るのであった。



   第七十七話 絶滅種 <終>


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