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異世界で暗殺された最強賢者、現代日本で病死寸前のおじさんに転生する〜莫大な資産と最強魔法で現代でも異世界でも無双します~  作者: 天音天成
異世界復讐編・第1章:大賢者の帰還と、腐敗した英雄たち

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第17話:神の薬と価格破壊。大聖堂の利権が消滅する夜

「ハァッ……ハァッ……! 薬! 薬はどこよ!?」


教皇の間の分厚い扉を開け放ち、かつて聖女と呼ばれたセリアは、大理石の階段を転がるように駆け下りていた。

豪華な純白のドレスは破れ、飾り立てていた宝石は床に散らばっている。だが、今の彼女にとってそんなものはどうでもよかった。

彼女の白く滑らかだった肌には、おぞましい『黒い斑点』が次々と浮かび上がり、肺は焼けた鉄を詰め込まれたように熱く、呼吸をするたびに血の混じった咳がこぼれ出る。


「ロ、ロイド! 早く結界を解け! このままでは内臓が腐り落ちてしまうッ!!」


彼女のすぐ後ろを、神官のロイドが這うようにしてついてきていた。彼もまた顔中を黒い斑点に覆われ、豪華な法衣に嘔吐物を撒き散らしている。


大賢者の【強制培養】の魔法により、彼らが吸い込んだ黒斑病のウイルスは、通常なら数日かかる潜伏期間をわずか数十秒にまで短縮し、彼らの肉体を凄まじい速度で破壊し始めていた。


二人は地下の最深部にある巨大な倉庫へと辿り着いた。

震える手で幾重もの魔法錠を解除し、重い鉄の扉を押し開ける。そこには、彼らがスラムに病を蔓延させ、莫大な富を搾り取るために貯め込んでいた『特効薬』の木箱が、天井までうず高く積まれていた。


「あ、あった……! 我々の薬だ! これを飲めば、助かる……!」


ロイドは狂ったように木箱を壊し、中から淡い緑色の液体が入ったガラス小瓶を鷲掴みにした。コルク栓を歯で引き抜き、中の液体を一気に喉の奥へと流し込む。

セリアもそれに続き、ドレスを汚すことも構わずに小瓶を二本、三本とがぶ飲みした。


「ああ……これで、これで痛みが……」


安堵の笑みを浮かべようとした二人。

だが――次の瞬間、彼らの肉体を襲ったのは、癒やしではなく、さらなる『地獄の苦痛』だった。


「ガァァァァッ!? 痛い! 痛い痛い痛いィィィッ!!」

「な、なんだこれは!? 目が、目が回る……! 虫が! 体の中に無数の虫が這い回っているわァァァッ!!」


二人は喉を掻きむしり、白目を剥いて地下倉庫の冷たい石の床を転げ回った。


彼らが独占していたこの「特効薬」のベースとなっているのは、ウイルスの活動を一時的に抑え込むだけの不完全な抗体と、痛みを誤魔化すための『夢魔のキノコ』の麻薬成分だ。

魔王討伐の旅の最中、彼らが調合する欠陥だらけの薬は、常に大賢者(俺)が裏で『成分中和』の補助魔法をかけて毒性を消し去っていた。

しかし今、その大賢者のサポートは一切ない。

しかも、二人の体内ではウイルスが通常の数千倍の速度で増殖している。そこに不完全な抗体と致死量ギリギリの麻薬成分を大量に流し込んだ結果、彼らの脳神経は一瞬にしてショートし、強烈な幻覚と神経破壊の激痛が引き起こされたのだ。


「助かるために作った薬が、自らの死と狂気を早める猛毒でしかなかった。……まさに、最高の自家中毒だな」


俺は【光学迷彩】を纏い、大聖堂の尖塔の上から、魔力探知を通して彼らの無様な狂乱を冷ややかに見下ろしていた。

自分で用意した毒杯をあおり、救いのない幻覚の中で自身の皮膚を掻きむしる偽善者たち。彼らへの物理的な罰は、これで十分だろう。


「さて。彼らの茶番は放っておいて、俺は本業(救済)に取り掛かるとしようか」


俺は夜空の二つの月を見上げ、虚空から一本のガラス小瓶を取り出した。

先ほど大聖堂の地下倉庫から【物質転送】でかすめ取っておいた、彼らの特効薬だ。


「【物質分解・スペクトル解析】」


大賢者の魔力が緑色の液体に浸透し、その構成要素を分子レベルで分解・視覚化していく。

俺は空中に浮かび上がった成分の中から、不要な麻薬成分や毒素を【消去】の魔法で完全に消し去った。

そして、残った純粋な抗体成分に対し、現代医学における「ワクチン」と「抗生物質」の概念を、魔力構造式として組み込んでいく。


「ウイルスのタンパク質構造を解析し、それを完全に破壊する酵素を魔力で生成。さらに、患者自身の免疫力を爆発的に高める【極大治癒ハイ・ヒール】の術式を液体に直接付与エンチャントする」


俺の指先から放たれた黄金の魔力が液体と混ざり合い、眩い光を放った。

数秒後、そこには濁った緑色ではなく、星の光のように透き通る『黄金色の液体』が浮かんでいた。


「完成だ。大賢者特製、黒斑病・完全特効ポーション(副作用ゼロ)。これを一滴でも飲めば、ウイルスは一瞬で死滅し、後遺症すら残らない」


俺が作り出したのは、セリアとロイドの悪魔のビジネスモデルを根本から破壊する、究極の上位互換だ。

だが、これだけでは終わらない。彼らの利権と特権を完全に叩き潰すには、この上位互換の薬を『誰もが手に入れられる状態』にしなければならない。


現代資本主義において、一部の企業が独占している暴利を破壊する最も有効な手段。

それは、圧倒的な技術力による『大量生産マス・プロダクション』と、常識を覆す『完全無料フリーミアム』である。


「俺は魔法使いだ。工場や生産ラインなど必要ない。……この世界のマナと物質を、俺の計算力で直接書き換えるだけだ」


俺は尖塔の頂に立ち、両手を大きく夜空へと広げた。

全盛期の肉体に宿る、規格外の魔力を極限まで解放する。


「【錬金魔法・超並列大量複製マス・デュプリケーション】ッ!!」


大気中の水分、周囲の土や鉱物、そして無限に等しい異世界の魔力。

それらが俺の脳内の【思考加速】による数万の並列演算処理に従い、一瞬にして形を変えていく。


ポポポポポポポポポポンッ!!!!


王都の夜空を埋め尽くすように、無数のガラス小瓶が空中に錬成された。

そしてその一つ一つに、俺がたった今完成させた『黄金の特効ポーション』が寸分の狂いもなく注ぎ込まれ、コルク栓で密閉されていく。

わずか数十秒の間に、俺の頭上には、星屑のように輝く「三万本」もの完全特効ポーションが出現していた。


「生産コストは俺の魔力だけ。原価は実質ゼロ円だ。……さあ、配送作業デリバリーと行こうか。送料も無料にしてやる」


俺は【広域探知魔法】で王都全体をスキャンし、黒斑病の症状で苦しんでいる平民やスラムの住人たちの生体反応(座標)を全てピックアップした。

そして、三万本のポーションにそれぞれ空間転移の術式をリンクさせる。


さらに、全てのポーションの小瓶には、一枚の羊皮紙のラベルを魔法で貼り付けておいた。

そこには、この世界の公用語でこう記されている。

『大賢者の名において、病に苦しむ全ての民に無償の救済を与える。これを飲み、健やかに生きよ』


「【広域同時・物質転送マス・テレポート】。……宛先、王都の患者の枕元」


シュババババババッ!!


空中に浮かんでいた三万本のポーションが、光の粒子となって一斉に消失した。

それらは空間を飛び越え、王都の薄汚れたバラックで熱にうなされる子供や、路地裏で苦しむ老人たち、さらには感染に怯える貴族たちの手の届く場所へと、音もなく届けられた。


「さて。これで明日、大聖堂の前に何人の患者が並ぶか……見物だな」


深夜の風にローブをなびかせながら、俺は独り、冷酷で歪な笑みを浮かべた。


◇ ◇ ◇


翌朝。

王都は、信じられない「奇跡」の歓喜に包まれていた。


「お、おい……! 治った! 息子の熱が下がって、顔の黒い斑点が綺麗に消えたぞ!!」

「私もだ! 昨日の夜、枕元にあった黄金の薬を飲んだら、体中の痛みが嘘みたいに消し飛んだんだ!!」

「こ、これを見ろ! 薬の瓶に『大賢者の名において』と書いてある! 大賢者様だ! 死んだはずの大賢者様が、天国から我々を憐れんで奇跡を起こしてくださったんだ!!」


スラム街や平民の居住区は、歓喜の涙と祈りの声で溢れ返っていた。

これまでは全財産を投げ打って大聖堂にすがりつかなければ得られなかった特効薬が、突如として無償で、しかも完全に病を消し去る本物の「奇跡の薬」として配られたのだ。

人々は空を見上げ、涙を流しながら大賢者への感謝を叫び、広場で抱き合って喜んでいた。


一方、その「奇跡」の余波を、究極の絶望として受け止めている者たちがいた。


王城の隣にそびえ立つ、大聖堂。

その地下深くにある薄暗い倉庫の中で、白魔術師セリアと神官ロイドは、血と吐瀉物、そして割れたガラス瓶の破片にまみれて這いつくばっていた。

麻薬の幻覚とウイルスの激痛で一晩中のたうち回り、彼らの精神はすでにボロボロに崩壊しかけている。


「あ、あぁ……。だれ、か……患者は、こないのか……?」


ロイドが焦点の合わない目を剥き出しにして、地下室の扉へとかすれた声を向けた。

いつもなら、朝から「助けてくれ」「金貨ならあるんだ」と泣き叫ぶ平民たちの声が、上の階から聞こえてくるはずなのだ。

自分たちが神のように崇められ、信者の浄財が湯水のように雪崩れ込んでくる、至福の時間が。


だが、大聖堂の周囲は不気味なほどに静まり返っていた。

いや、遠くの街角からは、「大賢者様万歳!」という歓喜の声が微かに聞こえてくる。


「嘘よ……嘘よぉ……。私たちの、私たちの富が……権力が……っ」


セリアは自身の黒く腐りかけた顔を両手で覆い、絶望の涙を流した。

自分たちが独占していたはずの特効薬の価値が、一晩にしてゼロになった。大聖堂にすがりつく者はもう誰もいない。

彼らの権力と富の源泉である「利権」は、大賢者が起こした価格破壊によって、物理的にも経済的にも完全に消滅したのだ。


自分たちが民から搾取しようとしていた富が砂のように消え去り、自分たち自身は自らが撒いた病と粗悪な麻薬で廃人となり、この冷たい地下室で誰にも看取られることなく朽ち果てていく。


「助け、て……賢者……っ」


かすれる声でかつての仲間の名を呼ぶ彼女の祈りが、神に届くことは二度となかった。

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