第49話:開かれる次元の扉。いざ『グランツヴァル』へ
東京の摩天楼を見下ろす、タワーマンションの最上階。
朝日が眩しく差し込む広々としたリビングの中央に立ち、俺は静かに目を閉じて深く呼吸を整えた。
「……思えば、随分と数奇な運命を辿ったものだな」
かつて、異世界グランツヴァルで魔王を討伐し、最も信頼していた仲間の裏切りによって、冷たい石畳の上で孤独に死んだあの日。
魂の奥底に刻んだ秘術によって次元を渡り、次に目覚めたのは、現代日本の無機質で清潔な病室だった。末期ガンに侵され、会社にも家族にも見放された五十八歳の孤独な窓際族、「冴島宗一」としての絶望的な幕開け。
そこからの日々は、まさに怒涛の連続だった。
大賢者の知識と魔力を駆使して病魔を細胞レベルから消し去り、衰弱しきった肉体を再構築して全盛期の姿を取り戻した。冴島宗一が密かに残していた莫大な資産を元手に、現代の「資本主義」というもう一つの強力な魔法を完全に掌握し、表のビジネス界を席巻した。
さらに、俺の平和な日常を脅かそうとしたヤクザや、日本の裏社会を数百年にわたって牛耳ってきた呪術師の一族すらも、圧倒的な力で平定し、完全に支配下に置いた。
だが、俺がこの現代日本で得た最も大きな財産は、金でも権力でもない。
(結衣……)
彼女という、かけがえのない存在に出会えたことだ。
人間不信に陥り、冷え切っていた俺の心を溶かし、俺の全てを真っ直ぐに受け入れてくれた。彼女の存在があるからこそ、俺はこの世界を「自分が帰るべき、たった一つの居場所」だと確信することができたのだ。
「これほどまでに素晴らしい世界だ。だからこそ……俺の心に深く棲みつく『過去の亡霊』を完全に断ち切らなければ、俺は彼女の隣で、本当の意味で幸せになることはできない」
俺は目を見開き、両手を前方の虚空へと真っ直ぐに突き出した。
二十代の全盛期の肉体に、大賢者としての底知れぬ全魔力を惜しみなく練り上げる。空間が俺の強大な魔力に共鳴し、ビリビリと静電気のような音を立てて震え始める。
目指すは、俺がかつて大賢者として生きた異世界、『グランツヴァル』。
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした直後、俺の背中に無残に刃を突き立てた裏切り者。
勇者、剣聖、白魔術師、黒魔術師、暗殺者……。あの世界最強の十人のレア職業持ちの仲間のうちの誰か。あるいは、複数人か。
「誰が俺を殺したのか。そして、一体何の目的で俺を排除したのか。……それを突き止め、俺が味わった以上の絶望と地獄を見せてやる」
俺は、自らの魔力で空間の座標を正確に指定した。
ターゲットは、グランツヴァルの辺境の森にひっそりと建てていた、俺の誰にも知られていない隠れ家の地下室。
「最高位時空魔法――【次元跳躍】ッ!!」
バリィィィィンッ!!!
空気を切り裂き、鼓膜を揺るがす轟音と共に、リビングの空間そのものがガラスのようにひび割れた。そして、その裂け目から溢れ出す圧倒的な魔力の光が、二つの世界を繋ぐ巨大な『次元の扉』となって出現した。




