第47話:魂の告白。あなたが誰でも、愛しています
「俺は、過去を清算するために異世界へ行きます。……でも、必ずここへ帰ってきます。俺の居場所は、あなたが待っていてくれる、この世界にしかありませんから」
俺が発したその言葉が、静まり返ったオフィスに響き渡った瞬間。
結衣の目から、せき止めていたあらゆる感情が、決壊したように溢れ出した。
「っ……宗くん……ううん、冴島さん……っ!」
結衣はソファから身を乗り出し、床に片膝をついていた俺の首元にすがりついた。そして、俺の広い背中に腕を回し、顔を押し付けて強く、強く抱きしめてきた。
「よかった……! どこか遠くへ行っちゃって、もう二度と会えなくなるんじゃないかって……私だけ置いていかれるんじゃないかって、すごく怖かった……!」
「ごめんなさい。不安にさせてしまって」
俺は彼女の震える華奢な背中を、落ち着かせるようにゆっくりと撫でた。スーツ越しに伝わってくる彼女の体温と涙の熱さが、俺の胸の奥底までじんわりと染み込んでくる。
「ううん。……私ね、冴島さんが途方もない魔法使いでも、異世界の人でも、本当は私よりずっと年上のおじさんでも……そんなこと、もうどうでもいいの」
結衣は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、大賢者のどんな高度な魔法よりも強く、美しく、純粋な光が宿っていた。
「私がセクハラ上司に絡まれて困っていた時も、夜の公園で危険な目に遭いそうになった時も、いつも真っ先に駆けつけてくれて……不器用だけど誰よりも優しくて、私のことを一番に大切に考えてくれる。私が好きになったのは、年齢でも顔でも魔法の力でもない、他でもない『あなた』だから」
「結衣……」
「あなたが誰でも、どんな過酷な過去を背負っていても……私は、あなたを愛しています。だから……絶対、絶対に私のもとへ帰ってきてね」
彼女の、混じり気のない魂からの告白。
その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の奥で長年固く冷え切っていた「人間への不信感」という分厚い氷が、春の雪解けのようにスッと溶けて消えていくのを感じた。
異世界で、長きにわたる苦楽を共にした仲間に背後から刺され、絶望と孤独の中で死んだ俺。二度と誰も信じまいと誓い、心を閉ざしていた。
そんな俺が、次元の壁を越えた別の世界で、こんなにも温かく、無償の愛を与えてくれる存在に出会えた。これこそが、神が俺に与えてくれた真の『奇跡』なのだろう。
「……約束します。たとえ地獄の底に落ちようとも、必ず這い上がってあなたの元へ帰ります。俺の命と魂に代えても」
俺は彼女の背中に腕を回し、その温もりと存在を自分の中に深く刻み込むように、優しく、そして力強く抱きしめ返した。
静寂に包まれた夜のオフィスには、二人の穏やかな呼吸の音と、重なり合う鼓動だけが、いつまでも優しく響いていた。




