第46話:途方もない真実と、結衣の葛藤
「裏切り者への、復讐……」
結衣は呟き、呆然とした様子で俺を見つめた。
俺がこの現代日本で天才投資家として莫大な資産を築き、ビジネス界を容赦なく制圧し、裏社会を牛耳っていた呪術界の闇すらも徹底的に支配したのは、すべて異世界へ帰還するための「足場固め」に過ぎなかったのだ。
「今日で、日本の裏社会を牛耳っていた邪魔者たちも完全に屈服させました。もう、あなたが危険な目に遭うことは絶対にありません」
俺は静かに立ち上がり、窓の外に広がる東京の冷たい夜景に目を向けた。
「俺の肉体も、すでに完成しています。……いつでも、異世界への次元の扉を開くことができる。だから、あなたに嘘をつき続けるのは、今日で終わりにしようと思ったんです」
俺は、背中越しに全てを打ち明けた。
これで彼女も納得してくれるだろう。俺という血塗られた復讐鬼から離れ、普通の幸せな人生を歩んでくれるはずだ。そう思っていた。
「それじゃあ……冴島さんは、あの世界へ……行っちゃうの?」
背後から聞こえた結衣の声は、ひどく震え、今にも泣き出しそうに掠れていた。
「冴島さんは……私を助けてくれた、あの優しくて不器用な大人の冴島さんじゃなくて。本当は、異世界から来たすごい魔法使いで……。復讐が終わったら、もう、この世界には戻ってこないの……?」
振り返ると、結衣の目から再びポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちていた。
自分が恋した相手が、自分とは生きる次元も、背負っている壮絶な過去も全く違う存在だった。寿命すら違うかもしれない。住む世界すら違う。
自分はただの平凡な人間で、彼をこの世界に引き留める理由なんて何一つ持っていない。
そんな絶望感と葛藤が、彼女の小さな肩を震わせていた。
「結衣くん」
俺は歩み寄り、泣いている彼女の前に静かに片膝をついた。そして、膝の上で震えている彼女の小さな両手を、自分の大きな手でしっかりと、温かく包み込んだ。
「勘違いしないでください。俺の『帰る場所』は、この現代日本です」
「え……?」
涙に濡れた瞳が、驚きに見開かれる。
「俺は、異世界で裏切られ、孤独と絶望の中で死にました。もう誰も信じまいと心に誓っていた。でも……この世界で、冴島宗一としてあなたに出会い、あなたに心配され、あなたと共に笑い合った時間は……俺の凍りついていた心を溶かしてくれた。あなたという存在が、俺にとって何にも代えがたい救いだったんです」
俺は、自分の魂の最も柔らかい部分を晒け出すように、真っ直ぐに彼女の目を見つめた。
「俺は、過去を清算するために異世界へ行きます。この復讐を果たさなければ、俺は過去の亡霊に囚われたまま、本当の意味であなたと向き合うことができないから。……でも、必ずここへ帰ってきます。俺の居場所は、あなたが待っていてくれる、この世界にしかありませんから」
その、不器用で、けれど揺るぎない魂からの言葉を聞いた瞬間。
結衣の目から、せき止めていたあらゆる感情が、決壊したように溢れ出した。




