第45話:若返りの理由と、果たさねばならない復讐
「……じゃあ、その若い姿は?」
ハーブティーの温もりで少し落ち着きを取り戻した結衣が、潤んだ瞳で俺の顔を見つめながら尋ねた。
「俺が病院で目覚めた時、この冴島宗一の肉体は末期ガンに侵され、文字通り死の淵にありました。俺は残された僅かな魔力を使って病魔を細胞レベルで消し去りましたが……長年の過労とストレスでボロボロに衰弱していた五十八歳の肉体では、大賢者の持つ膨大な魔力の出力に到底耐えきれず、器として自壊してしまう状態だったんです」
俺は自分の手のひらを見つめ、静かに言葉を紡ぐ。
「だから俺は、毎日少しずつ『肉体改造魔法』を自分にかけ続けました。細胞を極限まで活性化させ、魔力の奔流に耐えうる強靭な肉体へと作り変えるために。その副作用として、外見が五十代から三十代へ、そして全盛期である今の二十代の姿へと完全に若返ってしまったというわけです」
「そう、だったんだ……。気功の副作用とか、古武術だとか、全部私を安心させるための嘘だったんですね」
「すみません。現代の常識からあまりにも外れすぎていて、どう説明すべきかわからなかったんです」
結衣は俯き、自分の膝の上でギュッと手を握りしめていた。
異世界、魔法、肉体改造。現代日本で普通のOLとして生きてきた彼女にとって、途方もなく現実離れしたファンタジーだ。
だが、結衣は俺の言葉をもう一つも疑っていなかった。
彼女が実際に見てきた俺の異常な能力の数々――そして何より、どれだけ姿が変わろうと、彼女のピンチに必ず駆けつけ、体を張って守り抜いてきた「冴島宗一」としての本質的な優しさが、その途方もない真実を裏付けていたからだ。
「……宗くん、ううん。冴島さん」
沈黙の後、結衣が顔を上げた。その瞳には、俺を恐れる色など微塵もなく、ただ真っ直ぐに俺の心の奥底を覗き込もうとする、強い光が宿っていた。
「どうして、そこまでして……自分の姿が完全に変わってしまうまで、強大な魔力に耐えられる体を作る必要があったの? 現代の日本で平和に生きるだけなら、そのままの冴島さんの体で、病気を治すだけでよかったんじゃないの?」
その核心を突く鋭い質問に、俺は目を細め、胸の奥底で決して消えることのない暗い炎を揺らめかせた。
「……異世界へ帰るためです」
「え……?」
「空間を切り裂き、次元の壁を越えて世界を渡る【次元転移魔法】は、強靭な肉体と全開の魔力がなければ発動することすらできません。脆弱な肉体で行えば、空間のねじれに耐えきれず原子レベルで分解されてしまう。……俺には、どうしてもあの世界に戻らなければならない理由があるんです」
俺の目に宿った凄絶な光を見て、結衣は息を呑んだ。
「俺を背後から刺した裏切り者を見つけ出し……地の果てまで追い詰めて、必ず報いを受けさせるためです。そのために、俺は現代日本の資産を利用し、力を蓄え、結界を張り、後顧の憂いを全て断ってきたんです」




