第41話:絶対隷属の契約。大賢者、現代日本の裏を統べる
「……う、あ……」
静まり返った大広間に、くぐもった呻き声が響いた。
一千年の封印を解かれた大妖怪――いや、大賢者にとっては躾のなっていないただの野良犬――が、究極魔法によって完全に消滅し、遥か上空の東京の星空がぽっかりと顔を覗かせている崩壊した地下空間。
恐怖と絶望で気を失っていた御門一族の呪術師たちが、一人、また一人と重い瞼を開き、意識を取り戻し始めた。
「な、なんだこれは……!? 胸が、心臓の奥が焼けるように熱い……!」
身を起こした彼らは一様に胸をかきむしり、自らの狩衣や装束を乱して絶叫した。
彼らの心臓の真上にあたる皮膚には、まるで焼きごてを押し当てられたかのように、禍々しい赤光を放つ『複雑な魔法陣』が深く刻み込まれていたのだ。
「【絶対隷属の契約】ですよ。異世界……いや、俺の知る魔法体系においては、裏切り者の捕虜や、知能の低い魔族を調教する際に使う、極めてポピュラーな魔法です」
声が降ってきた方向。崩壊を免れた大広間の上座――先ほどまで一族の長が偉そうに座っていた豪奢な座布団の上に、俺は静かに腰を下ろし、足を組んでいた。
スーツのシワ一つ乱さず、冷酷で底知れぬ見下すような目で彼らを睥睨する。
「その刻印がある限り、あなた方の命の主導権は完全に俺の掌の上にあります。俺に少しでも敵意を向けたり、命令に背こうと裏工作を企てたりすれば……その瞬間に、心臓が内側から千度の炎で燃え尽きる仕組みになっています」
「ば、馬鹿な! 一千年の歴史を持つこの大御門の長である私が、得体の知れない若造の……奴隷になったというのか……!」
長が血走った目で俺を睨みつけ、震える手で胸の魔法陣を力任せに擦り落とそうとするが、魂に直接刻まれた契約の印が消えるはずもない。それどころか、俺への反逆心を抱いたことで魔法陣が明滅し、長は「ガハッ!」と血を吐いてその場に悶え苦しんだ。
「無駄な抵抗はやめることです。さて、御門一族の皆さん。あなた方が裏社会で何百年もかけて築き上げてきた『莫大な隠し資産』、そして政治家や財界人との『裏のコネクション』……それら全ての権利と運用益を、明日付けで俺の個人ファンドに完全に譲渡してもらいます。……これで、あなた方は名実ともに俺の手駒だ」
「ひぃっ……!」
「断る権利はありませんよ。さあ、夜明けまでに必要な書類と電子データを全て揃えておきなさい。……ああ、それと」
俺は最後に、この場にいる全員の魂に直接刻み込むように、最も重要で、絶対的な命令を下した。
「俺の身内――特に『佐々木結衣』という女性には、今後一切、指一本触れることはもちろん、視界に入れることすら許さない。彼女の周囲半径百メートルに近づいた呪術師は、いかなる理由があろうと例外なくその場で消し炭にする。……わかりましたね?」
「ハ、ハイィィィィッ!! 御意のままにぃぃ!!」
日本の裏社会を何百年も牛耳り、政財界のトップすらも平伏させてきた誇り高き呪術師たちは、恐怖に顔を歪めながら、全員が揃って冷たい床に額を擦り付け、俺への絶対的な忠誠と服従を誓った。
こうして、俺の平和な日常を脅かしていた現代のオカルト集団は、物理的にも、経済的にも、そして魂のレベルでも完全に屈服した。
彼らの持つ莫大な裏資産とネットワークを合法・非合法問わず全て吸収したことで、俺は文字通り「現代日本の真の支配者(裏の王)」と呼べるほどの、国家予算を凌駕する権力と財力を手に入れたのだ。
(これで現代日本において、俺と結衣を脅かす存在は皆無となった。……俺が帰るべき『安全地帯』は、完全に確保されたな)
異世界への復帰条件がまた一つ、完璧な形でクリアされたことに静かな満足感を覚えつつ、俺は平伏する呪術師たちを一瞥もせず、地下の隠れ里を後にした。




