第39話:魔法理論のダメ出しと、這いつくばる呪術師たち
「ば、馬鹿な……我ら御門の精鋭たちが全力で放った術が、全く通じないだと……?」
「幻覚だ! 奴は強力な幻術を使って、我らの目を欺いているに違いない! でなければ、あんな現象があり得るはずがない!」
現代呪術の粋を集めた総攻撃を、スーツ姿の若者に赤子のようにあしらわれた事実。それを受け入れられない呪術師たちがパニックに陥り、自らの手を震わせながら狂乱の声を上げる。
そんな彼らの無様な姿を見て、俺は心底呆れたようにゆっくりと首を振った。
「幻覚ではありませんよ。あなた方の術式が、魔法理論としてあまりにも『非効率』すぎるだけです」
「な、なんだと!?」
俺はビジネスの場において、出来の悪いプレゼン資料にダメ出しをするかのように、淡々と、しかし容赦なく事実を指摘した。
「魔力を発現させるのに、いちいち『呪符』や『印』といった外部の触媒を経由しているせいで、発動までにコンマ数秒の致命的なタイムラグが生じている。おまけに、無駄に長い呪文を詠唱するせいで、魔力の指向性がブレて威力が四散している。……大昔の素人が見よう見まねで作った古いシステムを一度もアップデートせず、長年盲目的に信じ込んでいる証拠ですね。現代のビジネスであれば、とうの昔に倒産しているレベルのレガシーコードですよ」
異世界で極限まで研ぎ澄まされ、神の領域にまで達した俺の緻密な魔法体系から見れば、彼らの呪術は「車輪の再発明」すらできていない、ただの泥遊びの延長でしかなかった。
「だ、黙れェ! 貴様のような得体の知れない野良術師に、何百年と続く我ら御門の歴史と伝統を否定されてたまるか!!」
顔を真っ赤にした長が、玉座から身を乗り出して絶叫する。
「歴史の長さが強さに直結するなら、その辺に転がっている石ころでも最強になれますよ。何百年も同じ場所で胡坐をかいていた怠慢を、伝統という言葉で誤魔化すのはやめることです。……ならば、本当の次元の違いというものを教えてあげましょう」
俺は一歩、前に踏み出した。
それと同時に、今まで俺の体内に完全に隠蔽し、抑え込んでいた『大賢者の魔力』の、ほんの数パーセントだけを静かに解放する。
ピキィッ、と、大広間の空気が物理的に凍りつくような音がした。
「【重力支配】」
ズドドドォォォォンッ!!!!!
瞬間、大広間全体に、目に見えない「神の怒り」のような絶対的な超重力が発生した。
数十人の高位呪術師たちは、悲鳴を上げる間もなく、見えない巨人に頭から踏みつけられたかのように、一斉に床に叩きつけられた。
「グアァァァッ!!」
「い、息が……っ! 臓腑が、潰れる……ッ!!」
頑丈なヒノキの床板が放射状に砕け散り、木片が宙を舞う。彼らは血を吐きながら、手足の骨をミシミシと軋ませてピクリとも動けなくなる。空間そのものが、下に向かって堕ちていくような絶望的な重圧。
立っているのは俺だけだった。俺の周囲一メートルだけが完璧に重力制御の対象から除外され、スーツの裾一つ揺れていない、絶対的な聖域となっている。
「ひぃっ……あ、あぁぁ……!」
「たったこれだけの力で、裏社会の王になった気でいたとは。井の中の蛙にも程があるな」
床に這いつくばり、顔を醜く歪める長を冷酷に見下ろしながら、俺は静かに言い放った。
これで終わりだ。彼らの心は完全に折れ、現代の呪術界は俺の前にひれ伏す。そして、俺の愛する女性を脅かす闇は、この世界から完全に消え去る――はずだった。
「ふ、ふふふ……ふははははは!!」
だが、長は口から大量の血を吐きながら、狂ったように笑い始めたのだ。
それは、自らの死すらも厭わない、追い詰められた人間だけが持つ、おぞましくも執念深い狂気の笑いだった。




