第37話:本拠地の特定と、単騎カチコミの決意
白目を剥いて気絶した暗殺者たちを見下ろし、俺は小さくため息をついた。
俺の腕の中では、結衣が小刻みに震えながら、俺の胸に顔を埋めている。
「結衣先輩、もう大丈夫ですよ。怪我はありませんか?」
俺が背中を撫でて優しく声をかけると、結衣は恐る恐る顔を上げ、俺の顔と、周囲に倒れている男たちを交互に見比べた。
「そ、宗くん……。今の、黒い服の人たち……それに、弾が空中で止まって……」
「後で、安全な場所で落ち着いたら全てお話しします。……その前に、少しだけ待っていてください」
これ以上、結衣の周囲をウロチョロと羽虫に飛ばれるのは鬱陶しい。彼らの根元を、今日ここで完全に絶つ。
俺はリーダー格の男の頭に手をかざし、【記憶解析】の魔法を発動させた。
大賢者の魔力が男の脳細胞に侵入し、彼が知る御門一族の秘密、そして『本拠地の座標』を瞬時に引きずり出す。
「……なるほど。東京の地下鉄網のさらに深層。空間を捻じ曲げて作られた『異界化』された空間か」
何百年もかけて幾重にも結界を重ねて作られた、日本の呪術界トップである彼らの絶対の安全地帯。彼らがそこに籠城している限り、また新たな刺客が送られてくる可能性はゼロではない。
「行こう、結衣先輩。まずはあなたを安全な場所に送り届けます」
俺は結衣を彼女の自宅マンションまで送り届け、部屋全体を覆うように、先日よりもさらに強固な【絶対防壁】と【認識阻害】の結界を何重にも張り巡らせた。これなら絶対に安全だ。
「宗くん、どこかに行くの……? まさか、あの人たちの仲間のところに……?」
結衣が不安そうに、俺のスーツの袖を掴む。
「ええ。俺たちの平和な日常を取り戻すための、少しばかりの『大掃除』です」
結衣はしばらく俺の目をジッと見つめていたが、やがて俺の決意を悟ったように、コクリと頷いた。
「……わかった。無理はしないでね。絶対に、無事に帰ってきて」
「約束します」
俺が部屋を出ようとした時、背中越しに結衣の震える声が響いた。
「気をつけてね……冴島さん」
「……っ」
その呼びかけに、俺は立ち止まった。
やはり彼女には、完全にバレていたか。だが、不思議と悪い気はしなかった。
俺は振り返らず、少しだけ口角を上げて「行ってきます」とだけ応え、夜の闇へと飛び出した。
◇ ◇ ◇
東京の地下深く。
俺は複雑に入り組んだ廃棄トンネルの最深部に立ち、コンクリートの壁の奥にある「異界への入り口」を見据えていた。
陰と陽の魔力を複雑に編み込んだという、現代呪術の粋を集めた絶対防壁の結界。
「異世界の魔王軍が国境に敷いた防壁に比べれば、障子紙のように薄いな」
俺はスーツのネクタイを外し、シャツの第一ボタンを開けた。
現代のエリートビジネスマンとしての仮面を外し、大賢者としての闘気を静かに解放していく。
「さて、日本の裏社会を牛耳る『偉大な』呪術師殿たちに、本物の絶望というものを教えてやろう」
俺は壁に向かって手を伸ばし、空間の隙間に指を差し込んだ。
そして、まるで古い障子紙を引き裂くように、力任せに空間を「物理的に」引き裂いた。
バリィィィィィンッ!!!!
空間がガラスのように割れる轟音と共に、大賢者の理不尽極まりない「単騎カチコミ」が幕を開けた。




