第36話:呪殺部隊の襲撃。大賢者、一歩も動かず蹂躙す
「死ね」
感情の起伏を一切感じさせない冷酷な宣告と共に、リーダー格の男が躊躇いなく引き金を引いた。
放たれたのは、通常の鉛玉ではない。暗殺対象の怨念を封じ込めた呪符がびっしりと巻き付けられ、標的の肉体のみならず魂ごと破壊する特製の『呪詛弾』だ。
同時に、周囲を取り囲んでいた他の男たちも隠形の術で完全に姿を消し、死角から呪力で強化された凶刃を突き出してくる。
(物理兵器と呪術の複合攻撃か。現代の暗殺術としては、なかなか理にかなっている)
結衣を背後に庇い、片腕でしっかりと彼女の腰を抱き寄せたまま、俺は微動だにしなかった。
この程度の底の浅い攻撃で、避ける必要すらない。
「【空間歪曲】」
パンッ! パンッ! と連続して放たれた呪詛弾は、俺の額に命中する数センチ手前で、まるで水面に落ちた石のように空間に波紋を描いた。そして――運動エネルギーと呪力をそのままに、撃った本人の足元や肩へと「空間を飛んで」跳ね返った。
「グアァッ!?」
「な、何が……ッ! 我らの弾が、なぜ……!」
自らの呪詛弾を食らった男たちが、悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。魂を削る激痛に、彼らは武器を手放してアスファルトの上でのたうち回った。
「さて、次はコソコソと這い回るネズミたちの番だな」
俺の背後や死角から音もなく迫っていた男たちが、ギョッとして動きを止めた。彼らは「隠形の術」で気配を完全に消しているつもりなのだろうが、魔力の流れの全てを視認できる大賢者の魔力眼の前では、暗闇の中で松明を掲げて踊っているのと変わらないほど丸見えなのだ。
「【重力支配】」
俺が指先を軽く下に向けると、路地裏の空間全体に、まるで神の怒りのような絶対的な超重力が発生した。
「ガハッ!?」
「い、息が……っ! 体が、潰れる……ッ!!」
ズンッ!! という、内臓を揺るがすような重低音と共に、残りの暗殺者たちは見えない巨大なプレス機で頭から押し潰されたように、無様に這いつくばった。
俺の周囲だけを正確に除外し、彼らの下にある頑丈なコンクリートの地面だけが蜘蛛の巣状に陥没していく。彼らは指一本動かすことも、立ち上がって反撃することもできない。
「たったこれだけの力で、俺を殺せると思っていたのか? 資金源を潰されて焦るあまり、ずいぶんと安い駒を送ってきたものだな」
俺の冷徹な声に、血を吐きながら這いつくばるリーダー格の男が、信じられないものを見る目で俺を見上げた。
「ば、バケモンか、貴様……っ! 呪術も使わず、印も結ばずに……!」
「俺の大切な日常を邪魔した罪は重いぞ。永遠の悪夢の中で悔い改めろ」
俺は氷のような視線を落とし、彼らの脳髄の最深部に直接【精神支配】の魔法を流し込んで、意識を強制的に刈り取った。
戦闘開始からわずか数秒。大賢者は文字通り「一歩も動くことなく」、御門一族の誇る最高戦力を全滅させたのだった。




