第3話:イケオジになった大賢者、会社で無双を始める
俺が「病気は完全に治った」と宣言した時、担当の医師は腰を抜かさんばかりに驚いていた。
何度精密検査をしてもガン細胞は完全に消滅しており、医学的に説明がつかない「奇跡の自然治癒」として処理された。
無理やり退院の手続きを済ませた俺は、冴島の自宅である都内の超高級タワーマンションへと帰還していた。
「……ほぅ、これが『スマートフォン』か。魔法の通信機より遥かに小型で多機能。現代の科学技術とやらは、魔法すら凌駕する部分があるな」
ふかふかのソファに深々と腰掛け、俺は現代の知識をスポンジのように吸収していた。
ネットの知識、世界の構造、経済の仕組み。
どれも大賢者の知的好奇心を刺激するには十分すぎるものだった。
「さて、肉体の改造だが……これは1日では終わらない」
細胞を魔力で作り変え、耐久力を上げるには時間がかかる。
毎日少しずつ『肉体改造魔法』をかけ続けることで、この58歳の肉体は徐々に若返り、最終的には全盛期の不老の肉体へと至るはずだ。
「引きこもっていても退屈だ。肉体改造の隠れ蓑も兼ねて、しばらくは『冴島宗一』として会社に通うとするか」
莫大な資産があるため働く必要は一切ないが、現代社会を学ぶには組織に属するのが手っ取り早い。
◇ ◇ ◇
翌週。俺はスーツに身を包み、冴島が勤める商社のオフィスに足を踏み入れた。
すでに毎晩の『肉体改造魔法』の効果が現れ始めている。
白髪は艶やかな黒髪に変わりつつあり、丸まっていた背筋はピンと伸びていた。
「おはようございます」
俺が部署に挨拶をして入ると、何人かの社員が驚いたようにこちらを見た。
「さ、冴島さん……? 退院されたとは聞いてましたけど……えっ?」
声をかけてきたのは、同じ部署の後輩社員である佐々木結衣だった。
年齢は24歳。記憶によれば、窓際族だった冴島にも優しく接してくれていた、真面目で気立ての良い女性だ。
結衣は俺の顔をまじまじと見つめ、なぜかぽかんと口を開けている。
「どうした、佐々木くん。私の顔に何かついているか?」
「あっ、いえ! その……なんというか、すごく雰囲気が変わられたというか……」
結衣は頬をほんのりと赤く染めて、目を泳がせた。
「姿勢がすごく良くて、肌もツヤツヤで……なんだか、すごく若返って見えます。その、かっこいい……あ、いえ! とにかくお元気そうで良かったです!」
「ああ、心配をかけたな。海外の最新の治療法を試してね。おかげでこの通り、全盛期のような体調だよ」
適当な嘘で誤魔化し、俺は自分のデスクに座った。
机の上には、冴島が休んでいる間に溜まっていた膨大な資料やデータ入力の仕事が山積みになっている。
「冴島さん、そのお仕事、私も手伝いますよ。病み上がりなのにそんな量……」
「いや、気遣いは無用だ。これくらいすぐに終わる」
俺はPCの画面に向かい、こっそりと魔法を発動させた。
「【思考加速】――そして【情報解析】」
瞬間、俺の脳の処理速度が常人の数千倍に跳ね上がる。
分厚い資料の内容を一瞬で全て暗記・理解し、両手はキーボードの上で残像が見えるほどの速度で動き始めた。
タタタタタタタタッ!! ターンッ!!
「えっ……? さ、冴島さん……?」
隣の席の結衣が、信じられないものを見るような目で俺の手元を見つめている。
通常なら3日はかかるであろう膨大なデータ入力と資料作成を、俺はわずか15分で完璧に終わらせてしまった。
「よし、終わったぞ。課長に提出してくる」
「えええええっ!? い、今ので全部終わったんですか!?」
大賢者の圧倒的な知術と魔法。
現代の事務作業など、ゴブリンを倒すより容易いことだった。
俺は唖然とする結衣を背に、涼しい顔で席を立った。
(現代での生活、なかなか悪くないな。……さて、次は異世界に帰るための魔力基盤を整えるとしようか)
莫大な資産と最強の魔法を手に入れた58歳(肉体年齢は逆行中)の、現代無双ライフの幕開けである。




