第15話:大賢者のビジネス無双と、優秀な右腕
大黒議員の失脚と、裏社会の闇が払拭された後、俺たちが手掛けるプロジェクトはまさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」で急成長を遂げていた。
俺が「冴島宗」として堂々と表舞台に立ち、次々と競合他社や強欲な外資系ファンドを論破し、自社にとって圧倒的に有利な契約を次々と勝ち取っていく。社内での俺の評価は天井知らずに上がり続けていた。
「宗くん! 今日の午後に行われるコンペの会議資料、まとめ終わりました。相手企業の過去十年分の財務データと、先方の役員から想定される意地悪な質問への回答リスト、それに市場のトレンド予測グラフも添付しています!」
「ありがとう、結衣先輩。……目を通しましたが、完璧です。俺が次に何を求めているか、意図を完全に先読みしていますね」
「えへへ……! 宗くんの頭の回転が速すぎて、そのペースに追いつくのに必死ですけど……でもなんだか最近、すごく仕事が楽しいんです」
結衣は照れくさそうに、けれど自信に満ちた明るい笑顔を見せた。
彼女は元々、事務処理能力が高く地頭も良い優秀な女性だったが、無能な上司の下でその才能を腐らせていた。しかし、俺の【思考加速】を前提とした異常な業務スピードと高度な要求に必死に食らいついてくるうちに、ビジネスパーソンとして飛躍的な成長を遂げていたのだ。
異世界で育て上げた何人かの愛弟子たちの顔が脳裏をよぎる。今や、彼女という有能な右腕なしでは、俺の「現代でのビジネス無双」もこれほどスムーズにはいかないだろう。
「よし。この完璧なデータをもとに、今日のコンペで最大のライバルである『帝国地所』を一気に叩き潰します。彼らが今回の主力として提案してくる大規模開発プロジェクトには、致命的な欠陥がありますからね」
「欠陥、ですか? でも、帝国地所のあの土地は、専門の調査機関が地質調査を行って『問題なし』と太鼓判を押していたはずですが……」
「俺の『予測』は絶対に外れませんよ」
大賢者の【未来予測】と【情報解析】魔法。
現代のどんなスーパーコンピュータの演算をも凌駕するその絶対的な力を使えば、相手がどれほど巧妙に隠蔽したデータであろうと完全に丸裸にできる。
その日の午後。都内の巨大なカンファレンスルームで行われたコンペティションの場は、異様な緊張感に包まれていた。
審査員席に座る業界の重鎮たちを前に、業界最大手の「帝国地所」のエリート社員たちが、見事なプレゼンを披露し、勝利を確信したような傲慢な笑みを浮かべていた。
だが、俺のターンが回ってきた瞬間、その空気は一変した。
「帝国地所さんの提案は、確かに見事な見栄えです。……しかし、根本的な部分で重大な隠蔽がある。この資料の十七ページをご覧ください」
俺は巨大なスクリーンに、【電子潜入】で帝国地所の内部サーバーから引きずり出した「非公開の地質調査データ」と、それを元に構築した3Dシミュレーション映像を映し出した。
「該当の予定地は、地下水脈の影響により極めて局地的な地盤の脆弱性を抱えています。あなた方が依頼した調査機関は、意図的にそのポイントを避けてボーリング調査を行っている。……このまま大型商業施設を建設すれば、五年以内に大規模な地盤沈下が起きることは、物理法則上避けられません」
「なっ……!? なぜお前が、その極秘データを……! いや、それは捏造だ!」
「捏造かどうかは、今から第三者機関に再調査を依頼すれば一日で判明することですが……やりますか?」
俺が冷酷な視線で射抜くと、帝国地所のエリートたちは真っ青になり、反論の言葉を失ってその場に崩れ落ちた。
魔法という絶対的な情報力と、現代のビジネス知識の融合。それはこの資本主義という戦場において、まさにチートそのものだった。
結果は言うまでもなく、俺たちの完全勝利に終わった。
「やりましたね宗くん! コンペ、大勝利ですよ! 審査員の人たち、宗くんのプレゼンに拍手喝采でした!」
オフィスへの帰路。興奮冷めやらぬ様子の結衣が、エレベーターの中でピョンピョンと跳ねるように喜んでいる。
「結衣先輩が用意してくれた完璧な資料とサポートのおかげですよ。今日はこれくらいにして、何か美味いものでも食べに行きましょうか。もちろん、俺の奢りで」
「本当ですか!? わーい! じゃあ、この前連れて行ってくれたあのお寿司屋さんがいいです!」
俺たちは子供のように笑い合い、ハイタッチを交わした。
大賢者としての力を存分に振るい、結衣という優秀で可愛らしい相棒とともに、現代社会の頂点へと駆け上がっていく充実した日々。
――だが、この時の俺はまだ、自分がとんでもない「隙」を見せており、俺の『中身がおじさんの冴島宗一である』という事実がバレるような失態を犯すことになるとは、夢にも思っていなかったのだ。




