第14話:悪徳政治家、自滅す。そして若き天才実業家へ
俺が地下駐車場でヤクザの襲撃部隊を文字通り「物理的」に鎮圧してから、わずか数日後のこと。
日本中を揺るがす特大のスキャンダルが、連日テレビやネットニュースで大々的に報じられていた。
『――速報です。与党の重鎮であり、大物国会議員である大黒氏が、指定暴力団との癒着、および大規模な不正献金の疑いで東京地検特捜部に逮捕されました。驚くべきことに、大黒議員自らが震える足で警察署に出頭し、泣き崩れながら全ての罪を自白したとのことです』
オフィスの壁に掛けられた大型テレビから流れる臨時ニュースの音声を聞きながら、社内はまるで蜂の巣をつついたような騒然とした空気に包まれていた。
「おい見たかよ! あの大黒議員が自首したって!? 権力にモノを言わせて絶対に捕まらないって言われてたあの狸オヤジが!?」
「それに、豪徳寺不動産が裏でやってたマネーロンダリングの証拠も全部マスコミに暴露されてるぞ。ウチの会社、あの悪徳社長の首を切って、ギリギリで健全な経営権を握ってて本当に良かったな……!」
社員たちが興奮気味にざわめき、電話が鳴り響く中、俺は自分のデスクで足を組み、悠然と淹れたてのブラックコーヒーを飲んでいた。
(どうやら、ヤクザの組長にかけた【精神支配】の魔法は、俺の意図通り完璧に機能したようだな)
俺はあの日、這いつくばる組長の脳髄を操り、大黒議員の隠し金庫に保管されていた決定的な証拠――裏帳簿や、密約を交わした際の録音データ、さらには海外口座のパスワードに至るまでをすべて引き出させ、警察と大手メディア各社に匿名で一斉送信させたのだ。
さらに念には念を入れて、大黒議員本人にも遠隔で【良心増幅(強制的な罪悪感の植え付け)】という高位の精神魔法をかけておいた。これは対象の心にわずかでも残っている「罪悪感」を数万倍に膨れ上がらせ、発狂寸前まで精神を苛むという、ある意味で拷問よりも恐ろしい魔法だ。
権力欲の権化だった彼も、魂から湧き上がる強制的な恐怖と懺悔の念には耐えきれず、自首するという選択をとったというわけだ。
「宗くん、ニュース見ました!? すごいことになってますよ!」
結衣が目を丸くし、手元の資料を抱きしめるようにして俺のデスクに駆け寄ってきた。
「見ましたよ。これで、豪徳寺の再建プロジェクトを邪魔する面倒な輩は完全にいなくなりました。我々の完全勝利ですね」
「はいっ! ……でも、なんだかタイミングが良すぎるというか……警察の手際も異常に早いですし、まるで誰かが最初から絵図を描いて、裏で全部操っていたみたいで……」
結衣の鋭すぎる直感に、俺は内心で(少しやりすぎたか)とヒヤリとしながらも、顔には一切出さず、スマートで涼しい笑顔を作った。
「悪事はいつか必ず露見する。ただそれだけのことですよ。……さあ、結衣先輩。感心している暇はありませんよ」
「えっ?」
「大黒議員の失脚と、関連する裏社会の摘発によって、今、株式市場はパニックに陥っています。宙に浮いた利権や、一時的な風評被害で株価が暴落している優良企業がいくつもある。他社のファンドに安値でかっ攫われる前に、俺の個人ファンドで一気に買収をかけますよ」
「ええっ!? ま、また買収ですか!? 宗くん、一体個人でいくら資産を持ってるんですか……!」
結衣が悲鳴のような声を上げるのをBGMに、俺はキーボードに両手を這わせた。
【思考加速】と【未来予測】の魔法をフル稼働させる。大賢者の演算能力は、暴落と高騰が入り乱れるカオスな市場の動きを、まるで止まったビデオ映像のように正確に読み切っていた。
俺は関連企業の株を底値で次々と買い漁り、先んじて買収しておいた外資系ファンドのネットワークを利用して、海外の優良な不動産やIT資産への投資も同時に進行させていく。
結果として、数日のうちに俺(冴島宗)の個人資産は数百億ドル――日本円にして数兆円という、国家予算に匹敵する規模にまで膨れ上がっていた。
表向きは一介の「20代の若手エリート社員」でありながら、裏では世界の経済を動かす「若き天才実業家・投資家」として、俺の名は知る人ぞ知る形でビジネス界隈に密かに、そして確実に轟くことになったのである。




