第13話:迫り来る裏社会の影。物理兵器 vs 異世界魔法
俺が外資系ファンドを鮮やかに退け、豪徳寺不動産の利権を完全にウチの商社で掌握したことで、当然ながら面白くない連中がいた。
それは、豪徳寺の裏で長年甘い汁を吸い続けていた「大物政治家」と、その政治家に汚れ仕事を請け負う形で飼われている「指定暴力団」――つまり本職のヤクザたちだ。
半グレのチンピラとは異なり、彼らは組織化された暴力のプロフェッショナルである。
ある夜。残業を終え、結衣をタクシーに乗せて見送った後、俺が一人でタワーマンションの広大な地下駐車場を歩いている時のことだった。
キキィィッ!! と甲高いスキール音を響かせ、四台の黒塗りの高級車が俺の前後左右の退路を完全に塞ぐように急停車した。
バタン、バタンとドアが開く音が地下駐車場に響き渡り、中から降りてきたのは、黒スーツに身を包み、チャカ(拳銃)や鋭い日本刀を手に殺気を放つヤクザたち二十人余り。
「テメェが冴島宗か。……生意気な若造が。ウチの大事なシノギを荒らしてくれた落とし前、その命でキッチリ払ってもらうぞ」
顔に深い刀傷のある組長らしき男が、一切の躊躇いもなく俺に向けて拳銃の銃口を向け、引き金を引いた。威嚇ではない、完全な殺意。
パンッ! パンッ! と連続する乾いた銃声。
暗殺のプロらしく、一発目は眉間、二発目は心臓を正確に狙った、回避困難なダブルタップ射撃だ。
「……遅いな」
俺はポケットに手を入れたまま、首を数ミリだけ傾けて眉間への銃弾をヒュンッと躱し、心臓へ向かってきた二発目の弾丸は、右手の二本の指先で軽く摘まんで受け止めた。
指先から、摩擦熱で焼け焦げた鉛の匂いが漂う。
「は……?」
「な、なんだと……!? 今、弾を、指で摘まんだ……!?」
ヤクザたちが全員、まるで幽霊でも見たかのように目をひん剥き、銃を構えたまま硬直した。
「現代の火器か。初速はマッハ一から二程度といったところか。確かに生身の人間には回避不能だろうが、大賢者の【思考加速】と【動体視力】のバフをかけた俺の前では、空中で止まって見えるに等しいな」
「バ、バケモンかテメェ! 撃て! 全員で撃ち殺せェ!! ハチの巣にしろ!!」
組長の絶叫を合図に、周囲を取り囲んでいた二十人の男たちが一斉に発砲した。
地下駐車場に、耳をつんざくような銃声の嵐が吹き荒れる。全方位から放たれた数十発の弾雨が、逃げ場のない俺の全身へと降り注ぐ。
しかし――俺は薄く笑い、【物理無効化】の魔力障壁を全周囲に展開した。
ピタッ……!!
俺の身体から半径一メートルの空間で、すべての銃弾が見えない壁に激突し、空中で完全に静止した。
その異様な光景に、銃声が止む。
俺が指を鳴らすと、静止していた数十発の弾丸は力を失い、パラパラと雨あられのようにアスファルトに落ちて転がった。
「弾が……ウソだろ、全く効かねえ……」
「なら、至近距離からこれならどうだァ!!」
銃が通じないと悟った一人の巨漢が、狂ったように日本刀を振り被り、俺の脳天に向けて斬りかかってくる。
しかし、俺が彼を見据え、指先を軽く下に向けると――。
「【重力操作】」
「ガハッ!?」
ズンッ!!!!
という、地下駐車場全体が揺れるほどの轟音と共に、二十人のヤクザたちは全員、見えない巨大なプレス機で頭から押し潰されたように、無様にアスファルトに這いつくばった。
「ぐぁぁっ! な、なんだコレは!? 体が、一ミリも動かねぇ……!」
「コンクリートが、陥没して……腕が折れるッ! ヒィィッ!」
男たちの悲鳴が響く。俺がかけた重力は自重の数十倍。彼らの下にある分厚いコンクリートの床すらも、蜘蛛の巣状にひび割れ、すり鉢状に陥没していた。
「数の暴力で、俺を屈服させられるとでも思ったか? ならば、力とは何か、真の『暴力』というものを教えてやろう」
俺は這いつくばって血を吐く組長の顔を冷酷に見下ろし、【精神支配】の魔法を脳髄の奥底に直接叩き込んだ。
「あ、アァァァァァァッ!! 許して、許してくれェェッ!!」
「俺や、俺の周囲の人間に二度と近づくな。そして、お前たちの黒幕である政治家の不正の証拠を、すべて明日の朝までに警察とマスコミにタレ込め。一ミリでも逆らおうとすれば、お前の脳髄は一生消えない激痛で焼き切れる。……わかったな?」
「ハ、ハイィィィ!! オッシャルトオリニシマスゥゥゥ!!」
現代兵器の粋を集めた銃器も、暴力のプロフェッショナルたちも、大賢者の絶大な魔法の前では赤子の玩具に等しい。
こうして俺は、現代の裏社会すらも、文字通り「足元にひれ伏させる」のだった。




