第14話 信念はやっかいだ
「パッラス。どうする? このまま僕の傍に居続けるということは難しいと思うぞ。」
クラウディウスの解放奴隷であるパッラスは僕が皇帝になったときに変わらず忠誠を誓うと言ってくれたので側近の1人として迎入れたのだが、前皇帝の側近という立場上一番剥がしやすい1枚なのだ。
それに対立関係を演じているアグリッピナ側の人間でもある。
「いいえ。いつまでもお傍を離れませぬ。」
「クラウディウスの命令か?」
「そうです。それにお傍を離れたら、オクタウィアの死を目にすることが出来なくなります。憎き仇の死を目にするまでは死んでも死に切れませぬ。どうしても傍を離れよと申されますならば、オクタウィアを殺し、自死するまでのこと。」
これだ。僕に忠誠を誓うと言いながら、パッラスが誓っているのはクラウディウスなのだ。クラウディウスを通して僕に忠誠を誓っているに過ぎない。
「それはならぬ。それは僕の仕事だ。」
世間からどれだけ暴君と言われようともクラウディウスを暗殺したオクタウィアを殺すのは僕の役目なのだ。
「それに私の財産は、皇帝の私財です。受け継いで貰わなければなりませぬ。どのようにもお使いください。」
セネカからパッラスの財産に興味を持っていると伝わっているようだ。
「セネカか。お主も奴も困ったものだな。どうしても信念は曲げられぬと見える。」
☆
「コルブロ。不甲斐ない僕を許してくれ。」
ローマ帝国の属州であるシリアとその友好国であるアルメリア王国へペルシャ帝国が介入してきた。どうしてもアルメリア王国に親ペルシャの王を立てたいらしい。
戦争になると踏んだコルブロが出陣の挨拶に来たのだ。本当のことを言えば、傍を離れてほしくない人物だがそうも言っていられない状況下だ。しかもコルブロに全権を持たせられない上での出陣だった。
僕がもっと早くにコルブロを投入する決断をしてさえいれば、命令系統が2分されるような戦いを強いることもなかっただろう。
「何を仰います。このコルブロ、命に代えても凱旋してみせます。」
命あっての物種だ。ローマ帝国はペルシャ帝国との間にアルメリア王国があるという状態を維持したい。それだけなんだ。無理に占領してしまえばペルシャ帝国と直接事を構えることになってしまう。それだけは避けたい。
「ダメだ。お主の命に替わりは無い。この時期ならペルシャ側も準備が整っていないはずだ。まずは親ローマの王を立てるだけですぐに引き返すんだ。あとはどう転がろうとも構わぬからな。攻めるときは指揮命令系統が一本化できてからだ。無理にゴリ推しするんじゃないぞ解ったな。」
ローマ帝国というと大帝国をイメージしていたのだが地中海湾岸の国々を纏め上げたに過ぎない。オセロでいうところの角を取ってない状態なのだ。どの属州でも周辺国との火種が尽きることはない。国内で皇帝の暗殺などして政治的空白を作っている余裕は全く無いに違いない。




