第12話 天に唾を吐かないで欲しい
「ところでネルオ。自白を強要できる薬を持っているんですって?」
これまで黙って聞いていたアグリッピナが言葉を挟む。僕がアグリッピナを殺すと言ったことはスルーされてしまった。可愛くないな。アクテならもっと反応して楽しいだろうに。
「オクタウィアの自白を引き出すときに使ったが、それがどうかしたのか?」
「元老院議員たちが戦々恐々としているそうよ。今なら粛清できるんじゃない?」
懲りずにアグリッピナが政に口を出してくる。本当に好きだよな。昔は権力欲が強いのかと思っていたが、そういうわけでは無いらしい。どうも政策や策略を巡らすのが好きなだけのようだ。
「セネカがヤル気マンマンだぞ。そのうち、『引退するつもりなら罪に問わない』と宣言するつもりらしい。」
薬は使わずにブラフとして使うつもりのようだ。
「そんな薬があるの?」
アクテが目を丸くする。何を言っているんだか。
「おいおい。半年間、母親が毎日服用していたじゃないか。」
「ええっ。」
ええっ、じゃない。
「間違って昼に2錠続けて服用したら、動悸が酷かったと言ってただろう。興奮剤の一種なんだ。」
あのときも母親が僕の手を胸に持っていき、アクテをからかっていたっけ。懐かしいな。
「こ、こうふんするの?」
何に興奮しているのか知らないが薬を服用していないはずだよな。
「飲んでみるか? 初めてなら1錠でもドキドキするぞ。5錠も服用すれば新しい自分に出会えるかもしれない。」
心臓に持病を持つものが大量に摂取すると危ないと聞いた覚えがある。興奮しすぎて脳の血管が切れるのかもしれない。
「要らない・・・わよ。」
怪しいな。意外と好奇心旺盛だなアクテは。
「母親の薬が残っているから、隠れて試してみよう。とか思っているだろう。ダメだからな。習慣性があるらしいから廃人になるぞ。」
過剰摂取を繰り返すと次第に効果が無くなってくるらしい。さらにハイになるためには多くの薬が必要になるそうだ。
「思ってないわ!」
「教えるんじゃなかったな。母親から取り上げておくか。」
再発したときのために吸入剤と一緒に渡してあるのだ。もうそろそろ要らないだろう。
「思ってないってば!」
☆
セネカが早速、貨幣改鋳と属州への減税および段階的増税案をぶち上げた。元老院議員が戦々恐々としている間に実績を作ってしまおうということらしい。
反対する議員がいるはずもなく、案は無事通り発表されるとローマ市民にも受け入れられた。どこの世界でも減税というのは好意的に受け止められるらしい。
まあクラウディウスが財政健全化を行っていてくれたからこそできた技なんだよな。つまり僕ひとりの功績じゃないはずなんだが誰も気付いてくれない。
それどころかケチとか思われていたとかどうなんだろう。
当分先の話だと思っていたのだが、オクタウィアの後任は簡単に見つかりそうだ。オクタウィアの幽閉を知った同年代の知り合いが次々と良縁を持ち込んでくるのである。
よく調べてみると知り合いの付き合っている女性だったりする。そこまでして皇帝と付き合いを持ちたいらしい。まるで・・・いや本物の美人局だ。
誰を選ぶかはアグリッピナと相談して決めるつもりだ。アグリッピナと対立関係を構築するにあたり、皇后に相応しく無い女性がどんな人間かわからなかったからだ。
「なあ・・・。それじゃあ、昔のアグリッピナそのものじゃないか。わかって言っているのか?」
アグリッピナが言う皇后に相応しく無い女性は、政に口を出すような女性だ。その他にも血筋が悪いことも上げている。
「ははは。そうね。だから私は嫌われる女なんだわ。」
だが世の中で、今一番血筋が良いのはオクタウィアだから、オクタウィアとの離婚に反対するという立場で僕と対立するつもりらしい。なんだか楽しそうだ。結構、綱渡りなことをやるつもりなんだが、わかっているのだろうか。
「今頃わかったのか? クラウディウスと結婚した当初は良く言われていたじゃないか。」
まあそれも当初だけでクラウディウスに対する助言が的を得たものだった所為か、だんだんと言われなくなっていった。オクタウィアの後任には不適合だな。もっとバレバレに権力を私事に使うような女性にしておく必要があるよな。
「そ、そう? そうだったかしら。」
小説を書くようになってからは、殺されたり殺したりする悪夢は見なくなりました。
多分、小説で書くことで悪夢と認識されなくなってしまったんだと思います。
近頃良く見る悪夢は頭上からミサイルや戦闘機が墜落していき必死に高速道路を走って逃げる夢です。
そのうち、このシーンも小説に書こうと思っています。
これも一種の克服と言っていいのだろうか(笑)




