第11話 毎晩悪夢を見るようになりました
「アクテ。」
ブリタンニクスが亡くなった翌日以降、僕は朝ベッドから中々出られなくなっていた。過眠症の目覚まし薬がないと起きれないのだ。
久しく見ていなかった悪夢を毎夜見る。
僕の持病は過眠症という名前だが、その実、脳が夜に十分な睡眠が取れないことにより、昼間に眠くなるらしい。
その原因のひとつに悪夢がある。前世では人に殺される夢をよく見た。だが今は人を殺す夢を良くみるのである。その相手はアグリッピナの息子ドミティウスやクラウディウスやブリタンニクスだった。
しかも悪夢を見るたびに殺し方が違う。ナイフで刺し殺したり、縊り殺す。何故か現代に居てビルの屋上から突き落とすなんてのもあった。見慣れた夢だ。決して良心の呵責に悩んでいるわけでもないはずだ。単に病気の一つの症状として見ているに過ぎないのだ。
夜中飛び起きて、アグリッピナを驚かせることが続いたある日、ふと目を覚ますと目の前にアクテが居た。
「ごめんなさい。私が呼んだの。」
声のするほうを向くと、アグリッピナがすまなそうな顔で佇んでいた。毎夜叩き起こされて眠そうな顔をしてる。僕の世話をお願いするのにアクテしか思い浮かばなかったのだろう。
「知ってしまったんだな。」
「あのう、あのう私。」
知られたくなくて教えなかったのだ。アクテが悪いわけじゃない。
「いい。わかっているよ。世話を掛けてすまない。」
謝られる前に言葉を挟み込む。
「何でネルオが謝るのよ! 私、何でもするから。どんなことでも耐えきってみせるから。何でも言って。」
「やめろよ。空手形なんか切ってはダメだ。僕は暗殺も辞さない冷酷な皇帝なんだから。」
ブリタンニクスは僕が暗殺したと噂になっているらしい。古代ローマ帝国の人間は物事を利害関係でしかとらえられないようだ。
「そんな筈無いじゃない。本当に何でもするから、貴方の助けになりたいの。愛しているのよ。」
「やっと、愛していると言った。もう絶対に翻せないからな。覚悟しろよ。」
「えっ・・・。今までのすべてお芝居だったり・・・。そう言えば、こういう人だった。」
ここ数日、ずっと考えていたのだ。僕やアグリッピナが、この立場から逃げ出す方法を。それには絶対に信頼できる人物が必要だった。そういう意味でアクテは飛んで火に入る夏の虫ってやつだ。
「アクテに頼むことは難しく無い。数年側室という立場に居た後に皇帝の僕と別れてくれ。」
「何よそれっ。」
驚かせようと言ったのは確かだが、そんなに青筋を立てて怒ること無いじゃないか。怖いだろ、
「おいおい、怒るなよ。」
「怒るに決まっているでしょ。」
「ちゃんと聞けって。君が別れるのは皇帝だ。利害関係を作ってしまうと暗殺されかねないから前には決して出るな。母のように権力を振るおうとするな。できる限り、円満に別れよう。・・・偶にはコッソリ会いに行くから、そのときに愛を確かめ合おう。」
「そ、それで?」
アクテは真っ赤になりながら、続きを促してくる。
「僕と母はどうやっても利害関係を作ってしまう。暗殺の対象になってしまうことは避けられそうに無い。そこで2人が対立しあうことで一番憎しみあった関係に見える。そして僕は母を殺す。」
事前に何も話してなかったんだがアグリッピナに顔を向ける。彼女はジッとこちらを見つめるだけだ。
「そ、それで?」
アクテは他に相槌は打てないのだろうか。顔に感情が出るタイプだよな。
「内緒だ。」
「えええっ。何よそれ。」
「やっぱり、人選ミスかな。君は顔に出過ぎる。何も知らないほうがいい。君はただ受け入れてくれるだけでいい。もうひとつ君に耐えて貰わなければならないことがある。オクタウィアを抹殺するために新たな皇后を迎えるつもりだ。だけど愛しているのは君だ。」
ブリタンニクスには父殺しを知って貰うことで、オクタウィアを生涯幽閉させるつもりだった。だが次の皇帝がどういう人物かわからない。下手をすれば前皇帝の娘というブランドだけでオクタウィアを皇后にしてしまうかもしれないのだ。それだけは許せない。
「だったら私が。」
「ダメだ。君を利害関係に巻き込んでしまえば最後の仕上げができなくなってしまう。まして君が暗殺されでもしたらと思うと後を追うことになるだろう。その方が幸せかもな。でも僕は母も僕も君も幸せにしたいんだ。」
できればセネカもブッルスもコルブロも。まあこれは最後まで悩むだろうな。
「最後の仕上げは聞いてはダメなのね。」
「そうだ。でも大丈夫だ。そのうち解るさ。」
時折ですが私も悪夢を見ます。人を殺したり、殺されたりする夢。
殺される夢を見て、もう楽になれると思ったあと起きたときの虚しさはこれ以上無いですね。
人を殺す夢も見ますが知らない人ばかりでその点は助かっています。
これが知っている人だったりしたら・・・。
過眠症の1つの症状なんだということは解っているのですが心がついていかないです。




