二章鳳凰の魂一
かなり、久しぶりの更新になります。
王こと苑莱は芳子の頬をひとしきり撫でた後、また抱きしめた。彼からはほんのりと香の薫りがする。芳子はドキドキと心臓が早鐘を打つ中、動けずにいた。苑莱は芳子の柔らかな髪を撫でた。
「…そなたがわたしの対の朱凰か。別の世界にいたとはな」
苑莱がそう呟くと芳子は顔を上げた。
「何故、私があなたの対に当たるとわかるんですか?」
問いかけてみると苑莱は目を細めて笑った。
「それくらいはわかる。わたしには千里眼があるのでな」
はあと言いながら芳子は頷いた。苑莱は満足そうにしながら寝台にて眠りにつく。芳子も瞼を閉じたのだった。
翌日の朝に芳子は目を覚ました。苑莱は横で寝ていたはずだが既にいない。芳子はそれに不思議とほっとする。苑莱がいたらどう対応したら良いのかわからないからだ。
少し経って、侍女や女官が部屋にやってきた。芳子は昨日の事があり、逃げようとしてしまう。
だが、逃がしてはくれないのが侍女達だ。あっけなく捕まって着替えをさせられる。
昨日に着ていた服やこの世界に来た時の会社の制服などは蒼鴛が預かってくれているはずだが。芳子はそれを聞けずにいた。それに現代日本の象徴ともいえるスマホとか手帳、その他諸々が入っている。
それを悪用されなければいいのにと思う。そんな事を考える内に着替えを終えた。
今日は薄紅色の上着と薄萌黄色の裙、肩に掛けるショール状の布は黄色であった。鏡台の前に座らせられて髪を梳かれる。何度も櫛を通されて香油を付けられた。
ふんわりとお香の薫りのようなものが鼻腔に入る。梅の薫りに近かった。
「…髪を結いますので。逃げないでください」
侍女に無表情で言われたのでビクっと体が震えてしまう。侍女は無言で芳子の髪を結い上げ始めた。
芳子の髪は肩を越すくらいの長さだったので侍女は髪紐で上半分をアップにして輪を小さく作り、簪で留める。造花や櫛も挿して上半分のみを結い、下の髪は垂らすようにした。
白粉をはたき、眉を墨で描く。目元にアイラインを入れて目尻に紅をすっと引いた。
口紅を最後に塗ってお化粧も完成する。侍女は会心の出来に満足そうに笑う。
「お化粧と髪結いが終わりましたので。これから、礼儀作法の先生が来られます。応接間に移動しましょう」
「…わかりました」
やっと返事をして芳子は立ち上がった。侍女に連れられて応接間に移ったのだった。
「お初にお目にかかります。あなたが陛下のご正妃様であられますね?」
そう聞いてきたのは礼儀作法の先生であるらしい中年の女性だった。ご正妃様と言われて居心地が悪くなる。
「…私はつい、昨日に王宮に来たばかりの者です。ご正妃様というのは周囲の人たちが言っているだけで。まだ、私も自分が正妃なのかわからなくて」
「そうですか。けど、陛下が対の朱凰様だとお認めになられたと聞いております。確か、朱凰様には体のどこかに痣が現れるとか。それはこの国の守護神の鳳凰の象徴、炎の形の痣だそうです」
女性はそう言うと芳子をじっと見つめてきた。そう言えば、蒼鴛と一緒に旅をしていた時に首筋が燃えるように熱くなった時があった。後で池の水面に映る自分の姿を見て驚愕したものだ。
真っ赤な炎に似た痣らしきものが浮かびあがっていたからだった。大きさは人差し指の爪ほどのものでよく見ないとわからない。
「…仕方ありませんね。少しご無礼をお許しください」
女性は芳子に近づくと両頬を手で包むようにすると顔を上にあお向かせた。首筋の右側にくっきりと浮かびあがった炎の痣を確認して女性は口角を上げた。
「やはり、ありましたね。朱凰様、あなたはこの痣がある限り王宮を出られません。陛下のご正妃としてここで一生を過ごす事になります」
女性はそう言い終えると芳子の顔を元の位置に戻した。芳子はいきなりされた事と言われたことにカチンときた。何が王宮を出られないよ。私は巻き込まれただけなのに。
芳子は女性をきっと睨みつけたのだった。




