一章十
芳子は青楼宮にて、女官達の挨拶を受けた。早速、お湯殿に連れて行かれて身綺麗にされて衣装を着付けてもらう。
古代の中華風の衣装であった。髪も簪や櫛、造花で結い上げられ、飾り立てられる。衣装も触り心地が非常に良く、着心地も今までの物の中ではだんとつに良かった。けど、窮屈ではある。
「…よくお似合いです。では、昼餉を召し上がりますか?」
「……お昼か。わかりました、持ってきてください」
昼餉は昼食だと意味はわかったので頷いておいた。すると、白苑は他の女官に目配せをする。
「でしたら、しばらくお待ちください。では、一旦、失礼致します」
白苑や女官達は一斉に頭を下げると部屋を出ていった。それを見送りながら、芳子はため息をついた。
そして、昼食を終えると女官達はお茶を淹れたりお菓子を用意しだした。何かあるのかと聞くと白苑は簡単に説明する。
「何もありません。ただ、ヨシコ様にお寛ぎいただこうと思いまして。遠い所から来られたと聞いております。故郷のお茶の味には程遠いかもしれませんけど。よろしければ、お飲みになってください」
「…ありがとう。良い香りがこちらにまでしますね」
「…気に入っていただけたのだったら、ようございました」
そう言いながら、芳子の前、机の上に置いた。茶器の中に入っているのは薄い緑色の日本によく似た物らしかった。
(…緑茶かな?)
そう思いながら飲んでみるとほんのりと甘みが口の中に広がる。見かけを裏切る味に意外性を感じた。
「これは寒玉というお茶です。寒い時期に採れるので寒玉と呼ばれています」
「カンギョクか。なんか、玉露に近いかも」
「…ヨシコ様の国にも似たような物があるのですね」
「これとは味は全然違うんだけど。似たような名前の玉露というお茶はあります。そうだな、もっと苦味があるかな」
そうなのですかと白苑は興味深そうに頷いた。その後、初対面に関わらず、白苑と元の世界の飲み物や食べ物の話をした。
芳子が話終える頃には夕暮れ刻になっており、白苑は女官達と夕餉やその他の準備があるからと部屋をまた出て行った。
夕餉を終えて、夜になる。夜着に着替えて化粧を直された。髪も簪などを外して緩く髪紐で後ろに束ねるようにした。支度を終えると寝室に案内される。
「…後で主上がお越しになります。こちらでお待ちくださいませ」
白苑が頭を下げて寝室を出て行った。芳子は一人でまた、待つのかと今日何度目かのため息をついた。
窓には貝殻をはめ込んであり、月の光が差し込むことはない。部屋の中には蜜蝋が灯されており、薄っすらと明るい。
それでも、現代日本の蛍光灯よりは暗く、何となく落ち着かない。何か出ないだろうなという気持ちになる。
お化けや幽霊の類はあまり、信じていないが。それでも、ここは異世界だ。キョンシーとか出たらマジで勘弁だと思った。
そんな事を考えていたら、きいと扉が開いた。振り返ると昼間に出会った王がそこにいた。
「…何だ、待っていたのか。寝ていても良かったのだが」
「……陛下」
ポツリと言えば、王は大股でこちらに近づく。気がつけば、温かなものに包まれていた。目線を上げれば、王の秀麗な顔がすぐ近くにあった。抱きしめられたのだと思い至った。
「体が冷えてしまっているな。早く、寝台に行くぞ。風邪をひいてしまう」
「はあ」
気のない返事をしても王は気にしないようだった。芳子は促されるまま、寝台の中に彼と入った。
力強い腕に抱き締められたまま、横になる。
「ヨシコ。やっと、会えた。待ち続けてもう、二十年になるか」
その言葉に驚き、芳子は目を見開いた。王は微笑んで芳子の頬を撫でたのであった。




