↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/99

#87 1stアルバム

また月曜日。

lunatiハウスのリビング。


いつものように5人がテーブルを囲む中、綾坂がノートパソコンを開いた。


「ってわけで、フルアルバム作るよ!」

「2年間は原盤収入ないけどな」

リョウヘイがすぐに返す。


「その2年の間にたくさんライブしなきゃね!」

ユイはまったく気にした様子もなく、むしろ楽しそうだった。


「うん。プロモーションが熱いうちに、たくさん手を打った方がいいよね」

ハルナも頷く。


GREAT ROCKへの応募をしてから、オーディションなライブ動画などSNSのネタには事欠かなかった。


出演をキッカケにInstagramのフォロワーも増え、lunatiを知る人は明らかに増えている。この流れを一度きりで終わらせるのは、あまりにも勿体ない。


「2年後にもっとたくさんの人が聴いてくれるようになっていれば、lunatiも企業さんもwin-winってことですよね!」

ヒナが言う。


「そういうこと」

綾坂が頷いた。

「向こうは2年間でちゃんと宣伝して、音源を広げて利益を作る。ウチらはその力を借りて知名度を上げる。で、2年後には原盤の独占も終わる」


「その頃には今よりデカくなってればいい」

リョウヘイが続ける。

「そうなれば、その後は原盤側の取り分も今より多く自分たちへ戻るからな」


「じゃあ2年間めちゃくちゃ売れて、3年目から超儲かるってこと!?」

ユイが身を乗り出した。


「理想だけ言えばね。簡単に言うね」

「よっしゃ!」

「まだ1曲も作ってないでしょ…」

綾坂が冷静に戻す。


「あ、そっか!アルバム作るんだっけ」

「そ、作品が無ければ話は進まないよ」


綾坂が画面を5人の方へ向ける。そこには新しいフォルダが作られていた。『lunati 1st Full Album』。ハルナがその文字を見る。


「……フルアルバムかぁ」


これまで作ったのは3曲入りのEP。自分たちだけで録音し、自分たちで原盤を持ち、自分たちのライブで売ってきた。


今度は違う、もっと曲数が多い。そして、GREAT ROCKのプロモーションも絡む。lunatiとして初めて、本格的に世の中へ広げるための作品になる。


「何曲くらい想定?」

リョウヘイが聞く。

綾坂は少し考えてから答えた。

「10曲前後かな。EPの曲も混ぜるけど、なるべく新曲で固めていきたい」

「じゅっ……」

ユイの顔が固まる。


「今ある曲も入れるけど、新曲は必要だよ」

全員の視線がハルナへ集まった。


「……え?」

ハルナが瞬きをしてから、少し考える。


「コンペでボツになった曲が何個かあるから……可能性があるやつを発展させていけるかな……」


「お、ストックあるじゃん」

リョウヘイが反応する。


「うん。でもボツになった曲だから、そのまま使えるわけじゃないよ。lunatiに合うように作り直さないと」


「それでも0から10曲より全然いい!」

ユイが安心したように言う。ヒナも頷いた。


「ハルナさんの曲なら、聴いてみたいです」

「じゃあまず、それ全部聴いてみよ」


綾坂がノートパソコンを引き寄せる。

「使えそうなの選んで、そこからアルバムの形考えていこう」


ハルナは少し照れながら頷いた。

「うん。パソコン持ってくるね」


ハルナが自室からノートパソコンを持ってくると、ボツになったデモを順番に流していった。まだ打ち込み中心のものもあれば、仮歌まで入っているものもある。


何曲か聴いたところで、リョウヘイが反応した。

「お、この曲いいじゃん。おもろー」

「うん。私も好きな曲なんだけど、コンペ落ちちゃった」

「ふーん。採用側のセンスが悪いんだろ」

「悪く言わないの…わかるけど」

ハルナも少しだけ笑う。


綾坂は曲を止めると、候補リストにチェックを入れた。

「この曲も候補に入れよう。 EP曲とストックだけじゃまだ足りない。あと2曲ぐらい新曲作った方がいいね」


「じゃあ全部新しく作るわけじゃないんだ」

ユイが安心したように言う。


「10曲全部新曲なんてやってたら、いつ完成するかわかんないでしょ。納期も2ヶ月しかない」

綾坂が返す。


既存曲、ハルナのストック。

そして、今のlunatiだから作れる新曲。

少しずつ、初めてのフルアルバムの形が見え始めていた。


それからlunatiは、フルアルバムの制作を進めながらもライブも止めなかった。平日はそれぞれ仕事をしながら、家ではアルバム制作。月曜日には全員でアレンジを詰め、空いている日はライブやリハーサル。


GREAT ROCKをきっかけに増えた注目を、できるだけ次へ繋げる。そんな日が続いていた。


ある日のリビング。ユイがスマートフォンでシフト表を眺めながら、深いため息をついた。


「今月のlunati忙しすぎて全然バイトできてない……クビになってないのに」

「それだけ音楽やれてるってことだろ?貧乏も楽しめるようにならなきゃな」

リョウヘイが笑う。


「今はなんのバイトなの?」

ハルナが問う。

「工場。ずっと座って音楽聴いててよくて楽なんだ。最低賃金だけど」


「いいとこだな。クビになるなよ」

「そもそも、クビになるほど出勤できてないの!」


ユイはそう言ってから、もう一度シフト表を見る。


「来月の給料日が怖いよ……アルバム作ってもお金になんないし……家賃払ったら全然残んない…」


「アルバムはね」

綾坂がノートパソコンから顔を上げた。


「でもライブは違うよ。ユイ見て」

「なに?」

綾坂が画面を5人の方へ向ける。次のアリノス出演。その予約管理画面だった。


「……56?」

ユイが目を丸くする。


「そうだよ、予約の段階でもう56人」


「すごい!お客さん増えてます!」

ヒナが画面へ身を乗り出した。ハルナも驚いたように数字を見る。


「すごいね…これもGREAT ROCK効果?」

「間違いなくね。都内も含めて全国の人があの映像を見る機会が生まれたから」

綾坂が頷く。


「まだ余韻が残ってるうちに、なるべくたくさんライブをして売上伸ばすよ!」

一度区切って、綾坂は力強く続けた。

「アルバムは金になんないから!」

「言い切った!」

ユイが笑う。


今作っているフルアルバムは、未来のための投資だ。今すぐ5人の生活費を生んでくれるわけではない。


その一方で、ライブはその日の売上になる。動員が増えればチケットバックも増える。物販が売れれば、さらにlunatiの活動資金になる。

そして、今ライブへ来てくれた人が、その先でアルバムを聴いてくれる客になる。


ユイが勢いよく立ち上がった。

「今回はマジで!家賃稼ぎにいこ!」


「目的が切実だな」

リョウヘイが笑う。


「切実だよ! 来月ホントにヤバいの!」


予約の段階で56人。

GREAT ROCKの前よりも、明らかに数字は伸びている。


アルバムを作る。ライブもする。

その両方を、少しずつ生活へ繋げていく。


lunatiは今まで以上に忙しくなっていた。けれど、その忙しさは5人がずっと欲しかったものでもあった。


音楽をやる時間が、少しずつ仕事の時間を食い始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。