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#51 赤い目の真実

意識が浮かび上がるより先に、機械の規則的な電子音が聞こえた。


鼻をつく消毒液の匂い。


身体の下には、自分のものではない硬いベッド。右足には、何重にも何かを巻きつけられているような重さがあった。リョウヘイはゆっくりと目を開けた。


白い天井が見える。

見覚えはなかった。


「知らない……天井って…やつか……」

ベッドの脇で眠っていたユイが、ガバッと身体を起こした。


「こんな時まで……」


目を覚ましたばかりなのか、声は掠れていた。泣き腫らした目でリョウヘイの顔を見つめる。無事に目を開けたことを確かめた途端、ユイの瞳から大粒の涙がこぼれた。


「冗談言わないでよ……」

「い、1回言ってみたくて……ごめんなぁ」


声を出しただけで、喉の奥がひどく乾いていることに気づいた。


身体も重い。


右足は感覚が鈍く、少し動かそうとしただけで、太ももの奥から鋭い痛みが走った。


「っ……」

「動かないで!」


ユイが椅子から立ち上がり、ベッドへ身を乗り出す。その隣で、同じように眠っていたヒナも目を覚ました。


「リョウヘイさん……?」

何度か瞬きをしたあと、ヒナは目を見開いた。


「ナ、ナースコール!」

慌てて壁際を振り返る。


しかし呼び出しボタンは、リョウヘイの枕元に置かれていた。ヒナは1度そちらへ手を伸ばし、途中で点滴の管に触れそうになり、さらに慌てる。


「ど、どうすれば……!」

「焦りすぎだろ…いいよ自分で押せるから」


リョウヘイは包帯で巻かれた右手を、わずかに持ち上げた。掌まで厚く覆われているため、ボタンを押すことすら難しい。


「だから動かないでって!」

ユイが代わりにボタンを押した。


「怒鳴るなよ。病院だぞ」

「誰のせいだと思ってるの!」


怒鳴った直後、ユイは唇を噛んだ。また泣きそうになるのを堪えている。ヒナもベッドのそばへ近づいたが、リョウヘイの右足を見た瞬間、足を止めた。布団の上からでも分かるほど、大きく固定されている。


両手にも包帯。

額には頭突きでできた傷を覆うガーゼが貼られていた。


「よかった……」

ヒナが胸元で両手を握る。


「本当に……よかったです……」

「悪い。心配かけたな」


リョウヘイが笑うと、ヒナは激しく首を横に振った。


「謝らないでください……」


やがて看護師と医師が病室へ入ってきた。瞳孔や血圧を確認され、名前や日付を何度も聞かれる。事故の記憶を尋ねられ、公園でフユミに刺されたところまでは覚えていると答えた。医師によれば、リョウヘイは大量の出血によって意識を失っていた。救急搬送後、緊急手術を受けたらしい。


命に別状はない。


その言葉を聞いた瞬間、ユイとヒナは同時に息を吐いた。ただし、医師は右足については曖昧な表現しか使わなかった。太ももの筋肉と神経に大きな損傷がある。経過を見なければ、どこまで機能が戻るかは判断できない。両手の傷も深かったが、幸い腱には致命的な損傷がなかった。いくつもの説明を受けたが、リョウヘイの頭には半分ほどしか入ってこなかった。


生きている。


その事実だけで、今は十分だった。医師が出ていったあとも、ユイとヒナはしばらく病室に残っていた。だが、すでに2人とも警察から長い事情聴取を受けている。未成年でもあり、病院側からも今日は帰宅するよう促された。


「明日また来るから」

帰り際、ユイはベッドの前から動こうとしなかった。


「別に来なくても平気だぞ。丸1日くらい寝たら、すぐ退院できるだろ」

「できるわけないでしょ、マジバカ」

「じゃあ2日?」

「今やめてそういうの」


ユイはいつものように返してくれなかった。

目元はまだ赤い。


「ちゃんと寝てて。勝手に動いたりしないで」

「大丈夫だって、そもそも立てないし」


リョウヘイが右足を指差しながら笑うと、ユイの表情が固まった。


「……そういう言い方しないで」

「悪い」


今度は、素直に謝った。

ヒナも不安そうにベッドへ近づく。


「明日、絶対に来ますから」

「学校は?」

「来ますから」


ヒナは質問に答えず、強い口調で繰り返した。2人が病室を出たあと、静けさだけが残った。


電子音。


廊下を通る看護師の足音。


遠くで開閉する扉の音。


右足は痛み止めが効いているはずなのに、心臓が脈打つたび、傷口の奥が熱を持つ。リョウヘイは白い天井を見上げた。目を閉じると、血のついた包丁が浮かぶ。


フユミの無表情。

叫ぶヒナ。

地面に座り込んだユイ。

頭を抱えて震えるハルナ。

最後に見たハルナの顔が、頭から離れなかった。


翌日。


昼を少し過ぎた頃、病室の扉が勢いよく開いた。


ユイとヒナが顔を出す。


2人とも制服ではなく、私服だった。


「リョウヘイさん、具合はどうですか?」

ヒナが真っ先にベッドへ近づく。


「おー、2人とも!」

リョウヘイは、できるだけ普段通りの声を出した。


「丸1日寝たから元気だよ! なんだ?学校サボってきたのか? お前らワルだなー!」


ユイは笑わなかった。

ベッドの横まで歩いてくると、リョウヘイの顔をじっと見つめる。


「元気なフリしなくていい」

「……」

「休んでて。お願い」


肩に手を優しく当てベッドに戻された。

ユイの声は小さかった。

怒っているわけではない。


本気で頼んでいるのだと分かり、リョウヘイはそれ以上ふざけるのをやめた。


「……」


2人はベッドのそばに椅子を並べた。ヒナは座ってからも、何度もリョウヘイの顔や点滴を確認している。ユイも普段なら何かしら話し始めるはずなのに、しばらく口を開かなかった。


「それで……」


リョウヘイから切り出した。


「あのあとは、どうなった?俺も警察の事情聴取で

ある程度は聞いた。でもやっぱりオマエらの口から聞きたい」


ユイは1度、ヒナと顔を見合わせる。

それから、ゆっくりと話し始めた。


ヒナの悲鳴を聞いた近所の住人が、公園まで様子を見に来た。ほぼ同時に、ユイが救急車と警察へ連絡した。リョウヘイは救急車で病院へ搬送され、意識を失ったフユミも別の病院へ運ばれた。フユミは目を覚ましたあと、そのまま警察に逮捕されたという。

ハルナは、現在も警察署にいる。


事情聴取に加え、これまでの家庭環境や、フユミの行動について詳しく話を聞かれているらしい。ユイとヒナも事情聴取を受けた。ただ、2人は事件の被害者側であり、目撃者でもある。保護者が迎えに来たあと、比較的早い段階で帰宅を許された。


「学校にも連絡が入ってる」

ユイが言った。


「先生たちも、もう全部知ってる。今日は先生たちが警察とか病院と話してるみたい」

「そうか……」


リョウヘイは短く答えた。


フユミが捕まったことには安心した。だが、ハルナが警察署にいると聞いても、無事だとは思えなかった。身体に傷がなくても、心まで無事なはずがない。ヒナは膝の上で指を組み、何度も握り直していた。


「リョウヘイさんは……」

何かを恐れるように、1度言葉を止める。


「お医者様は、なんて……?」

リョウヘイは天井へ目を向けた。


「2か月は入院するみたいだ」

「2か月……」

ヒナが息を呑む。


「長いけど、まあ、しゃーない。治すためだからな」


ユイが、さらに問いかけた。

「そのあとは……?」

「そのあと?」

「叩けるの……?」


長い沈黙が流れた。

何を、と聞くまでもなかった。


右足でバスドラムを踏み、両手でスティックを握り、lunatiの一員としてステージへ立てるのか。医師からは、はっきりした答えをもらっていない。神経がどこまで回復するか分からない。筋肉が元通りに動くかも分からない。以前と同じように演奏できる保証はない。その言葉を、リョウヘイは2人に伝えられなかった。


「……」


ユイが、包帯で覆われたリョウヘイの手を見た。

ユイは手を握ってあげたかった。

けれど、傷に触れたら痛いのではないか。包帯の下を傷つけるのではないか。そう考えているのか、伸ばしかけた手を何度も止めている。


「そんな……」

ユイの目に涙が浮かんだ。

「そんなのって……」


「ウソ……」

ヒナも俯いた。

膝の上へ、1粒ずつ涙が落ちる。


リョウヘイは2人の顔を見た。

怖くないわけではなかった。


右足が動かなくなったら。

ドラムを叩けなくなったら。


前世から続けてきたものを、また失ったら。考えれば考えるほど、身体の内側が冷たくなる。それでも、2人の前で終わりを認めるつもりはなかった。


「でもな」

リョウヘイは、ゆっくりと言った。

「俺の身体のことは、俺が1番よく知ってる」


ユイが顔を上げる。



「医者に言われたくらいで、もうできないなんて思えない」


強がりかもしれない。

根拠など、何一つない。


それでも、自分が信じなければ、本当にそこで終わってしまう。


「俺はやる」

ヒナとユイは驚きと共に恐怖を感じた。


「やりたいでも、やらなくちゃでもない。俺はやる」

嘘偽りない言葉がリョウヘイの覚悟の重さを示した。


「死んでもやる。もう決めてる」

「リョウヘイ……」

「だから……」


リョウヘイは包帯で巻かれた右手を、ユイへ少しだけ差し出した。


「手を握ってほしい……」


ユイの唇が震えた。

傷つけないよう、恐る恐る手を伸ばす。


指先で包帯に触れる。

それから、リョウヘイの手全体を包むように、優しく握った。


「うん……」

涙を拭うこともせず、ユイは何度も頷く。


「リョウヘイなら、絶対大丈夫だよ……」

握る手に、少しだけ力が加わった。


「絶対……」


ヒナは隣で声を押し殺しながら泣いていた。

やがて、病室の外から慌ただしい足音が近づいてきた。


扉が開く。


「リョウヘイさん……!」


ティアーユが病室へ飛び込んできた。普段の冷静さは、どこにもなかった。


ベッドに横たわるリョウヘイ。

固定された右足。

包帯に覆われた両手。


その姿を見た瞬間、ティアーユは立ち尽くした。


「なんてこと……! そんな……!」


大切な宝物が、目の前で壊されてしまったかのような表情だった。


「先生、大丈夫です。元気」


リョウヘイが笑いかける。

ティアーユは答えなかった。

唇を強く結び、震える手を胸元で握る。


「……今回の件は、すべて私の責任です」

「先生?」

「本当に……ごめんなさい」


ティアーユは深く頭を下げた。

ユイとヒナが驚いて彼女を見る。


リョウヘイは態度が豹変した。

「違う」


ティアーユが顔を上げる。


「俺たちがやったことだ」

「ですが、私が住所を――」

「関係ない」


リョウヘイは言葉を遮った。


「あの家へ行くって決めたのは俺たちだ。先生に無理やり行かされたわけじゃない」


右手は、まだユイに握られている。

「この傷は俺たちで一生背負っていく。誰にも持たせない」


ティアーユは何かを言おうとした。しかし、リョウヘイの目を見たあと、その言葉を飲み込んだ。


「……すみません」


今度の謝罪は、先ほどとは違う意味に聞こえた。ティアーユはユイとヒナへ向き直る。


「少し、彼と2人で話をさせてください」


ユイはすぐには立ち上がらなかった。リョウヘイの手を握ったまま、ティアーユを警戒するように見つめる。


「大丈夫だよ」

リョウヘイが言うと、ユイはゆっくりと手を離した。


「すぐ戻るから」

ユイはそう言い残し、ヒナと一緒に病室を出ていった。


扉が閉まる。


ティアーユは念のため廊下へ目を向け、それからベッド脇の椅子へ腰を下ろした。先ほどまでの動揺を押し込め、いつもの冷静な表情へ戻ろうとしている。だが、目元にはまだ苦しさが残っていた。


「リョウヘイさん」

「はい」

「赤い目をご存じですか?」


予想していなかった言葉に、リョウヘイは瞬きをした。


「え、先生、知ってるんですか」

ライブの時、いつからか目が赤くなっていた。


自分だけではない。

ユイも、ハルナも、ヒナも。なんならサクラ先輩も。

ステージ上で限界を超えた時、全員の瞳が赤く輝いていた。


「私も、あの目を持っています」

「先生も?」

「はい」


リョウヘイは身体を起こしかけ、右足の痛みに顔を歪めた。


「動かないでください」

「いや、それより……あれは何なんですか。なんか、ゾーン的な?」

「近いものです」


ティアーユは静かに答えた。


「あれは、転生した人間に与えられる、ギフトのようなものです」

「へ?」


リョウヘイは耳を疑った。


「先生、今……転生って……」

「私も転生者です」


あまりにも自然に告げられた。

驚きすぎて、何も言えない。


ティアーユは、そんなリョウヘイの顔を見つめたまま話を続ける。


「なぜ生まれ変わったのか、私にも分かりません」


窓の外へ、一瞬だけ視線を向けた。


「でも、きっと音楽の神様が、もう少しだけ音楽をやっていいよと、特別に許可を出してくれたのだと、私は思っています」


その声には、普段のティアーユにはない懐かしさが混じっていた。


「先生は……なんで……その……」

死んだんですか。


最後まで言葉にすることができなかった。ティアーユは質問の意味を理解し、小さく目を伏せた。


「震災です」

リョウヘイは息を止めた。


「前世では、私は作曲家でプロデューサーでした」

短い言葉だった。


それ以上のことを、今ここで聞いていいのか分からない。ティアーユは再びリョウヘイを見る。


「リョウヘイさんは?」

「……元々、インディーズのバンドマンで」


リョウヘイは前世を思い出した。

仲間たち。

ライブハウス。

夢を追い続けた日々。

そして、突然すべてが終わった瞬間。


「交通事故で……」

「そうですか」

ティアーユは静かに頷いた。


「赤い目は、素質のある人間に伝染します」

「伝染?」

「病気のようなものではありません。音楽を通じて、その力が共鳴していく。表現するなら、伝染という言葉が1番近いでしょう」


ティアーユは真っすぐにリョウヘイを見る。


「私は、あなたが転生者だとすぐに気がつきました」

「いつから?」

「初めて演奏を見た時です。技術だけではありません。音楽との向き合い方が、同年代の人間のものではなかった」


以前、ティアーユが自分を観察するように見ていた理由。妙に早い段階から興味を持たれていた理由。


すべてがつながっていく。


「あなたを特進クラスに招いて、全員が赤い目を持つ最強のチームを作りたかったのです」


リョウヘイは乾いた笑いを漏らした。

「本当にそうだったんだ……」


以前、特進クラスへの交渉の時に、ティアーユの狙いを当てずっぽうで言ったことがあった。

その時は否定も肯定もされなかった。


「あなたに言い当てられた時は、驚きました」

ティアーユが少しだけ目を細める。


「顔に出ていませんでしたか?」

「綺麗なポーカーフェイスでしたよ」

「それはよかったです」


ようやく、ティアーユの表情が少しだけ和らいだ。だが、その変化は長く続かなかった。


「でも、それが原因で、今回のようなことが起こってしまいました」

「先生のせいじゃないって」


「私があなたたちを特進クラスへ招き、ライブへ導かなければ、lunatiが知られることもなかったかもしれません」

「そんなこと言ったら、俺がバンドを始めなければって話になる」


「ですが……」

ティアーユはリョウヘイの固定された右足を見た。


「あなたから……ドラムを奪ってしまった」

「俺は大丈夫。右足刺されたぐらいじゃ、俺はやめない」


リョウヘイは間を置かずに答えた。

大丈夫かどうかは分からない。

それでも、大丈夫だと言うしかなかった。


「そんなことより、事件は?」

ティアーユは少し黙った。


「お母様が、すぐにハルナさんのもとへ戻ることはありません。今後は捜査が進み、必要に応じて精神状態の鑑定も行われるはずです」

「……はい」

「その結果によっては、刑事処分だけでなく、精神科での治療が必要だと判断される可能性もあります」

「ハルナは今どこに…?」


ティアーユの声は冷静だった。

だが、拳は膝の上で強く握られている。


「ハルナさんは……まだ事情聴取が続いていると思います」

「そう、ですか」

「ですが、少しでも時間ができれば、すぐにでもここへ来るでしょう」


リョウヘイは窓の外へ目を向けた。

「そうっすね」


そのあとは、次から次へと見舞い客が訪れた。

両親が来た。


母親には、泣きながら何度も怒られた。父親からは、まず生きていてよかったと言われ、そのあと無茶をしたことを低い声で叱られた。けれど最後には、2人ともリョウヘイの手を握った。


「よくやったね」

母親が涙を拭いながら言う。


父親も静かに頷いた。

「よく守った」


その1言で、リョウヘイはようやく少しだけ肩の力を抜くことができた。そのあとはサクラも病室へ飛び込んできた。


「リョウヘイくん……! 君という人は、どうして毎回こうなんだい! 心配する側の気持ちも分かりたまえよ!」


そう言いながら、最初から最後まで泣いていた。フミはサクラの隣に立ち、包帯だらけのリョウヘイをじっと見た。しばらく黙ったあと、短く言った。


「生きててよかった」


みんながお見舞いに来て帰ったあと、少し落ち着いた頃に綾坂が1人で来てくれた。


「リョウヘイ、顔は思ったより元気そうじゃん」


普段通りの口調だった。

けれど、右足へ目を向けることは1度もなかった。


「ヒナっちたちから聞いた。ほんと、馬鹿だね」

「褒めるなよ」

「褒めてないから、馬鹿」

綾坂はいつものように返してくれたが、笑顔が硬かった。


「喋れるだけよかった。また来るから、絶対安静にしててね。はい、これ」

綾坂はいつものようにニッコリ笑ってそれだけ言うと、持ってきた飲み物を置き、短い時間で部屋を出た。


ドサッ……


扉を閉めた瞬間、綾坂は膝から崩れ座り込んでしまった。


涙を流しながら、声を我慢しようと慌てて口元を抑えた。それでも綾坂は言葉を我慢できない。


なにもできなかった

そばにいてあげられなかった

どうして、どうしてなの

どうしてあの時、なんで


扉の向こうで、リョウヘイは何も聞かないように努めた。


ーーーーーーーーーーーーーー


その後もクラスメイトやらが見舞いに来た。

全員から、同じことを聞かれる。


大丈夫なのか。

痛くないのか。

何が起きたのか。

これからどうなるのか。


リョウヘイは、何度も同じ説明を繰り返した。そのたびに笑い、心配するなと言い、元気なふりをした。夕方になる頃には、身体よりも頭の方が疲れていた。


夜。


消灯時間が近づき、病室は静かになっていた。窓の外には、街の明かりが広がっている。リョウヘイはベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見つめていた。


今日もハルナは来なかった。


事情聴取が長引いているのだろう。それとも、自分に会うことを怖がっているのか。


母親が自分を刺した。


その母親を、自分が頭突きで気絶させた。ハルナがどんな顔でここへ来ればいいのか、分からなくなっていても不思議ではない。廊下から、看護師が消灯を知らせる声が聞こえた。


その時だった。


病室の扉が、ゆっくりと開いた。


リョウヘイが顔を向ける。


開いた扉の前に、ハルナが立っていた。


「リョウヘイくん……」


挿絵(By みてみん)

イメージソング

俺はやる/輪入道

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