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#4 ギャラ交渉

※本作は全話に挿絵があります。

画像が表示されない場合は、挿絵表示設定をご確認ください。


また、たまにイメージソングも記載しています。

よければ楽曲とあわせてお楽しみください。


昼休み。


ユイに連行されたリョウヘイとハルナは、中庭の空いていたベンチへ座っていた。


「よし! 第1回、新歓ライブ作戦会議を始めます!」

真ん中に座ったユイが、勢いよく宣言する。


「俺、参加するって言ってないけど」

「だから説得するんでしょ!」

「それ会議じゃなくて交渉だろ」

「細かいことはいいの!」


ユイは鞄からラップに包まれたおにぎりを2つ取り出した。片方は丸く、もう片方は途中で形を整えることを諦めたように平たい。


隣では、ハルナが水色の包みを広げていた。蓋が開いた瞬間、ユイの目が輝く。


「うわっ、ハルナのお弁当おいしそー!」


卵焼き、唐揚げ、ミートボール。野菜まで綺麗に詰められた弁当は、どう見ても自作とは思えない完成度だった。


「ハルナ、これ自分で作ったの?」

「うん。昨日の残りも入ってるけど」

「卵焼き1個ちょうだい!」

「どうぞって言う前から箸が動いてるよ」


言いながらも、ハルナは笑って卵焼きを渡す。ユイは口へ放り込んだ瞬間、頬を緩ませた。


「甘い! めっちゃおいしい!」

「よかった」

「ハルナ毎日お弁当なの?これ自作?」

「うん、だいたいは自分で作ってるよ」


「すご……アタシなんてこれ」

ユイがおにぎりを掲げる。


「中身は?」

リョウヘイが聞く。


「塩!」

「具ですらないのか」

「塩おにぎりを舐めるな!」


そんな2人を見ながら、リョウヘイはペットボトルの水を飲んだ。


すぐにユイが気づく。

「リョウヘイのお昼は?」

「これ」

「それ水じゃん」

「水だよ」

「ごはんは?」

「ないよ?」


ユイの動きが止まった。ハルナも箸を止める。

「……なんで?」

「金がない」

「えぇ!?」


ユイの声が中庭に響いた。


「入学準備で結構使ったからな。ドラム講師のバイト見つけるまでは節約」

「節約って昼ごはん消すことじゃないでしょ!」

「1食くらい大丈夫だよ」

「それ毎日やる気でしょ!」

「2週間ぐらいだって」

「なんでそんなバカサバイバーなの!?」


前世では給料日前にパン1個で何日か凌いだこともある。それに比べれば、今の生活は十分すぎるほど恵まれている。当然、そんな基準をユイが知るはずもない。


「はい、半分」

ユイがまだ口をつけていないおにぎりを差し出した。


「お前の昼飯が半分になるだろ」

「アタシは朝も食べたし、夜も食べるもん」

「俺も夜は食べるよ?」

「張り合うところじゃない!」


ユイがおにぎりを押しつけ、リョウヘイがペットボトルで防ぐ。


その攻防を見ていたハルナが、小さく口を開いた。

「じゃあ……私がお弁当作ろっか?」


2人の動きが止まる。

「ほ?」

思わず変な声がリョウヘイから出た。


ハルナは少し頬を赤くしながら、自分の弁当へ視線を落とす。


「毎朝、自分の分は作ってるから。1人分増えても、そんなに変わらないし」

「いや、普通に増えるだろ」

「じゃあ……その代わりって言ったら、変かな」


ハルナは箸を置き、リョウヘイを見る。


「リョウヘイくんが新歓ライブに出てくれるなら、ライブまで毎日お弁当作るよ。どう…かな?」


「おお……!」

ユイが感心したような声を出す。


――交渉してきた。


朝はリョウヘイに断られ、そのまま引いたハルナだった。それが昼には、自分から条件を持って戻ってきた。


「休み時間に私も動画見たの。リョウヘイくんのドラム」


ハルナが続ける。

「すごかった」

「ありがとな」


「私、やっぱり1人でステージに立つのは怖い。でも……リョウヘイくんが一緒に出てくれたら嬉しい。きっと安心して弾けると思う」


ハルナの声はまだ少し緊張していた。それでも目は逸らさない。


リョウヘイは少しだけ黙った。


頼りにされたことなら、前世でも何度もある。ドラマーが足りない。曲がまとまらない。ライブまで時間がない。穴を埋めるのは得意だった。


それに。


リョウヘイの視線が弁当へ落ちる。

卵焼き。唐揚げ。ミートボール。

毎日これが食べられる。


「やる」

「軽っ!!」

ユイが叫んだ。


「アンタさっきまで『俺はイカれたメンバーを探しに来た』とか言ってたじゃん!」

「理想を追うにも栄養がいる」

「弁当に買収されてる!」

「正当なギャランティだよ」

「毎日のお弁当で!?」

「バカサバイバーだからな」

「そうだったね!」


ハルナも目を丸くしていたが、すぐに笑った。


「じゃあ……一緒に出てくれる?」

「ああ」

「本当に?」

「その代わり、無理して豪華にしなくていいからな。白飯だけでも助かる」

「ううん。作るならちゃんと作る」


そこだけは妙に頑固だった。


「じゃ、契約成立ということで」


リョウヘイが手を差し出す。ハルナは少し迷ってから、その手を握った。


「よろしくね、リョウヘイくん」

「ああ、よろしくな。ハルナ」


リョウヘイは頷き、それから契約上の重要事項を思い出した。


「ちなみに、回鍋肉が好きだ」

「契約成立した瞬間に注文つけんな!」

「作れとは言ってない」

「顔がめちゃくちゃ期待してる!」


ユイが呆れた声を上げる。


ハルナは一瞬きょとんとしてから、堪えきれないように笑った。


「豆板醤と甜麺醤買わなきゃね」


横からユイが手を伸ばしてくる。

「アタシも!」

「お前は何の契約だよ」

「なんかおかずください!」

「乗っかろうとすんなよ」

「じゃあ仲間の契約もしよ!」

「なんだそれ」


結局、ユイは2人の手をまとめて掴んだ。


「よーし! これで3人!」

「まだ1回ライブするだけだからな」

「はいはい!」

「絶対聞いてないだろ」

「絶対聞いてないね」

ハルナは苦笑いしている。

リョウヘイもハルナも、なんとなくユイの人間性を理解し始めていた。


「じゃあ今日から練習しよ!」


ユイはすぐにスマホを取り出し、校内のスタジオ予約を確認する。


「……全部埋まってる」

「そりゃ入学直後だしな」

「キャンセル待つ!」

「今日は諦めれば?」

「嫌!絶対今日なの!」

「即答だな」

「出なかったら廊下で練習する!」

「ドラムどうすんだよ」

「リョウヘイなら椅子と机で叩けるでしょ!」

「できるけどなんか違うじゃんそれは」


ユイが予約画面を更新し続ける横で、ハルナが楽しそうに笑っていた。


まだバンドではない。

新歓ライブへ出るためだけの、3人組。


ユイがどんなベースを弾くのか。ハルナがどんな鍵盤を鳴らすのか。リョウヘイはまだ何も知らない。でも、それは叩けば分かる。


普段どれだけ大人しくても、楽器を持った途端に別人になる奴はいる。逆に、普段は騒がしいのに演奏だけは異様に繊細な奴もいる。


人間の本性は、音に出る。

音は嘘をつけない。


――さて。


リョウヘイはユイとハルナを見る。


――コイツらはどんな音、鳴らすんだろうな。


新歓ライブまで、あと3週間。


挿絵(By みてみん)

イメージソング

バカサバイバー/ウルフルズ


毎日投稿いたします。20:30更新です。

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