#3 Key.Cho ハルナ
※本作は全話に挿絵があります。
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また、たまにイメージソングも記載しています。
よければ楽曲とあわせてお楽しみください。
入学して数日。まだクラス全員の名前すら覚えていないのに、教室ではすでにいくつかのバンドが生まれ始めていた。
休み時間になると、あちこちで好きな音楽や担当楽器の話が飛び交っている。そんな中、ユイだけは異常な速度で知り合いを増やしていた。
「リョウヘイ! あそこの3人、もうバンド組んだんだって! 全員ギター!」
「じゃあお前ベース弾けば?」
「なるほど! 言ってくる!」
「今ので行くなよ」
止める間もなく、ユイは別の机へ突撃していった。5分後には3人と普通に笑っている。
――コミュ力どうなってんだ。
しばらくして戻ってきたユイは、自分の椅子へ座る。
「3人でギター三重奏がいいんだって。ロマンなんだって」
「じゃあお前邪魔だな」
「それよりさ、アタシたちいつスタジオ入る?」
「まだその話、生きてたのか」
「約束したじゃん!」
「『今度ね』は約束なの?」
「約束だよ。で、今度って何曜日?」
35年生きた前世を含めても、『今度』に曜日を要求してくる人間は初めてだった。
リョウヘイが返答に困っていると、担任が教室へ入ってきた。朝のホームルームを一通り終えたところで、担任は黒板に大きく『クラス委員』と書く。
「よし。そろそろクラス委員を決めるぞ。誰かやりたい人?」
さっきまで騒がしかった教室が、一瞬で静まり返った。全員が揃って視線を落とす。
「……急に静かになったね」
ユイが小声で言う。
「全員、目逸らしたな」
「誰もやらないのかな」
「このままだと担任が指名するだろ」
案の定、担任が大きく息を吸った。
「誰もいないのかー? プリント配ったり、連絡まとめたりするだけだぞー」
誰も動かない。当たり前だ。
その配ったりまとめたりをしたくないからだ。
リョウヘイもやる気はなかった。前世ではバンドの連絡、ライブハウスとの交渉、機材車の手配から酔い潰れたメンバーの回収まで散々やってきた。
2度目の人生まで世話役をやる気はない。
沈黙が担任を追い詰めていく。
その時だった。
「私、やります」
教室の中ほどから、1本の手が上がった。
全員の視線が集まる。
立ち上がったのは、きちんと制服を着た小柄な女子だった。髪も綺麗に整えられ、見るからに真面目そうだ。
「中学でもクラス委員をしていました。私でよければ」
「清水谷、本当にいいのか?」
「はい」
即答だった。担任の表情が一気に明るくなる。
「助かった!じゃあクラス委員は清水谷ハルナさんにお願いする!」
教室のあちこちから安堵の息と拍手が起こった。
「すご。自分からいったよ」
ユイが感心したように拍手する。
「助かったな」
「アンタ、絶対違う意味で言ってるでしょ」
「俺の練習時間が守られた」
「最低」
清水谷ハルナは控えめに頭を下げて席へ戻った。
その時だった。
「あ、そうだ。清水谷」
担任が思い出したように声をかける。
「新歓ライブもよろしくな」
清水谷ハルナが止まった。
「……はい?」
「新歓ライブ」
「……ライ、ブ?」
その反応に、今度は担任が止まる。教室の何人かが「あっ」と小さく声を漏らした。
「もしかして……知らなかった?」
「……何をですか?」
嫌な間が空いた。
担任が目を逸らす。
「東音では毎年、クラス委員が中心になって、新歓ライブで1曲演奏する決まりがあってだな……」
「……」
「説明されてなかった?」
「今、初めて聞きました」
教室が気まずい空気に包まれた。
ユイがリョウヘイへ顔を寄せる。
「罠じゃん」
「見事に捕まったな」
「先生ひどくない?」
担任にも聞こえていたらしく、咳払いが返ってきた。
「まあ、無理なら今からでも――」
「大丈夫です」
ハルナが答えた。
「私、やります」
声には少し戸惑いが残っていた。それでも、さっき上げた手を下ろすつもりはないらしい。
「お、おう。ありがとう、清水谷」
担任の方が申し訳なさそうだった。
リョウヘイはハルナを見る。
知らなかったなら、断っても誰も文句は言わない。それでもやると言った。
――真面目な奴だな。
今のところ、それ以上でもそれ以下でもない。
翌朝。
教室へ入ったリョウヘイは、ユイの席の前にハルナが立っているのを見つけた。昨日とは違って、ずいぶん落ち着かない様子だ。
「おはよ! どうしたの?」
先にユイが声をかける。
「お、おはよう。木下さん、少しいいかな?」
「ユイでいいよ!」
「えっと……ユイ…さん…?」
「惜しい!」
「惜しいの?」
ハルナが困ったように笑う。
少し緊張が解けたのか、小さく息を吸った。
「昨日の新歓ライブなんだけど……私、キーボードなら弾けるの。でも、1人でステージに立つのは少し怖くて」
「うん」
「ユイさん、ベースと歌をやってるって聞いて……もしよかったら、一緒に出てもらえないかな?」
ユイはほとんど間を置かなかった。
「いいよ!いつ!?」
「えっ」
「やろやろ! 新歓ライブでしょ? 楽しそう!」
ハルナの表情が一気に明るくなる。
「本当に?」
「もちろん!」
「ありがとう、ユイさん」
「ライブまでには『さん』取ってね!」
「私のことはハルナでいいから」
「なんかそれ不公平じゃない?」
そして、ユイがこちらを見る。
嫌な予感がした。
「あ、リョウヘイも出るからね!」
「断る」
「早っ!」
「他のドラマー探して」
「なんでよ!この編成ならドラム必要じゃん!」
「必要だけど出るとは言ってない」
ユイが椅子ごとこちらを向く。
「ハルナ困ってんじゃん!」
「だからって俺が叩く理由にはならないだろ」
「リョウヘイー!」
「俺はイカれたメンバーを探しに東音へ来たんだ。頼まれたから誰かの後ろで叩くためじゃない」
ユイの表情が少し変わる。
「でも――」
「それに俺がやりたいのは、ドカドカうるさいロックバンドなんだよ」
「いいの、ユイさん」
ハルナが静かに止めた。そしてリョウヘイへ向き直る。
「急に頼まれても困るよね。ごめんなさい」
「いや、別に謝らなくても」
「うん。でも、ありがとう」
何に対するありがとうなのか分からなかった。
そのままハルナは自分の席へ戻っていく。
ユイがじっとリョウヘイを見る。
「……めんどくさい男」
「2日目にして俺の評価低いな」
「今のでさらに下がった」
「そりゃ残念」
「お昼、3人で話すからね」
「えっ?俺も?」
「ジュース買ってあげるから!」
「いらねぇよ子供か俺は!」
「2本買ってあげるからー!」
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そして昼休み。
チャイムが鳴った瞬間、ユイに腕を掴まれた。
「行くよ!」
「本当にやるのかよ!」
そのまま教室にいたハルナの腕まで掴む。
「ハルナも!」
「えっ、どこに?」
「中庭! ライブの作戦会議!」
「だから、俺まだ参加してないぞ」
「今から参加させるの!」
片手にリョウヘイ、もう片方にハルナ。
ユイは2人を引き連れ、そのまま廊下を進んでいく。
リョウヘイは諦めて歩きながら、隣のハルナをちらりと見た。
昨日、誰もやりたがらなかったクラス委員へ、自分から手を上げた。ライブのことを後から知らされても、逃げなかった。そして今日は、怖いと認めた上で自分からユイへ助けを求めた。
まだ、どんな音を鳴らすのかは知らない。
ただ、少しくらい話を聞いてみてもいいかもしれない。
「ほら早く! いい場所取られる!」
「だったら2人も連行するなよ」
「うるさいなぁ、バンドメンバー候補!」
「勝手に候補に入れんな!」
隣でハルナが、小さく笑った。
新歓ライブまで、あと3週間。
リョウヘイにはまだ関係のない話――のはずだった。
イメージソング
ドカドカうるさいR&Rバンド/RCサクセション
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