# 32 ミーティング
「私を、音楽で笑わせてください」
ティアーユの声が止んでも、教室にはしばらく何の音も戻ってこなかった。窓の外では夏の名残を引きずる蝉が鳴いている。それなのに、この部屋だけ時間ごと切り離されたように静かだった。
音楽で。笑わせる。
意味は分かる。繋げた途端、分からなくなる。
「……あの、先生」
リョウヘイが手を挙げかけたところで、ティアーユは説明を続けた。
「それぞれ1曲、制作してください。lunatiの4人は、バンドで1曲です。期限は9月末までとします」
サクラが背筋を伸ばし、教壇のティアーユをまっすぐに見つめる。
「私達それぞれの手法で、1曲へ仕立てる……そういう課題なのですね?」
「概ね、その認識で構いません」
「承知いたしました。ティアーユ先生から頂いた課題、必ずや期待以上の形にしてみせます!」
声には迷いがなかった。先ほどまでの芝居がかった調子とは違い、敬意と憧れがそのまま言葉になっている。
「先生を笑わせる課題」
フミが小さく付け加えた。
サクラは一瞬だけフミを見たあと、再びティアーユへ顔を向ける。
「もちろん理解しているとも。ティアーユ先生を笑顔にできるのであれば、これ以上に光栄な課題はないさ」
後半だけ、いつもの調子へ戻っていた。ティアーユはそのやり取りを気に留めず、条件を追加した。
「9月末の午後の授業で完成した音源を再生し、私を笑わせてください」
「音源ということは、レコーディングまで含まれるのでしょうか?」
サクラがすぐに尋ねる。ティアーユへ向ける声だけは、相変わらずきちんと整っていた。
「はい。録音、ミックス、マスタリングは綾坂さんが担当してください。作品としての音源の完成度を、綾坂さんの課題として評価します」
「よっしゃー!」
綾坂が椅子を鳴らして立ち上がり、拳を天井へ突き上げた。
「レコーディング! 3曲も録れる! 最高なんだけど!」
「課題を出された人の喜び方じゃないよ」
ユイが半笑いで呟く。
「綾坂さん。喜ぶのは構いませんが、最後まで話を聞いてください」
「はい、ティアーユ先生!」
返事だけは誰よりも明るかった。
「制作には特進スタジオを使用して構いません。個人用の防音室、バンド用スタジオ、施設内の機材を自由に使ってください。制作方法は問いません」
機材という単語に、ヒナの指だけが反応した。
「質問はありますか?」
「あ、はい。ちょっと整理していいですか」
「どうぞ、リョウヘイさん」
「俺達はバンドで1曲。サクラ先輩とフミ先輩は1人1曲。綾坂は全員の録音を担当して、9月末に先生へ聴かせる。それで、先生が笑ったら合格……ってことで合ってます?」
「はい」
あまりにも簡潔な肯定だった。
「笑うって、面白くて笑う、でいいんですよね?」
「笑い方まで私が指定する必要がありますか?」
「ないですけど、方向が多いというか……」
「それを考えることも課題です」
きれいに戻された。
リョウヘイが座ると、ユイが小声で囁く。
「何も分かってないことだけ分かったね」
「確認には成功しただろ」
「分からないって確認できただけじゃん」
その通りだった。
「ほかに質問のある方は?」
沈黙の中で、ゆっくりと手が上がった。
ヒナだった。
「ヒナさん。どうぞ」
名を呼ばれた瞬間、ヒナの肩が跳ねた。それでも手を下ろさず、声を絞り出す。
「せ、先生は……どんな時に、笑いますか……?」
全員の視線が一斉に集まった。
聞きたいことではあった。だが、真正面からティアーユへ尋ねる度胸がある者はいなかった。ユイが机の下で小さく拳を握り、ハルナは心配そうにヒナを見つめる。サクラは、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに目を輝かせていた。ティアーユは、しばらくヒナを見た。そして、ごく小さく息を漏らす。
「ふふっ」
冷たい湖面へ小石を落としたような、静かな笑いだった。すぐに消えてしまったが、7人全員が確かに聞いた。
「……今のような時でしょうか」
ヒナが目を丸くする。
「え……」
サクラは両手を胸元で組み、感極まったように呟いた。
「なんて尊い……」
「サクラ先輩、声に出てます」
ハルナが小声で知らせると、サクラは何事もなかったように姿勢を正した。リョウヘイ達にもなんとなくサクラという人物が分かり初めていた。
「ほかに質問がなければ、私は別件の仕事へ移ります。以降は、自力で課題を進めてください」
ティアーユは資料を閉じた。
「なお、特進課題だけに集中し、午前の授業や英語課題についていけなくなった場合も脱落と見なします。どちらも抜かりなく取り組んでください」
それだけ告げ、本当に教室を出ていった。サクラだけは立ち上がり、閉じていく扉へ向かって深々と頭を下げる。
「承知いたしました。ご指導、ありがとうございます!」
扉が閉じても、しばらく誰も口を開かなかった。
「……行っちゃったね」
遠くを見つめるようにハルナが言う。
「行ってしまいましたね……」
ヒナはまだ、自分が質問した姿勢のまま固まっている。
「待って。今のって答えなの?」
ユイがすかさず疑問を投げつけた。
ハルナが首を傾げた。
「ヒナちゃんが質問したから笑ったのか、先生が自分の返しで笑ったのかも分からないよ」
「後者なら、1人で楽しそうだな」
「け、結局……振り出しでしょうか」
「サイコロすら渡されてないよ!」
ユイの叫びが、静かな教室へ響いた。
「何を言っているんだい、君達」
サクラがゆっくりと顔を上げる。その瞳には、課題への不安よりも使命感が燃えていた。
「ティアーユ先生が私達へ直々に与えてくださった課題だよ? 喜びこそすれ、悩む理由などないじゃないか!」
「悩む理由は、内容が全然分からないからだよ」
フミが即座に返した。
「それも含めて、先生からの愛ある試練なのさ」
「それはサクラだけ」
「フミにもいつか分かるとも」
「分からなくていい」
2人のやり取りを眺めながら、リョウヘイはサクラがティアーユを見る時だけ別人のように礼儀正しくなる理由を、なんとなく理解した。尊敬というより、もはや信仰に近い。
「よし。それならまずは、サクラ先輩が特進の施設を案内してあげようじゃないか!」
空気を払うように、サクラが勢いよく立ち上がった。
「君達は今日が初日だろう? 先輩へ存分に頼りたまえ!」
「ありがとうございます、サクラ先輩」
ハルナが頭を下げると、サクラは満足そうに胸を張った。
「うむ。いい響きだね、サクラ先輩。気に入ったよ!」
フミがノートを閉じて立ち上がる。
「フミも一緒に来るのかい?」
「サクラ、方向音痴だから」
「歌姫に向かって音痴はやめたまえよ」
「歌は上手い。方向が音痴」
サクラは少し考え、反論を諦め歩き始めた。
教室を出て、早速逆方向に行こうとするサクラをフミが無言で睨みつけて止めた。
電子錠の扉を抜けると、長い廊下の両側に防音室が並んでいた。厚いカーペットが足音まで吸い込み、学校というよりレコーディング施設に見える。
「驚いたかい? ここが特進スタジオさ!」
サクラは得意げに、名前入りのプレートを指した。
「それぞれの個人スタジオだ。君達4人は、1番奥の大部屋を使うといい。もちろん個室に楽器を持ち込んでも構わないよ」
「自分の部屋が学校にあるって、変な感じー」
ユイは頭の後ろで手を組みながら、個室を見渡していた。
「ヒナちゃん、住まないでね」
「ベッドがあれば完璧ですね!」
「ヒナくん、次の部屋はもっとテンション上がると思うよ」
続いてサクラに案内された機材庫の扉が開いた瞬間、ヒナの目が大きく見開かれた。壁際にはギターアンプとベースアンプが並び、棚にはエフェクターやマイク、ケーブル類が整理されている。奥には複数のスネアやシンバルケースまで積まれていた。
「こ、これ……全部、使っていいんですか?」
「もちろんさ。貸出表へ名前を書けば、特進スタジオの中では自由に使えるよ」
「このアンプも……こっちのキャビネットも……?」
「使えるとも。申請すればエフェクターの貸し出しも可能だよ。」
「天国……」
ヒナはアンプの前へしゃがみ込み、宝物へ触れるように筐体を撫でた。
「ヒナ、オレンジあるぞ!」
「本当ですか、リョウヘイさん!」
勢いよく振り返ったヒナの目は、教室にいた時より何倍も輝いている。リョウヘイも棚の奥にあるスネアへ手を伸ばした。
「ブラックビューティー!?マジかよ…ヴィンテージも貸し出してんのか。こっちはイスタンブール!?どうなってんだここは!?」
「リョウヘイも始まっちゃった…」
ユイが呆れたように腕を組む。
「2人とも急に元気になったね」
ハルナが笑った。
「コイツら機材好きだよねー」
「ユイちゃんはいいの?」
「ロックバンドのベースなんて低音出てればなんでもいいでしょ」
綾坂はすでにマイクを1本ずつ確認していた。
「58、57。ゼンハイザー、AKG。主要メーカーは全部揃ってるね。コンデンサーもある!これ使ってみたかったんだ!」
「綾坂さん、もう楽しそうだね」
「機材オタクだったら、ここで一日中遊べるよ」
1通り機材庫を見たあと、一同は廊下の1番奥にあるバンド用スタジオへ入った。重い防音扉の向こうには、高い天井と広い空間が現れた。壁一面には吸音材と木製の拡散板が組まれ、中央にはドラムセット、その周囲にはアンプとマイクスタンドが余裕を持って配置されている。
「広っ!」
ユイの声が天井へ抜ける。
リョウヘイはドラム椅子へ座り、軽くスネアを叩いた。乾いた1音が部屋へ広がり、壁に吸われて綺麗に止まる。余計な反射が少なく、輪郭だけが気持ちよく残った。
「いい部屋だな」
前世で使ってきた商業スタジオと比べても遜色がない。学校の練習施設というより、作品を完成させるための部屋だ。綾坂も手を叩き、その響きを確かめる。
「うん。録りやすそう。ドラムはマイクの位置でかなり遊べるね」
「今ので分かるの?」
「分かるよ。部屋も楽器みたいなもんだから」
「サクラ。ラウンジ」
入り口からフミの静かな声が飛んだ。
「ああ、そうだった! 危うく先輩としての務めを半分で終えるところだったよ」
「やっぱりフミ先輩がいないと迷うんだ」
ユイが言うと、サクラは咳払いをした。
「優秀なアイドルには、優秀な参謀が必要なのさ」
「必要なのは知識と空間認識能力」
フミはそれだけ言って歩き出した。続いて案内されたラウンジには、ソファや作業机、簡単なキッチンスペースまで揃っていた。窓の向こうには山の緑が広がっている。
「作曲、編集、ミーティング、休憩。好きに使って構わないよ」
「学校に来てること、忘れそう」
「大丈夫さ!午前中の授業ですぐ思い出せるよ」
サクラの答えに、lunati全員の表情が曇った。フミは迷わず隅の席へ向かい、ノートパソコンを開く。
「私は、いつもここ」
「フミの返事がない時は集中しているだけだから安心したまえ」
「基本無視するから。頑張って話しかけて」
「どうだい!最高だろ私の相棒は!」
「はい、お二人とも最高です」
ハルナが苦笑している。
「ミーティングルームもある。君達は相談することが多いだろうから、使うといい」
「ありがとうございます。すごく助かりました」
ハルナが頭を下げる。
「構わんよ、後輩諸君! その代わり、私が困った時には華麗に助けに来るように!」
サクラは満足げに手を振り、ラウンジを出ていった。
「ドラムが必要なら呼んでください!」
リョウヘイが背中へ声を投げると、廊下の向こうから「覚えておこう!」と返ってきた。フミはすでに画面へ集中し、綾坂は録音設備を調べると言ってスタジオへ戻った。
残された4人は、ミーティングルームを1時間予約した。小さな部屋へ入り、テーブルを囲む。扉が閉まると、豪華な施設へ浮かれていた空気が落ち着いた。目の前にあるのは、9月末までにティアーユを音楽で笑わせるという、正体不明の課題だ。
リョウヘイは3人を見回した。
「じゃあ、作戦会議といくか。まず、何か案がある人」
「ない!」
ユイが元気よく答えた。
「返事だけは完璧だな」
「分かんないものは分かんないもん。面白い曲って何?」
「変な音を入れてみる、とかかな」
ハルナが考えながら指を折る。
「ホイッスルとか、カウベルとか。急に変な効果音を鳴らして、コミカルな雰囲気にするの」
「最初は面白くても、2回目から普通にならない?」
ユイの言葉に、ハルナは首を傾げた。
「そうなんだよね。たぶん、音が変なだけじゃ足りない気がする」
「歌詞を全部ダジャレにするとか?」
「それもなんか違う気がするな」
「少なくともlunatiらしさはないよね…」
ヒナはしばらく黙っていたが、申し訳なさそうに口を開いた。
「やっぱり……ヒントは、なかったんでしょうか」
教室で質問したことを気にしているらしい。
「いや。あったと思う」
リョウヘイが言い切ると、3人が顔を上げた。
「どこに?」
「ティアーユ先生が笑った瞬間だよ」
リョウヘイは椅子へ深く座り直す。
「あの場で、ヒナがあんな質問をするなんて誰も思ってなかった。先生も同じだったんじゃないか」
「予想してなかったから、笑った……?」
ハルナが呟く。
「たぶんな。笑いって、想像していた流れを外された時に起こることがあるだろ。ヒナの質問は、あの教室の空気から完全にはみ出してた」
「わ、私、そんなに変なことを……」
ヒナの顔が赤くなる。
「違う。褒めてるんだ」
「リョウヘイの褒め方、たまに怖いよ」
ユイが言う。
「要するに、予想を裏切ればいいってこと?」
「ただ適当に外すだけじゃ駄目だ。まず、聞いてる側に次を予想させる。その予想ができたところで、別のものを出す」
リョウヘイは指でテーブルへ一定の間隔を刻んだ。
「例えば、短いフレーズを繰り返す。何度か同じ形を聞けば、次も同じものが来ると思うだろ」
4回目だけ、指を止める。
ユイの目が動いた。
「来ない」
「そう。来るはずの場所で来ない。逆に、まだ来ないと思ってる場所へ急に入れる。同じ材料でも、置く場所を変えれば『なんで今!?』ってなる」
「それを曲全体でやるんだ」
ハルナが理解したように頷く。
「リズムだけじゃなくて、歌やコードでもできそう。明るく進むと思わせて、急に景色を変えたり」
「でも、ぐちゃぐちゃにはしない。裏切る前に、ちゃんと信じさせる。次はこう来るって思わせる流れが必要だ」
ヒナの指が、見えない弦を弾くように動き始める。
「短いギターフレーズを繰り返して……途中だけ音を変えるんじゃなくて、入る場所そのものをずらす……」
「そう。フレーズ自体は格好いいのに、出てくるタイミングだけ少し間抜けだったりすると面白い」
「格好いいのに、間抜け……」
ヒナがその言葉を噛みしめる。
「聞いた人が一瞬置いていかれて、そのあと笑う。そういう曲なら、ティアーユ先生にも届くかもしれない」
短い沈黙のあと、ユイが勢いよく手を挙げた。
「面白そう! アタシ、それやりたい!」
「私も。格好いい曲として成立させた上で予想を外すなら、楽しそう」
ハルナも笑う。
ヒナは2人より少し遅れて、はっきりと頷いた。
「私も、やりたいです」
「よし。方向性は決まりだな」
リョウヘイはテーブルを1度叩いた。
「中心になるのは、短くて覚えやすいループフレーズ。パンチラインが必要だ」
「パンチライン?」
ヒナが首を傾げる。
「1回聞いただけで耳に残る、曲の顔みたいなフレーズだ。イントロを数秒聞いただけで、何の曲か分かるやつあるだろ」
「ああ、あれね!BEAT ITみたいな!」
ユイが指を鳴らす。
「そのパンチラインを、ヒナに作ってほしい」
リョウヘイが言うと、ヒナの動きが止まった。
「……私が、ですか?」
「ギターで作る。最初の1音で全員を振り向かせるようなやつ」
突然役割を渡され、ヒナは何度か瞬きをする。だが、逃げるように目を伏せることはなかった。膝の上で拳を握り、リョウヘイを見返す。
「それは……ギターの仕事ですよね」
「ああ」
「なら、私がやります」
声には緊張が残っていた。それでも、最後の言葉は強かった。
「絶対に、忘れられないフレーズを作ります」
以前のヒナなら、自分にできるかを先に考えていたはずだ。今は、自分がやりたいかを先に選んでいる。リョウヘイは小さく笑い、頷いた。
「頼んだ」
「はい!」
「テンポは先に決めておこう。BPMは125」
「理由は?」
ハルナがノートを開く。
「踊れる速さは欲しい。でも速すぎると、フレーズの妙な間を聞かせにくい。125くらいなら、4つ打ちにもできるし、ファンキーにも振れる」
「分かった。125ね」
ハルナが数字を書き込む。
「ハルナは、このテンポの曲をできるだけ調べてくれ。アレンジや展開で使えそうなものを集めて、選択肢を増やしておきたい」
「うん。ダンス系だけじゃなくて、ロックやファンクも探してみる」
「ユイは歌詞。まだ曲がないから、まずはコンセプトの候補を出してくれ。ハルナと相談しながら進めて」
「任せて! 笑える歌詞にすればいいんでしょ?」
「曲の仕掛けで笑わせる方向だから、歌詞までふざけなくていい」
「危なっ。全編ダジャレにするとこだった」
「さっき却下したよ、ユイちゃん」
ハルナが笑いながらユイのノートを取り上げる。
「私も一緒に考えるから、まず普通にテーマを決めようね」
「普通ってなんだろうね」
「急に哲学的になるのやめてよ」
2人のやり取りを横目に、リョウヘイは最後にヒナを見る。
「ヒナのフレーズができたら、そこを軸に一気に組み立てる。それまで俺達は準備を進める。最初の1歩はヒナに任せることになる」
責任の重さを隠さず伝える。
ヒナは一瞬だけ息を止めた。それでも、今度は迷わなかった。
「分かりました。今日から作ります」
「学校では無理しすぎるなよ」
「はい」
返事が妙に素直だった。
リョウヘイは一抹の不安を覚えたが、ヒナの瞳に灯った熱を見れば、今ここで水を差す気にはなれなかった。
「よし。方向性も役割も決まった。あとは各自、動こう」
「なんか急に、本当に曲を作る感じになってきた!」
「課題が発表されてから、ずっと本当に作る話だったよ」
ハルナが笑う。
「私、今すぐギターを弾いてきてもいいですか?個室使ってみたいです!」
ヒナはすでにギターケースへ手を伸ばしていた。
「おう、行ってこい」
「私も個室にパソコン持っていこうかな」
「アタシ、インスピレーション高めてくる!」
4人は荷物を持ち、部屋を出た。廊下の先には、それぞれの名前が付いたスタジオが並んでいる。まだ何の音も入っていない、真っ白な部屋。
9月末まで、あと1か月。
ティアーユを笑わせる曲がどんな姿になるのか、今は誰にも分からない。ただ、ヒナだけはもう、頭の中に鳴り始めた何かを追いかけるように、1番早い足取りで機材庫へ向かっていた。
イメージソング
BPM(feat.KREVA)/Kvi Baba




