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Re:frey ―リフレイン― 虚器盈つる黎明譚  作者: 14to
第二章

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24.目前

 子供たちが世那のドームで身を寄せ合っていた頃。

 ロイが護たちの元へ駆けこんできた。

 その腕は骨が見えるほどに肉が裂け、その骨も、片方は砕けていた。腕はだらりと垂れ、息も乱れている。


「衛さんが、敵の気を引いて逃がしてくれて………」


 護の治療を受けながら、ロイはそう言う。


「…衛さん、一人なの?」


 そこに、阿良汰がやってきた。その声は弱々しく、とても遠慮がちだ。

 先程のことを負い目に感じているのだろう。皆から少し離れた場所で、なかなか人に近づこうとしない。


「ああ。開けた場所だし、衛さんが簡単にやられるとは思えないけど…」


 ロイがそう答えたものの、阿良汰は浮かない顔のままだ。


「…一緒に戻るか?」


「いいの?」


「いざという時はオレが止めてやるよ」


 ロイの提案に、阿良汰は顔をほころばせた。


「龍之介が作ったマスクがあるだろ?接近しなければある程度は大丈夫だろう。少しでも違和感があれば、距離を取るんだぞ」


「うん」


 二人のやり取りに、護は軽くため息をついた。


「この怪我で戻るつもり?とりあえず動かせる程度まで治しはするけど、短時間じゃ完治はできないよ?」


「動けるなら構わない。今向こうにいるのは衛さん、朱音、燦の三人だ。少しでも人手が要る。」


「私が行こうか?」


 そこに、牧生が声を掛けた。


「石畳の下の土を動かせるのか?」


「んー。できなくはない。けど、周りの土で一気にやっちゃえばよくない?」


「…それ、味方も巻き込まれるんじゃないか?味方だけ避けて攻撃するとか、そんな器用なことできたか?」


「あーーー。そっかあ。じゃあ、ここにいるわ」


 ロイの言葉に、牧生は頭をかいてあっけらかんと答えた。


「もしもの時は頼む。全員退かせるから」


「あいよー」


 そう言って、牧生は軽く手を振りながら、救護車の周辺を見回るためにその場から去っていった。






❖❖❖❖❖






「にげて」


 杏の声は酷く震えていた。

 ぽたぽたと、雫が落ちてくる。


「杏………」


 燦が呼びかけたその時。


「うぅ………ぁ、あ”ぁ、あああああああああああ!!」


 杏の喉から漏れた声は、呻きというより悲鳴に近かった。

 かすれた声が辺りに響く。

 喉が裂けそうなほどに叫び、顔を押さえ、必死に藻掻く。


 

「杏?杏!?」


 杏は我を忘れたようで 、燦が肩を掴み、何度も声をかけるが一切答えない。

 燦の手を振りほどくように杏は両腕を振り、燦の襟を掴むと、力任せに投げ飛ばした。


「うぐっ」


 地面を激しく転がる。

 燦が顔を上げた時には、周囲の彩礫が杏に呼応するようにざわつき始めていた。ぱちぱちと、閃光が散る。

 呻き声はさらに大きくなっていき、杏を中心に彩礫濃度が高まっていく。

 空気が軋み、息が詰まるような感覚が辺りを支配した。

 燦の呼吸が次第に浅くなっていった。

 中庭中から無数の鎖が現れ、荒ぶり始める。段々と縦横無尽に暴れ出し、金属音が四方で鳴る。

 そして突如、杏が燦に飛びかかった。

 即座に作った短剣で、何とか杏の杭を受け止める。二人の間に、ぎりぎりと金属が擦れあった。


「………殺さなきゃ」


「え」


 不意に、杏が呟く。

 その言葉に、思わず燦の力が緩んだ。

 杏の鎖はその隙を見逃さなかった。

 腕に鎖が巻き付き、ちぎれそうな勢いで引っ張られる。

 踏ん張ろうとしたが、抵抗も虚しく体は浮き上がった。

 鎖が中庭中を駆け巡り、燦の体が地面や壁に激しく叩きつけられる。

 鎖が巻き付いている腕の感覚が失われていき、体中が軋む。最早どこが痛いのかわからなかった。

 意識が遠のき始めた頃、燦の身体は外壁へ叩きつけられた。直後、無数の杭がその身体へ殺到する。


「う”ぁ”っ」


 何本もに杭が燦の肩や手足をを貫き、壁に縫い付けた。それはまるで磔のようだった。

 杏の瞳がまっすぐに燦を捉える。

 燦は必死に拘束から抜け出そうとしていた。動くたびに、傷口から血が噴き出す。しかし燦は、痛覚が麻痺しているかのように、それに構わず藻掻き続けた。

 苦悶の表情を見せる燦に、杏は温度のない表情を向ける。それはとても無機質で、陶器の人形のようだった。

 杏は燦の元へゆっくり歩を進めながら、手元の楔をくるりと回し、逆手に持ち替える。

 燦は藻掻きながらゆっくりと迫る杏に目を向けた。

 

 瞬きの間に。


 杏は目の前まで迫っていた。

 大きく杭を振り被る。

 燦は杏の名前を呼ぼうとした。

 しかし。

 杏の表情には、躊躇いなど一欠けらも無いように見えた。

 それを悟った瞬間、燦は全身の力を抜いた。


 自分が、杏をこうまでさせてしまったのだろうか。


 「にげて」と言ってくれた杏はもういないのだろうか。


 どちらにせよ、


 もう――


 全てを受け入れ、目を瞑る。

 

 だが、想定していたような痛みは燦を襲わなかった。


「ギリギリだったね」


 またしても。


 燦を危機から救ったのは衛だった。


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