22.分岐
「あるんじゃないか?もっと他に言うことが」
その言葉に、燦ははっとする。
今、目の前にいる杏は――。
「………ごめん」
やっと出た言葉は、それだった。
今の燦にはどうしたらいいか、わからなかった。
杏を救いたい。その思いは変わらない。
けれど。
自分が杏に向けてきたものは。
自分が抱いてきたものは。
全部、間違っていたの…?
わからない。
もう何も。
自分が、手を差し伸べるべきなのだろうか。
自分が、手を差し伸べていいのだろうか。
今、自分にできることは。
それでも、ボクは。
「杏。一緒に、曙苑に行こう。庭師になろう」
燦は、手を差し出して、杏に言葉を向けた。
その言葉に、杏の目はわずかに見開かれた。
微かに、口が動く。
しかし、暫しの沈黙の後、杏はうつむくと、首を振った。
「………誰が、お前なんかと」
「え………?」
「誰がっ、お前なんかと行くもんか!!」
その叫びと共に飛んできたのは、
無数の鎖だった。
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「げほっ、けほっ、今どういう状況!?」
傍らにうずくまる龍之介に、衛は問いかける。
「ロイさんは、あの男にかかりきりでっ、阿良汰くんはっ、あの女に、おそらく、洗脳………」
「っ、じゃあ、その傷は阿良汰によるものだね?………わかったっ。もう、喋らなくていいよ。内臓が、傷ついているだろう」
「衛、さんは」
「肋骨が、肺にね」
そう言って衛は顔を歪ませながら笑う。よく聞けば、呼吸音に湿った雑音が混じっている。
衛は、耳元の端末に話しかける。
「ロイ。暫く一人にしていいかい?」
『あんま持ちませんよ?』
「すぐ戻るよ。五分、稼いでくれ」
『仕方ないっすね。できれば三分で帰ってきてください』
「…頑張るよ」
衛は苦笑いをする。
「そこのお姉さん、楽しい時間はこれまでだよ」
衛はひめこにそう告げると、阿良汰を手元へ転移させた。
阿良汰は衛の腕から逃れようと藻掻く。
「っ!放せっ、お母さんがっ」
「ごめんね、阿良汰」
衛は龍之介と阿良汰を抱えると、その場から転移し、姿を消した。
❖❖❖❖❖
一方、その頃。
一心たち三人は、子供たちをトロッコに乗せていた。
クレーンで積み降ろしするような、貨物用を思わせる籠型のトロッコは優に一心たちの背丈を越えていた。
天が慎重に子供たちを浮かせて中に運ぶ。
「これだけ大きければ、一台で事足りそうだな」
トロッコを見上げ、駆琉がそう呟く。
「眺めてないで、こっち手伝ってよ」
一心は、トロッコの後部からそう叫んだ。その手には、何やら機械が握られている。
彩礫推進器。来栖お手製の、謂わばロケットエンジンである。
「ずれてない?それ。まっすぐ飛んでくれないよ、それじゃあ」
「だから手伝ってってばあ!」
その時、上部で爆音が轟いた。
激しい揺れが辺りを襲い、天井からぱらぱらと小さな石片が落ちてくる。
「ほらあ!急がなきゃ!」
一心は足場へ駆琉を引き上げた。
「こっちは済みましたよ」
そこへ、天が上から声を掛けた。
「こっちももうすぐ終わるからっ」
その言葉に、天は身を引っ込め、中の子供たちへ視線を向ける。
牢屋や、放置されていた資材置き場から、ありったけの麻布をかき集めたが、麻布なんかに防寒が期待できるはずもなく、子供たちの体は酷く震えていた。
もっとも、その震えが純粋に寒さからくるものなのかはわからないが。
「終わったよ」
その声と共に、駆琉が這い上がってきた。下の一心へ手を伸ばす。
「じゃあ、やりますよ」
一心が無事に中に入ったのを確認すると、天は駆琉と手を繋いだ。
「道中には何もないんですよね?」
「うん、何もないよ」
一心の言葉に天は頷く。
「じゃあ、駆琉くん、頼みましたよ」
「そっちこそ。浮かしすぎないでね」
「心配しなくても、君の異能ありきでもこれは数センチ浮かせるのがせいぜいですよ」
「一心も、エンジンの加減気をつけてね。最悪全員死ぬよ」
「やめてよ!プレッシャーに弱いの知ってるでしょ!」
二人のやり取りに天は苦笑いを浮かべながら、トロッコに彩力を込め始めた。
徐々に、けれど確実に、トロッコが浮かび始める。
「いいですよ、一心くん」
「やるぞー…いくぞー…」
一心はリモコンを手に何度も深呼吸をする。
「えいっ!」
一心は目を瞑り、勢いに任せてスイッチを入れた。
エンジンが熱を帯び、徐々にトロッコが前へ進み始める。
「おおおおおおお」
徐々に速度が上がり、駆琉が声を上げる。
「いっけえええええええ!!!」
一心の叫びに応えるように、エンジンは彩礫を噴き出し、トロッコは勢いよく飛び出していった。




