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Re:frey ―リフレイン― 虚器盈つる黎明譚  作者: 14to
第二章

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21.果肉

 意識が揺れる。視界が揺れる。


 今、自分はちゃんと地に足がついているのだろうか。壁に手をつけている?


 わからない。


 何もかもが定かでない中、杏は足を前へ運んでいた。

 次第に、視界が開ける。


 ここはどこだろう………中庭…?


 激しい戦いの音と声が耳に届く。

 姿ははっきりと見えない。

 でも、その声は。


「気になるなら聞いてみろよ。本人に」


 その声と共に、視線を感じた。

 よく知る、うっとうしい程の視線を。


「杏!!」


 思った通りの声が聞こえる。

 

「杏。話してやれよ、このわからずやに。お前が嫌いだって」


 サリオンの声に、心臓が嫌な音を立てる。


 言っては、いけない。


 言いたくない。


「そんなことないよね?ボク、ちゃんと知ってるよ、本心じゃないって」


 やめろ。


「………れよ」


 上手く、声にならない。


「ボクたち、親友だよね?今までだって、これからだって…」


「黙れよ…!!」


 酷く、かすれた声が、やっと形になった。


「一旦、黙ってくれよ………。お願いだから………」


 胸が爆発しそうな感覚に、苛立ちが募る。


「でも、」


「でもじゃねぇよ。おまえはいっつもそうだな。俺の言うことを全く聞きやしない」


 いつも、そうだ。いつも、いつもいつも。


「そんなことっ」


 声が、苛立ちをさらに掻き立てる。


「ああ、そうだな。そんなことなくなったんだよな。よりによって、あんな言葉だけ律儀に守って姿消しやがって」


 目頭が、熱くなる。視界が、さらにぼやける。

 それとは裏腹に、口角が吊り上がるのを感じた。

 もうとっくに、それらは制御を失っていた。

 ぼやけて輪郭さえ定かでない燦の姿が、ただただ腹立たしい。

 

 今、あいつはどんな顔をしているだろうか。こんな自分の姿を見て、何を、思っているのだろう。


「俺は、………僕は、お前が思っているような人間じゃない。酷く醜悪で、みっともなくて、ちっぽけで」


「そんなことない!」


「そんなことあるんだよっ」


 やめろ。


「そんなことないよ!杏はいつも綺麗で、かっこよくて、頭良くて――」


 いつもそればっかり。それ以上言うな。


「やめろ!そんな良いもんじゃない」


「杏はいつも完璧なんだ!!ボクなんかとは何もかもが違って――」


 やめてくれ。


 これ以上、僕を惨めにさせないでくれ。


 これ以上、僕に完璧を押しつけないでくれ。


 お前も、母さんも。


 もう、”完璧”はうんざりだ。


「やめろっていってんだろ!!そんなんだからお前のことが大っ嫌いなんだ!!」


 気づけば、そんな言葉が口から溢れていた。

 暫しの沈黙が、辺りを包む。

 見えなくても、わかる。

 燦が、傷ついているのが。


「ずっっっっと大嫌いだったよ、お前のこと!何も知らずにへらへらとうっとうしく付きまといやがって!!何言っても聞いちゃいないし、なんも見ちゃいないのに、余計なことばっか言ってくるし、余計なことばっかするし!!」


 駄目だ。そんなことを言っては。


「ずっと、後悔してた。お前をかばうなんて、馬鹿なことしなければよかったって。そんなことしなきゃ、お前に付きまとわれることもなかったし、………っ、あんな、惨めな思い、しなくて済んだのにっ」


 駄目だ。これ以上は。


「宵ちゃんは………宵ちゃんは、知ってるの…?」


 ………この期に及んで、こいつは。


 出てくるのはそんな言葉なのか。


 やめろ。


 やめなきゃ。


 言ってはいけない。


 それは。


 戻れない。


 それ以上は。


「当然だろ」


 全てを嘲笑うように、驚くほど自然に、その言葉は表に出てきた。


 感じる。


 燦の、絶望が。


 止まらない。


 自分の口が。


「自分が一番とでも思ったか?勘違いも甚だしいな。どこまでもおめでたい奴だ」


 違う。そうじゃない。


「いつも知ったような口きいて、得意げに的外れなこと言って。そんなんだから、俺や宵以外とまともに関われないんだろ」


 止まれ。


「お前はいつも世界から弾かれてんだよ。気づけよ、いい加減」


「嘘だ」


 やっと、燦の口が開いた。


「嘘だ嘘だ嘘だ!嘘だよね?本当は、そんなこと、思ってないよね?」


 知るか。


 最早、自分でもどこまでが本音かなんて分かりはしない。


「お前は、本当に何も変わらないんだな」


 気づいて。せめて。


「あるんじゃないか?」


 これ以上、諦めたくない。


「もっと他に言うことが」


 お願い。気づいて。





 燦。


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