16.会合
暗く、荘厳な広間で。中央に据えられた玉座へ向け、八つの黒い影が跪いていた。
高い位置に置かれた玉座の上には、目元が布で覆われた少年が鎮座していた。
傍らに控える少女が、口を開く。
「虚器盈つるは聖刻なり。黒月昇りしは黎明とならん」
それに応えるように、八人の声が重なる。
「「我ら胚胎せし蛇故に、其を迎える者なり。無瑕の帳を降ろさん」」
広間の外で、杏は空を眺めていた。白い月が杏の顔を照らす。
廊下に錆び付いた音が響き、戸が動くと、杏は慌てて跪き、胸に手を当て顔を伏せた。
数人の足音が通り過ぎ、そのうちの一つが戻ってくると、頭上から妖艶な声がかかる。
「杏、今晩も部屋に来てね」
「…承知しました」
言葉を返しながら、杏は胸元をぎゅっと握りしめた。微かに、手が震える。
遠ざかる足音を聞きながら、湧き上がる冷や汗をそっとぬぐった。
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地下牢の並ぶ通路へ来ると、漂う異臭に杏は微かに顔をしかめた。
一つ一つ中を確認し、奥へ歩を進めていく。
その途中で、か細い手が杏の足へ触れた。
歩を止め、その少年へ目をやる。
「た、すけ、て」
か細い声に、杏は唇を噛みしめ、目をそらした。
「………ごめん」
かすれた声が、口から漏れる。
少年たちは、知っていた。杏が、加害者の立場でありながら自分たちと似た境遇であることを。
少年たちは、知っていた。杏が、自分たちの為に無理してごはんや布を用意してくれていることを。
少年たちは、知っていた。杏には、一人で自分たちを救い出すだけの力があることを。
少年たちは、知っていた。
そう、少年たちは、知っていたのだ。
杏には、自分たちを、そして彼自身を、救う意思が無いことを。
期待と、渇望と、羨望と、絶望が、少年たちを満たしていく。
柳原杏は、知っていた。そんな少年たちの想いを。
噛みしめた唇から血が零れ、床に跡を残す。
杏は全てから目を逸らすように、瞼を閉じ、走ってその場から去っていった。
いくつかの戸を過ぎたところで、杏は息を切らし、廊下の壁際で蹲っていた。
懐から短剣を取り出し、刃を己に向け、握りしめる。
とめどなく涙が溢れ、呼吸は乱れるばかりであった。
「やくそく、やぶるの?」
突如後ろから、幼い声がかかった。
「結愛………」
先程まで玉座の傍らに控えていた少女の名を杏が口にすると、少女は杏の前に座り込んだ。短剣を握る手にそっと自身の手を添える。
「やくそく、した。わたしをおいて、しなないって」
「ごめ、」
「あやまってほしいんじゃないの。ただ、わすれないで。やくそく」
結愛が「やくそく」と口にするたびに、杏の瞳は黄金に瞬く。
次第に、短剣を握る手からは力が失われていき、短剣は音を立てて床に落ちた。
涙を流し続ける杏の首に腕を回し、そっと抱きしめると、結愛は震える声で懇願する。
「みすて、ないで。おにいちゃん。わたしたちを。わたしと、おにいさまを」
杏は結愛の小さく細い背に腕を回し、そっと、抱きしめ返した。
「あとすこし。あと、もうすぐで、『にわし』が、くるから。しんじている。とおくないみらいで、おにいちゃんがわたしたちをむかえにきてくれることを」
結愛は腕に力を込めると、さらに続けた。
「ごめんなさい、おにいちゃん。………ごめんなさい」
その声を耳にしながら、杏はただ、涙を零すことしかできなかった。




