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Re:frey ―リフレイン― 虚器盈つる黎明譚  作者: 14to
第二章

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14.接敵

 サリオンたちと事件の関係、そして彼らの本拠地を探るべく、第五部隊は連日奔走していた。

 『中学生男児連続失踪事件』は悪化の一途を辿っていた。推察される環境を考えても、猶予はほとんど残されていない。

 見えないリミットと微かな不和に、皆の精神は日々すり減らされていく。




 そんな中、燦の班は比較的平和だった。

 ある日、燦は一心と龍之介と共にワープに使用されたとみられる彩脈の一つに来ていた。

 本格的な追い込みのために、曙苑は手の空いている者を一時的に第五部隊へと増員させ、龍之介はその一人として今回加わっていた。

 龍之介が、彩脈に向けてとある機器をかざす。

 彩動感知器。来栖ががらくたを改造し、新たに開発した道具である。彩礫の増減を感知するシンプルな機械だが、こと対ワープにおいては重要であった。

 燦たちには詳しく理解できなかったが、要はこの機器によって彩礫の消費量を割り出し、おおよそのワープ距離を特定できるのだという。それを複数箇所から行うことで、“本拠地(仮)”の位置を絞り込む、という作戦だった。


「これ、だいぶ地道だし、上手くいったとてそこが本拠地じゃなかったらかなりだるくない?」


 一心が隣でぼやいていると、龍之介が口を開いた。


「うちの班はまだマシっすよ。なんたって一心くんがいますからね。彩脈なんて探す暇もなく一発じゃないっすか」


「まあね」


 龍之介のわかりやすいおだてに、一心はふふんと鼻を鳴らした。


「少し周り見てくる」


 暇を持て余した燦は、ふらりと立ち上がる。


「あんまり遠くに行っちゃダメっすよ~」


 龍之介の言葉に曖昧に返事をすると、燦は適当に歩き出した。雪に刻まれた足跡を上書きするように踏みながら歩いていると、突如一心の声が聞こえてきた。


「燦!しゃがんで!」


 反射的に反応ししゃがむと、頭上数センチのところを何かが勢いよくかすめていった。


「いやあ、君のその目はやっぱり厄介だね」


 燦が顔を上げると、目の前にはサリオンが立っていた。その手には、日本刀が握られている。

 とっさに、雪をサリオンに投げ、後方に下がろうとする。

 しかし、それより早くサリオンの蹴りが燦の顎を捉えていた。

 燦は数メートル後方へ吹き飛ばされた。視界が白く飛び、意識が朦朧とする。


「ああ、ごめんね。オレ、足長くってさ」


 困ったように笑うサリオンを、燦に駆け寄った一心は睨みつけた。

 龍之介は懐から手帳を取り出すと、一枚ちぎり銃を構えるようにして指に挟んだ。瞬く間に、紙がハンドガンへと変化する。それに彩力を込めると、そのエネルギーは中で弾に変じた。

 一発、二発と放たれた弾を、サリオンは軽々と刀で弾く。

 龍之介は一心へもう一つハンドガンを作ると、自身はマチェーテを作り出し、ハンドガンで牽制しながらサリオンへと斬りかかった。

 ハンドガンを受け取った一心は、耳元の小型端末で本部に通信を入れる。

 サリオンは、龍之介の大振りなマチェーテを易々と刀でいなし、合間に放たれる数々の弾丸もやり過ごしてしまう。


「くっ」


 なかなか押し切れず苦悶する龍之介に、サリオンは不敵に笑った。


 サリオンの右手を、いくつもの鋭い棘が貫いた。その衝撃で、サリオンは刀を落とす。龍之介はその隙を見逃さず、脚に弾丸を数発撃ち込んだ。




 燦は耳鳴りが酷く響く中、何とか上体を起こすと、雪を棘に作り変えては飛ばしていた。正直、あてずっぽうである。未だ視界は揺らぎ、口の中には血の味が広がっていた。顎もまともに閉じられない。骨をやってしまっただろうか。絶え間なく鈍痛が響いた。

 

「燦!!一心!!」


 遠くで、龍之介の声が響く。

 すぐ近くで、発砲音が鳴った。

 一瞬で大きな影が視界を覆って、迫ってくる。


 あれ、ボク、あの時よりも強くなった筈なのに…


 燦は山中でシャベルを構えられた時を思い出していた。

 曖昧な視界の中で、二つの光景が重なり合う。


「シャベルマン…」


 燦がぽつりとそう呟いた時、目前まで迫っていた影が不意に視界から消えた。一瞬の浮遊感が体を包み込み、視界が移り変わる。


「何?それ」


 見上げるとそこには、衛が微笑んでいた。






❖❖❖❖❖






 燦は軽く辺りを見回す。どうやら、自分たちがいた場所とは反対側――つまりサリオンの後方に転移したようだ。視界は先程よりも冴えており、はっきりと見える。

 間にいた龍之介が駆け寄ってくる。


「龍之介はここで二人を守っていて」


 衛はそう告げると立ち上がり、サリオンの方へと歩き始めた。

 サリオンもその間に息を整え、衛へと向き直る。


「元気そうだね、衛」


「気安く呼ばないでもらえるかな」


「つれないなぁ」


 言葉を交わす間に二人の間は段々と縮まる。とある地点で、ピタリと、二人の足が止まった。

 静寂が、辺りを包み込む。お互いの呼吸さえも聞こえてしまいそうに。


 パキッと、どこかで音が鳴った。


 その瞬間。


 二人の足は地面から離れ、金属同士がぶつかったような激しい音が鳴り響いていた。

 一旦後方へ下がり距離を取る衛。

 その隙に、サリオンは先程落とした刀を拾った。

 右手では小型ナイフを逆手に握り、左手には刀を握って迫り来るサリオンに対し、衛は握っていた大きな釘を転移させサリオンの太腿に打ち込んだ。

 しかしそれでもなお、サリオンの足は止まらない。既に龍之介に撃ち込まれた銃創もあるとは思えない動きだった。


 燦たち三人は二人の動きにあっけにとられる。とてもあの間に入れるとは思えなかった。

 しかも、サリオンはさっきから一度も異能を使っていない。先日襲ってきたときもそれらしいものは目にしなかった。

 いや――使えないのだろうか?それとも、戦闘向きの異能じゃない?

 少なくとも、あの動きは、痣者としての身体能力だけで成り立っているようだった。

 燦は全身が鳥肌に覆われていくのを感じた。


 衛は刀をすんでのところでかわし、サリオンの体に触れると、自身ごと上空へ転移させた。

 二人は一瞬で、約四千メートル上空へと転移していた。

 両手を広げ、サリオンが高らかに笑う。

 その様子を見下ろしながら、衛は再度釘をサリオンの体へと打ち込んだ。

 と同時に、何やら物体が下から飛んできた。

 衛が目を丸くした瞬間、それは四方へと爆散した。

 爆風と熱風、そして数々の金属片が衛を襲う。

 とっさに腕で顔をガードし、その場から数メートル上空へ転移したものの、完全には逃れきれなかった。

 痛む両腕を広げ、再びサリオンを見据える。地面まであと数秒、といったところだろうか。

 その時、大口を開けるように、地面にワープゲートが現れた。

 サリオンが自身の服をはだけさせ、胸元をわざとらしく見せびらかす。そこには、大きなタトゥーが刻まれていた。


「――――――」


 衛が再度打ち込んだ釘を笑って受けながら、サリオンは無音の言葉を残し、ゲートの向こうへと消えていった。

 地面の寸前で転移し着陸する衛の元へ、一心が駆け寄る。


「衛さん、その怪我…」


「大したことないよ。見た目が派手なだけ」


 そう微笑むと、衛は一心の頭を撫でた。


「燦は大丈夫?」


 そう言葉をかけられ、燦は何とか頷く。痛みは引くどころか激しさを増し、一時は良くなった視界もまた遠くなっていく。


「大丈夫じゃなさそうだね。今すぐ連れて帰ろうか。データはもうとれてる?」


「ほんとあと少しなんで待っててほしいっす」


 龍之介はそう答えると、元の位置へ駆けて行った。


「ごめんなさい、不甲斐なくって」


 そう落ち込む一心に、衛は再度頭を撫でる。


「気にすることじゃないよ。一心には一心の役割があるんだから」


 燦を抱え、衛はそう答えた。


「さあ、帰ろうか」


 龍之介が戻ってきたのを確認すると、衛は三人に声をかけた。

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