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Re:frey ―リフレイン― 虚器盈つる黎明譚  作者: 14to
第二章

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10.地下

「あ”ーっ!もう!イライラする!」


「こればっかりは仕方ないですよ、一心くん」


 机に項垂れる一心を、天が軽く窘める。その顔にも、幾何かの苛立ちが滲んでいた。

 二人だけではない。第五部隊の全員が、苛立ちや疲労に苛まれていた。

 捜査を開始してから数週間。燦達はあと一歩のところから先に進めずにいた。それをあざ笑うかのように、被害者数は日々着実に増えていく。


「いっそ強行突破を選択肢に入れるべきだと思うが。こうも後手ばかりでは相手の思うつぼだろう」


 そう言いながら、ロイはプロテインをシェイクし始めた。


「相手の実力が、未知数すぎる。当初の、想定よりも、実態が大きい、おそれあり」


 来栖が、機材を手入れしながらそう答える。


「そもそも、本拠地が国外、も、ありえる。それくらいの、事件規模。この部隊は強い。けど、油断は禁物」


「それはわかっているが…」


 ロイは納得いかなさそうにプロテインを飲み干した。


「あ”ーー!むしゃくしゃするっ!!」


 突如、一心が叫んで立ち上がる。


「お?筋トレするか?」


「しないっ!!!」


 ロイの誘いを一蹴した後、「プール行こう!」と天と燦の手を掴んだ。


「ボク先にお風呂」


「プールにもシャワーあるから!行こう!」


「燦くん、諦めましょう。これは止められません」


 天はすっかり一心に身を委ねている。


「えぇ…」


 それを見た燦はしぶしぶと一心に従った。






❖❖❖❖❖






 何度目かの失意に終わった、ある日の任務で、衛は袖をかすかに引っ張られ足を止めた。

 振り返ればそこには、俯く杏の姿があり、意外な接触に衛は目を丸くした。


「あ、………、えと………」


 杏は口を開きかけ、噤む。目は左右に泳ぎ、衛の袖を引いた手は自身の袖口を握りしめていた。乱れた呼吸に、かすかに漏れる震えた声。手は小刻みに震え、瞳は今にも零れ落ちそうなほどに潤んでいる。衛には、それだけで十分だった。

 即座に、かつての弟がよぎる。一人で抱え込み、籠ってしまった弟。あの時、あれほど切望した情景が今、目の前にはあった。

 衛は身をかがめ、目線を合わせるが、一向に目は合わない。口を開きかけては再び閉じる、その様子を眺めながら、静かに待った。膝に置いた手に、力が込もっていく。


「た、っ、………」


 長い逡巡の後、やっと杏の目が衛を捕らえた。縋るような瞳で、口を開く。


「杏ーー!帰るよーーー!」


「っ、!!」


 やっと紡がれる筈だった言葉は、サリオンの声に遮られてしまった。

 その声に杏は大げさなほど肩を跳ねらせた。両手は胸元を握り細かく震える。再び目線は彷徨い始めた。

 衛はもう一度言うよう促したが、もう遅い。杏は再び口を噤むと、サリオンの元へ駆けていってしまった。

 走り去る腕を掴もうとした右手が、空を切る。


 あの時と、同じだ。あと、数センチ。たった、それだけの距離が、果てしなく遠い。


 衛は、歯を食いしばり、届かなかった手を握りしめる。その手を、太腿に叩きつけた。

 結局、夕暮れの中で小さくなっていくその背を、衛は眺めていることしかできなかった。






❖❖❖❖❖






 とある地下の一室に、少年の絶叫が響き渡る。

 部屋の中央に据えられた大きなベッドで、手足を拘束された少年は藻掻き苦しんでいた。

 一糸纏わぬその体には、無数の痣と傷が刻まれており、その姿は「痛々しい」という言葉さえ生ぬるかった。

 少年の藻掻きでベッドが揺れ、脇にもたれかかっていた少年が床へ倒れこんだ。この少年もまた、つい先刻までは同じように鎖につながれ、泣き叫んでいた。今はもう、涙は枯れ瞳は虚空を見つめ、喉は潰れ、微かに息を吐くのみになっている。


 ぎし、とベッドが軋む。一人の女性が、藻掻く少年の上へ跨った。少年の体を優しく撫で、優艶に微笑むその手には、ガンタッカーが握られている。

 それを見た少年は瞳に涙を滲ませ、必死に藻掻いた。手首の皮が摩擦で捲れていく。

 少年は必死に懇願した。


 良い子になるから、ちゃんとやるから、ちゃんと謝るから。


 家に、帰りたい。


 その少年の絶望に女性は舌なめずりをし、タッカーを少年の腹部に押し当てた。


 新たな絶叫が響く部屋の隅で、黙々と亡骸達を処理する少年がいた。

 その練色の髪には血がこべりつき、灰青色の瞳には疲れが滲む。


「これも捨てといて」


 女性の声と共に投げつけられたのは、華奢な右腕だった。

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