6.告白
「ちょっと練習に付き合ってほしい」と千帆からメッセージが来たので、誠は指定された部屋へ向かった。場所は二階、階段を上がってすぐ右にある部屋。ドアは開いており、階段を登り切った所で、すぐにバルコニーにいる千帆と目が合った。
「急にごめんね」
「全然いいよ。どのシーン?」
二人で持参した台本を開く。そういえば在学中もよく、稽古以外の時間にこうやって千帆に呼ばれて、二人で練習してたっけ。「私滑舌悪いし、下手だから」と言って、同期の中でも一番練習していた千帆。本当に努力家だなぁと、改めて尊敬する。
指定されたシーンはクライマックスの前夜、星空の下でエディとジェニーが語り合う所だ。ちょうど今夜も晴天で、星がよく見える。
「ジェニー、君はまだ、暗闇の中にいるんだね」
「何言ってるの?見ての通り、ちゃんと外にいるわ」
「身体的にはね。でも心はまだ闇の中だ」
「どういうこと?」
「希望という光がまだ見えないんだ。いや、もっと正確に言うと、この先に光があるんだって、信じられていない。今まで宇宙工学を信じられなかった君だから、無理もないと思う。でも、それでも信じてほしい。僕たち仲間を。一緒に頑張ってきた日々を」
「…エディは乗らないの?」
「え?」
「私、あなたと一緒なら、希望を見つけられる気がするの」
「…それなら、安心して。君も、マックも、そして僕も、決して一人じゃない。離れていても、心は一つだから」
「エディ…。分かった。ベストを尽くしましょう」
台詞を読み終えると、千帆はふうっと息をついた。
「昼の練習よりいいかんじだね。どんどんジェニーになってきてる気がする」
「そう?良かった」
誠の感想が素直に嬉しいというように、千帆は微笑んだ。
「…一つ聞いてもいい?」
ふと星を見上げながら、千帆は尋ねた。
「何?」
「ジェニーって、エディのことどう思ってたと思う?」
「どうって?」
「恋愛感情があったと思う?」
「うーん、どうだろう…」
「考えたことも無かった?」
千帆がいたずらっぽく言いながら、誠を覗き込んだ。
「うん…自分に必死だったからね」
特に卒公の、あの時は本当に余裕が無かった。
「そっか…。でもエディ的には、知らないほうが自然だったかもね」
「確かに。ロケットを飛ばすことしか頭に無い役だもんな」
ホントだねと二人で笑い合った後、千帆は自分なりの答えを語りだした。
「私はね、きっと恋愛感情はあったんだろうなって思いながら、あの時は演じてた。じゃなきゃ『あなたと一緒なら、希望を見つけられる気がするの』なんて言えないと思うの」
「そっか…そういうもんなんだな」
「私、ジェニーを演じられて、あのシーンが出来て、本当に幸せだったな」
千帆は語りながら、ずっと星空を見上げていた。視線は心なしか先ほどより上を向いている気がする。
「でも出来たら、誠と…エディと結ばれたかったな…」
含みを持たせるような言い方に、誠は少し動揺した。
「千帆、それって…」
誠が言い終える前に、千帆はくるっと向きを変え、ガラス戸を開けて室内に入った。
「でもそれは、昔の話」
千帆は誠に向き直り、胸を張って宣言した。
「私、来年結婚するんだ」
「え?」
寝耳に水すぎて誠は言葉を失ったが、構わず千帆は続けた。
「ずっと婚活頑張っててさ、アプリやったり、街コンもたくさん行った。でも最終的に、地元の友達に紹介してもらったの」
「そっか…おめでとう」
やっと出た言葉はたったそれだけだった。
「ありがとう」
そう言った後「マコト」と名前を呼んだ。
「今日、久々に会えて嬉しかった。色々言っちゃった後で我儘なお願いだと思うけど、これからも、ずっと仲間でいてくれる?」
言葉の最後、ほんの少しだけ声を震わせながらも、誠の目を真っすぐに見ながら伝えてくれた。
「もちろん」
「…ありがとう」
再びの感謝を述べた後
「ちょっと冷えすぎちゃった、先行くね」
と、千帆は足早に部屋を後にした。




