2.音信不通の理由
「まじ!?そんな遠い所に就職してたのか」
好宗は麦茶を一気飲みした後、驚いた顔をして言った。
誠は卒業後しばらくして、縁もゆかりもない地方の街の役所で勤め始めたということを、再会したばかりの仲間たちに説明していた。
「なんでそこだったの?」
灯里は先ほど男性陣がスーパーで買ってきた飲み物や食べ物を、響也と一緒に冷蔵庫に入れながら質問した。
「元々地方活性化に興味があったっていうのもあるけど、何か新しい挑戦がしてみたかったんだ。でも最初は慣れないことが多すぎて、思った以上に大変だったな」
「地方公務員は忙しいって聞くもんね」
千帆は灯里たちが冷蔵庫に入れやすいように、袋から買った物を仕分けして出して置いたり、空になったスーパーの袋を畳んだりしながら合いの手を入れた。家主である灯里たちからは「座ってていいよ」と言われたが、何かしていなきゃ落ち着かないらしい。
「すげえな。俺じゃ絶対できねえ」
一方の好宗は、長い足を組みながらL字ソファの角にふんぞり返って座っていた。誠もどうしようかと悩んだが、好宗の質問攻めに遭いながら座る流れになったのだ。さすがにソファは遠慮し、横にあったスツールに腰掛けた。
「都内の広告代理店の内定もらったって聞いてたから、てっきりそこにいるもんだと思ってたよ」
「ああ、あそこは、一年くらい勤めて辞めちゃったんだ」
誠はどこまで本当のことを言えばいいかを考えながら、会話をしていた。誠には、ここにいる仲間たちに秘密にしていることがあるからだ。
好宗の言う通り、都内の広告代理店に内定を貰っていたのは事実だが、実際に就職してはいない。卒業公演の直前に内定を取り消されたのだ。そしてそれと時期を同じくして、両親から離婚することを切り出された。両親は誠が就職先も決まり落ち着いたタイミングだからと言っていたが、まさか内定取り消しをされたなどと夢にも思っていなかっただろう。卒業から数か月後には正式に離婚し、住んでいた家も売り払われた。縁もゆかりもない地への移住を決めたのは、本当はこの事が原因だったのだ。
卒業公演の本番直前に立て続けに降りかかった不幸。しかし誠は、「最後だから最高の公演にしよう」と言って、準備に稽古に奮闘する仲間たちに、その事を打ち明けることが出来なかった。迷惑をかけたくない、指揮を下げたくない、そんなことを一丁前に思っていた。そして迎えた本番、誠はラストシーンの最後の台詞を飛ばしてしまったのだ。最後の最後に仲間たちとの作品に泥を塗った。そんな後ろめたさから、卒業以降、仲間たちとの連絡を絶っていた。
「同窓会やるんだ。良かったら来ないか?」
そう誘ってくれたのは、響也だった。
元々共通の趣味として同じオンラインゲームをやっていたが、卒業時の件もあり、ゲームにログインする暇も無くなった。数年後、別アカウントを作りゲームを再開していたのだが、どういうわけか響也に見つかってしまったのだ。
「キャラメイクとかプレイスタイルとかチャットの文面とかで何となく分かるよ。人によって結構癖が出るから」
冷蔵庫内の整理が終わりリビングへ戻ってきた響也は、どこからか折り畳み椅子を出して座りながら言った。一緒に戻ってきた千帆と灯里がソファに腰掛けると、さすがの好宗も場所を空けるためL字の短いほうへ移動した。
「すげぇな、さすが天才プログラマー」
「プログラマー関係ある?どっちかっていうと探偵みたいじゃない?」
感嘆する好宗の言葉に、透かさず千帆が突っ込みを入れた。
「探偵かぁ、確かに眼鏡かけてるし、蝶ネクタイしたら完璧じゃん」
「わぁ、似合いそう!作ってあげようか?」
「絶対嫌だ」
誠と灯里も会話に乗ると、響也が怪訝な顔をした。みんなが笑う。
学生時代の同級生とは不思議なものだ。卒業から何年も経っているのに、再会した瞬間から、その当時と変わらずに話すことが出来ている。誠はこの現象を心からありがたいと思った。
「キョン、あかりん、ありがとな。この同窓会を企画してくれて」
好宗にそう言われた二人は、きょとんとして顔を見合わせた。
「いや、俺たちは企画してねぇよ」
「え?」
好宗と誠はほぼ同時に声を漏らした。
「私たちは、場所を貸してくれって頼まれたのよ」
「誰に?」
「俺たちの中で、言い出しっぺって言ったら一人しかいないだろ」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「あ、噂をすれば」
ソファから立ち上がろうとする灯里を止めて、響也が足早に玄関へ向かった。
そうだ。ここにはあと一人、重要な人物が足りない。演劇において役者やスタッフ陣を統括し、作品を形にするための最高責任者——演出。誠たちの代で行なったほぼすべての公演でその役を引き受けてきたのが…。
玄関へのドアが開くと、全員が頭に浮かべていたであろう人物が颯爽と現れた。
「みんな、久しぶり!」




