表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
259  作者: Nora_
5/10

05

「暑いですね」

「だね、少しお店で休憩する?」

「いえ、お店に寄るのはお昼ご飯を食べるときでいいです」


 住み慣れた土地を離れて彼が元々住んでいた土地に来ているけどそう変わらないのも大きかった。

 これが全く違って落ち着かない状態ならすぐに逃げていた、彼が戻ってくるまで駅に引きこもっていたかもしれない。


「ところで、今日確実に会える人っているんですか?」

「うん、ちゃんと連絡をしてから来ているからね」

「そうですか、どんな顔をするのか気になりますね」


 主に儀間さんが、だ。


「はは、にやにやしながら背中をばしばしと叩いてくるだろうね」

「なるほど、いつもの儀間さんみたいな感じですね」

「え」

「ふふ、冗談ですよ」


 女の人とよりも男の人と長く一緒にいたようなので実は言えなかったけど寂しかった人もいそうだ。

 いつもは離れているからこそ言えるのは男の人も同じで、逆に女の人よりも真っすぐにぶつかれるかもしれない。


「お、近くまで来てくれているって、諏訪さんはどうする?」

「少し離れたところから見ておきます」

「無理強いはしたくないからね、分かったよ」


 少し離れている間に私は水分補給をしたり、向こうとは違う部分に意識を向けておくことにした。

 向こうとはっきり違うところは駅から少し離れても人が沢山いるというところで、もっと激しいときには留まっていることもできなさそうな感じだ。

 たまには立ち止まって考え事をしたい私としては住み慣れた向こうの方がいいと思う。

 それでもこちらにしかないお店なんかを見ているとどこだっていい点はあるものだ。


「あ、お友達さんか」


 別に私達といるときと分かりやすく変わっているとかではないけど楽しそうだった。

 何回も「諏訪さんに会えてよかった」とか「公園にいってよかった」とか言っている彼ではあるものの、お金さえなんとかできればこちらに戻りたい気持ちの方が強い気がする。

 まあ、十数年過ごしてきた場所から離れたくないというのは当たり前のことだけど。


「あれ、もう別れちゃった」


 なんかもっとこう一時間ぐらい盛り上がってくれてもいいのに絶対にこれはこちらのことを考えての行動だ。

 こうなってくると参加したのがいいことなのかどうか分からなくなってくるぞ……。


「おっと、友達には元々約束があったから長時間は無理だっただけだよ、だから勘違いしないでほしい」

「まだなにも言っていませんが……」


 こう……分かっているからね的なこの顔は嫌だな。


「諏訪さんのことだから私のせいで、みたいに考えてしまったでしょ?」

「ふぅ、先約があるのなら仕方がありませんが寂しいですよね?」

「んーあれからそう時間も経過していないし、全く変わっていないからあれぐらいでいいよ。そもそも諏訪さん達といられるようになってこっちにいく発言を忘れかけていたぐらいなんだからね」


 そもそもここにいくことになったのが私のせいみたいなものではないだろうか……。

 あと、約束をしていたあの人との時間がこれだけで終わってしまったとなるとこれからどうすればいいのか。


「どうしようかなーまだ十一時だからなー」

「歩いていれば自然と見つかりますよ」

「んー紹介したいところとかもあんまりないんだよね」


 たまたまに賭けて彼が元住んでいた場所まで歩いてみるのはありかもしれないけど。

 そうしたら今度こそ女のお友達さんに会えるかもしれない、差を見せつけられたかった。


「駅から少し離れているけど僕が住んでいたところにでもいく?」

「はい、ついでに元々通っていた高校とか学校が見られるといいですね」

「分かった、いこう」


 お金を使ってしまったことには変わらないし、帰る際にも使うことになるからせめて十五時ぐらいまではなんとかしたいところだ。

 私のせいだったとしても彼が楽しそうにしてくれていたらそれでいい、そこも私次第だからより難しくなってしまうとしてもだ。


「駅はあっても全く利用していなかったからこんな形で利用することになるとはねー」

「バスとかもあまり利用しませんね」


 タクシーや新幹線なんかに関しては全く乗ることなく人生を終えそうだった。


「うん、遠出でもしなければ自転車とかでいいからね。最悪、それらの便利な物がなくても足があれば結構移動できてしまうのがね」

「少し移動するだけでこんなに楽しそうなお店が沢山あるのはいいことだと思います」

「ここら辺ではよく遊んだなー」


 あ、懐かしい! という顔をしている。

 少し触れたくなって、いや実際に触れてみると「どうしたの?」と今度はまた柔らかい表情で聞いてくれた。


「いえ、あとはあのときも言っていたように可愛い人や美人な人に会えたら最高です」

「そういう子達はいたけど残念ながら僕の友達ではないから無理かなあ」

「幼馴染さんとかいないんですか?」

「いないかな」


 いないとなればやっぱりお友達さんに賭けるしかない。


「残念です」

「なんで?」


 自意識過剰な女にならないように、勘違いをして告白をしてしまう女にならないようにだ。

 実際は簡単に好きになったりはしないけど優先され続けていたらどうなるのかは分からないから。

 一緒にいられる時間は絶対にあるものの、それでも放置される時間も多かったからこそいまの私が出来上がっているわけで、分からない状態だからだった。


「女の子をそういう意味で好きになる子ではないよね? だったらなんて僕にそういう存在がいてほしいと思うの?」

「そういう人を見てみたかっただけです」

「ただ友達を見たかっただけなの?」

「はい」


 別に怖い顔でもなくて彼も本当に分からないから聞いてきていると思う。

 とはいえ、なんでも吐くというあれは両親にだけすると決めているのでいまはこう答えておけばいい、余計な情報を与えると行動を縛ってしまう可能性があるからだ。


「あとさ、さっきの凄く驚いたからね? 急に触ってくるなんて思わなかったから……」

「触れたくなったんです」

「それは……なんでか聞かない方がいいのかな?」

「細かく説明することができません、隠そうとしているわけではなくてちゃんと言えないのです」


 そう感じただけだから。

 ただ、不快な気持ちにさせたかもしれないから謝罪はしておいた。


「儀間さん?」


 さっきと違って少し前を歩いているからどんな顔をしているのかは分からなかった。

 追い越そうと思えばすぐに追い越せる位置で、確かめてみた方がいいのかもしれないけど今回はしないでおく。

 まあ、これはできなかった、と言う方が正しいのかもしれない。


「なんでもない、あともう少しで着くよ」

「はい」


 結局、こちらを向いたときの顔はいつも通りのままで。

 無理をさせているわけではないのなら私の好きな顔でそれ以上はなにか言うこともしなかった。




「似ているところもあってよかったです」

「はは、どこも住宅街はこんな感じだろうね」

「もう少し時間を重ねれば儀間さんが去ってしまう可能性も低くなりますよね」


 少なくとも卒業まではちゃんといてほしかった、そこより先も望むのは自分勝手すぎるので最低でもという考えだ。


「たとえお金があって一人暮らしできる余裕があったとしても僕は母さんに付いていったけどね」

「でも、あっちにいってすぐに悪いことがあったらここに残っておけばよかったとなりそうですけど」

「そもそも無理だったから考えても、ね。それに嫌なことはなかったし、なにより諏訪さん達との出会いもなかったことになるのは嫌だよ」


 本当であれ嘘であれ達、という言い方をしてくれるところが好きだ、これからもそういう細かいところでちゃんと分からせてほしい。


「さて、流石にお腹が減ったからなにか食べにいこうか――と言いたいところだけど帰りの分のお金がぎりぎりだから今日こそ諏訪さんにご飯を作ってもらおうかな」

「いいですよ?」

「あ、あれ」

「そもそもこの前の時点でそうしたかったのに一旦でも帰られてしまったので不満がありましたからね」


 お金はなにかがあったときのために貯めておいた方がいいので相手がいいならそれが一番だ。

 それと全く疲れていないというわけでもないのと、これ以上歩くと汗が酷くなりそうだから避けたいのもあった。

 電車の中で汗だくだくの状態だと迷惑をかけてしまうからね、あとは臭い人間にはなりたくないのだ。

 ということで微妙な空気になることもなく帰路につくことができた。


「おお、なんかもうここが僕の居場所って感じがするよ」

「儀間さんがいてくれないと困りますからね」

「そんなに真っすぐに言われると僕は照れてしまうよ」


 照れていると言えば矢後君に対してどきどきしている歩ちゃんをまた見たくなった。

 六年生のときは結構見られたのに時間が経過した中学二、三年生の頃には見られなくなってしまったからだ。

 そんなことを考えていたからだろうか、歩ちゃんを発見して走って近づいた。

 ここはもう自宅近くなのでお家に入る流れになっても楽なだけだ。


「おー泉外にいたんだ」

「ごめん、儀間さんとお出かけしていたんだ。それより今日はどうしたの?」


 約束はしていない、結局四人でいく話はなくなったから。

 あと、どうしたのなんて聞いているけどなにで来たのかは察しがついていた。

 間違いなく矢後君関連のことだ、それ以外は彼女の様子的にありえないと断言できるほどだ。


「ちょっと話を聞いてもらいたくてね。儀間先輩、大丈夫ですか?」

「うん、と言いたいところだけどいまからご飯を作ってもらう予定なんだ、参加メンバーが増えても大丈夫なのかな……?」

「大丈夫ですよ、入りましょう」


 ところで、お客さんが来ているならエアコンを使用するべきだろうか。

 この前は当たり前のように窓を開けているだけの状態で対応をさせてもらったけど……。


「エアコンはいいよ、窓が開いているから十分涼しいよ」

「場所がいいんだろうね、僕も気にならないから大丈夫だよ」

「わ、分かりました。それでは少し待っていてください」


 彼女がオムライス大好きさんだからそれを選択、わっとぱっとしていたらすぐに作り終えた。


「私が聞いてほしかったのはこれについてなんだよ」

「「『泊まってほしい』か」」


 ああ、見せないと始まらないけど私達にも見られるとは思っていないだろうから内で謝罪しておいた。


「いやっ、初めてというわけじゃないけどこの年齢で、しかもこの前より変わった状態で泊まっちゃったら抱きしめられたりとかっ……されそうじゃん?」


 はは、妄想が捗ってしまうのは彼女も同じか。

 んー矢後君なら「歩が大切だから勝手にそんなことはしないよ」とか真面目な顔で言いそうだけどな。

 それで抑えられなくなった彼女がぎゅっと抱きしめて、そこでやっと矢後君も抱きしめ返して~となったら最高だった。


「妹尾さんは矢後君に対してそういう感情はあるの?」

「それはまあ……」

「だったら抱きしめるということは矢後君の中にもあるということだし、いいことだと思うけど?」

「か、顔を合わせづらくなるじゃないですか!」


 乙女だなあ。

 私もこうやって可愛い反応ができればもう少しは違った結果になっていたかもしれない。


「そうかな? 僕だって諏訪さんに急に触られても会いづらくなったとかないけどな」

「え、い、泉さん?」

「好きな表情だったから」

「「そ、そうなの?」」


 ほらここ、淡々と答えているようでは彼女のようにはなれない。

「す、好きな表情っ……だったから」みたいな言い方をしていたら――って、別に私と彼はいい状態にはなっていないから変わらなかったか。


「とりあえず食べてください」

「「はーい」」


 ある程度家事ができるのはいいところかもしれないけどこれではね。

 ただ、約束通りお手本を見せてくれている状態だからなにもしないわけにはいかなくなったのだ。


「次は儀間さんのお家で作ります、必死に断られて傷つきましたからね」

「そっか、それなら奇麗にしておくよ」

「私の家でも作ってほしいなー」

「矢後君とお付き合いを始めた後にいくね」


 今日は彼女の方から来てくれているからなだけ、私の方からいったりはしない。

 それでもお付き合いを始めたときにはお邪魔させてもらおうと思う、そこはお友達としてお祝いをしたいからだ。


「うげ、それだといつになるか……」

「お祭りとかもあるからすぐ変わると思うけど」

「いく約束はしているけどさー」


 私達の方はどうなるのか、ではなくて変えていかないと。


「儀間さん、私達も一緒にいきませんか?」

「いいの? 僕としては一緒にいけたら嬉しいけど、それに既に誘っている状態だったからね」

「ああ、確かに私が逸らしただけでそうでしたね、それならいいですね」


 これでごろごろしているだけの八月ではなくなるのだ、八月という縛りなら今日の時点で変わっているけど中盤辺りにも予定ができるのは大きかった。


「ちょ、ちょっと、私より強くなっちゃうのは駄目だよ」

「大丈夫だよ、歩ちゃんは先生でどこまでいっても私は生徒だから」

「でも、現実じゃ生徒に先に結婚される先生とかいそうだよね……」

「そ、それは忙しいからだよ」

「私、あんまり忙しくないよね……」


 ああ、この状態になったらこれ以上重ねても駄目だ。

 食器を片付けたかったのもあったので彼に任せて離脱する、キッチンからでも二人は見えるからそこはいい。


「妹尾さん頑張って」

「……ありがとうございます、儀間先輩も頑張ってください」

「ありがとう」


 彼が頑張らなければならないのはまだあんまりやっていないらしい課題をやることだろう。

 あのときは合わせてくれたのにそれからは駄目だったみたい、予定が入っていたわけではないけど集中できなかったみたいだからまた時間を設けてもいいかもしれない。

 そのときに終わらせれば一緒にいられる時間が増えるから少なくともこれまでの私とは違ってくるのだ。


「私も応援しているからね」

「うん、泉もありがとう」


 まあ、私達の方はもっとゆっくりやればいいので気が楽だった。

 でも、彼にばかり頑張らせないようにしないといけないのは変わっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ