04
「――ということがあったんだけど」
夏休み初日、特に約束はしていなかったけど歩ちゃんがお家に来てくれたからあのときのことを話しておいた。
彼女の中に矢後君に対しての気持ちがなにもないならそれでいい、でも、なにかしらあるのだとしたらこれはしなければならないことなのだ。
「意外だね、泉はもう儀間先輩のことが気になっていると思っていたけど」
「それはどこ情報なの?」
それこそ矢後君から? 意外とか言われていたもんね。
でも、私としては話しかけてきてくれるから相手をさせてもらっているだけ、まだお友達とも自信を持って言えない状態だった。
「え、それは本人を見て判断しただけだけど、違うんだよね?」
「うん、あとあのときはどきっとしてしまっただけで私の中にはなにもないからね」
「はは、矢後君が聞いたら『勝手に振ってくれるなよ』って言いそう」
「はは、似ているね」
腕を組んでいるところが簡単に想像できる。
全く触れてこないということもないので、この前の彼女みたいに「てい」などと言いつつ手刀を繰り出してきそうだ。
私はそれを受けて頭を押さえて蹲って涙目になると思う。
「それよりさー彼氏を作るのって難しくない!?」
「そ、そうだね」
私なんかこれまで一人もそういう存在ができたことがないし、告白をされたことすらもないからね。
「それこそ歩ちゃん的に儀間さんは駄目なの?」
「駄目じゃないけどまだ一緒にいられた時間が少ないからね。ほら私、惚れ症ではないから」
「はは、だけど歩ちゃんがずっとそのままなら私にはお手本がなくてずっとこのままだね」
「あー! そうやって言い訳をして動かないのは駄目だから!」
駄目だからと言われてもね、どうすればそういう意味で好きになれるのかも分からないからどうしようもない。
「矢後君は泉が本気になったときに争うことになりたくないから他の子かなあ」
「そんなのいいのに、それに矢後君がいるところには必ず来るんだから私からしたら露骨に見えてしまうけど」
あんまりこういうのはするべきではないものの、こういうことをぶつけられるのもお友達らしい感じがするから今回は内に抑え込んだりしなかった。
「矛盾しているけどさ、矢後君って呆れたような顔をしつつもちゃんと最後まで付き合ってくれるからそういうところが好きなんだよ、だから一緒にいたくなるんだ」
彼女も怒ったりはせずにこの感じ、あと内容的にやっぱりあれなので私の意見は変わらない。
というか、そこまでなのに自覚できていないって展開が本当にあるんだなって感想だった。
「素直になって、私がどうこうとか本当に気にしなくていいから」
「うっ……なんかいまの私って滅茶苦茶恥ずかしいこと言ってなかった?」
「そんなことないよ、本当のところを教えてくれて嬉しかった」
「そ、その顔はやめてよ、そりゃ矢後君だってやめてくれって言うよ」
えっと、矢後君が来たときにはもう彼女が帰っていることになっていて、だけど実際はどこの飲食店にいくかどうかを話し合っているときに参加してきたわけだから……その時点での会話を聞かれていてもおかしくはないか。
だからそういうところだ、矢後君に興味がありすぎてこそこそしている時点で私にはそういう風にしか見えない。
「なんか一緒にいたくなっちゃった」
「約束をしていたわけじゃないからいってきなよ」
「よ、夜っ、夜になったらまた来るからね!」
「うん、いってらっしゃい」
さて、こちらは彼女が来るまでやっていた課題の続きをやっていくことにしよう。
それで体感的に二時間ぐらいが経過した頃にチャイムが鳴って玄関に向かった。
「やあ」
「こんにちは」
外は暑いのに一人だけ涼しそうな感じの儀間さんだった。
「漫画とかアニメに出てくるヒロインみたいに走っている妹尾さんを見て気になってね」
「はは、嘘ですよね」
私のお家に向かっている途中で目撃をしたとしたのなら一時間半前ぐらいには着いていないとおかしい。
それ以外の理由で外に出ていて、本当にやりたかったことも終わってしまったから暇つぶしとして来ているに違いない。
まあ、いつもの悪い癖が出てしまっているけど間違ったところで損なこともないのでこれぐらいは自由にやらせてもらいたかった。
「いや、見たのは本当だよ。ただ、ここに向かっている途中で人助けをしていたらこんなに時間が経過してしまっただけでね」
「荷物を持ってあげたとかですか?」
「まあ、そんなところかな」
これは分かりづらいところだった。
「諏訪さんは課題をやっていたんだね、偉いね」
「早めに終わらせておけば後半ゆっくりできますからね」
「じゃあ、一緒にお祭りにいこうよ」
集まって一緒にお祭りにいくことも中学二年生になってからはなくなっていたから特に困りはしないけどなんか躱したくなった。
別に彼といきたくないとかではないけど、五年生の頃から一緒にいる子達といかないのに出会ったばかりの彼といくのは云々と言い訳をしてね。
「それより儀間さんは地元にいかなくていいんですか?」
「あ、忘れてたよ、そういえばそんなことも言っていたか。うーん、だけど一人でいってもなあ」
「お友達さんに会えますよ」
ちゃんとお友達と自信を持って言える相手になら長いお休みを使って会いに――いくだろうか?
私のことだから自分を守るために色々と言い訳をしている間に最終日になっていそうだ。
次こそはと言い続けて人生の最期の日を迎えた、なんてことにもなりそうだった。
「いやそうだけどさ、もうこっちにも友達ができたからなんか満たされちゃったというか」
「儀間さんの先程の発言通りなら人助けなんかをして偉いですが、薄情なところもある人なんですね」
「冷たっ!? うぅ、やっぱり一人でもいくべきか」
いや待って、彼が優しいからといってこれは許されることではない。
なんでもっと普通にできないのか、この前からおかしくなってしまっているようだ。
それでも相手からしたらなんにも関係ないのは確かなことだ、理由もなく攻撃されるなんて最悪だろう。
「すみませんでした」
「うん、え、なんに対しての謝罪?」
「細かいことは気にしなくていいです、それと……儀間さんが嫌ではないなら付いていきましょうか?」
「えっ、いいの!?」
他県にいくことなんて滅多にないし、両親にわがままを言うわけにもいかない、一人でも怖くていけないとなれば乗っかるしかない。
「は、はい、この通り課題は少しずつやっていて余裕もできるでしょうから八月になる前にでも……」
「もう二十六日だけど」
「まあ、八月でも予定が入っているわけではないので、はい」
「分かったっ、ありがとう!」
うん、小さい頃からお勉強を真面目にやる人間ではなくそれしかやることがないからやっているだけだった。
そういうのもあって夏休み後半はただただだらだらして過ごすことしかできなくて、入ったばかりの頃はテンションが高くなっても最終日付近にはみんなと違ってテンションが下がっていた。
「連絡先を交換しようよ」
「そうですね」
詳しいわけではないけどあまりに使用する機会がなくてなにも分からないというレベルでもない。
新しく登録されたアカウントをじっと見ていると「あのとき公園にいってよかった」とまた同じことをぶつけられた。
「はは、私だったからよかったですけど他の人だったらどうしていたんですか?」
「それなら謝って離れていたよ、ナンパとかをする人間じゃないからね」
「そうですか。とにかく、私でよかったですね」
「うん、本当にそう思うよ」
あれ……いやいやいや、自意識過剰だからやめよう。
中途半端に残っていたお茶を飲み切って立ち上がる、正座をしてやっていたのもあって足には優しい時間となった。
「僕も課題をやろうかな」
「それなら儀間さんのお家に移動しましょうか?」
私の集中力は二時間ぐらいしか続かない、なので地味に助かっていたのだ。
持ってきたはいいけど相手が全然やってくれなかった、みたいなことになれば彼的に微妙だろうから提案してみたいけど、
「え、いいよ、僕が無理やり参加しているだけなんだから待っててっ、ついでのお昼ご飯も食べてきちゃうから!」
これだった。
「お昼ご飯なら作りますよ?」
「む」
急にがきん! と固まるのは面白いな。
「い、いや、やっぱり向こうで済ませてくるよ、待ってて!」
「あ……」
駄目か、私では効果が薄いみたいだ。
まあ、そのまま戻ってこないなんてこともなくてすぐに一緒にいられるようになったのはいいことだけど。
「あ、流石にお友達と会うときは別の場所にいるつもりなので不安にならないでくださいね」
「え、諏訪さんを紹介することで安心してもらおうと思ったんだけど」
「お友達さんも急にこんなのを紹介されても困らせてしまうだけなのでやめましょう」
簡単に言ってしまえばそんなメンタルがないだけだけど付いていくだけで満足してもらいたい。
「逆なら大歓迎ですけどね、可愛い人や美人さんが多いともっといいですね」
地元に戻ってみたら見た目の整った幼馴染が、などというのはありがちではないだろうか。
しかも別れてからそう時間も経過していない、いまだからこそ言えることがありそうだ。
「紹介できる女の子はいないかなあ」
「またまた、歩ちゃんではなくてもこう言いますよ」
「男子とばかりいたからね、それに女の子を好きになられても困るんだよね」
「そんなにすぐに惚れたりする人間ではありません」
本気か冗談かたまに分からなくなるときがあるから今回は敢えて乗っかっておくことにした。
彼は私がこう返してくると予想していたのか「うん、知ってる!」と明るく楽しそうで。
「あーやばい、いまから楽しみすぎて寝られないかもしれない」
「だったらお昼寝をすればいいと思います、寝なければならないと考えるから寝られないんですよ」
「なるほどね、夏の風を感じながら寝られたら気持ちがいいだろうな」
「いまだって窓は開いていますよ?」
エアコンを使用していないから窓ぐらいは開けておかないと大変不味いことになる。
電気代を気にしたばかりに病院にお世話になっていたらその方がお金がかかるということだけど、そこまで酷い感じではないから私にはこれが合っていた。
人工の風と自然の風は全く違う、目なんかも疲れにくいからいいのだ。
「でもさ、寝ちゃったら諏訪さんは近くにいてくれないでしょ?」
「邪魔にしかならないのでそうですね」
「なら寝ない」
歩ちゃんか、そうツッコミを入れたくなる件だった。
いや、寝る気がないと言うよりも本当に寝られそうにないというところがその後の彼から伝わってきてなんとも言えない気持ちになったのだった。
「はぁ……やっと解放された」
「もう七月最終日だよ、矢後君は約束を守ってくれなかったね」
なんて、邪魔にしかならないからもう求めてはいないけど――って、なんかこれだと儀間さんと約束したから彼のことがどうでもよくなったみたいで嫌だな、なんか性悪女みたいだ。
「妹尾にいってほしくないって言われてな、いままでのあいつならあんなこと絶対に言っていなかったから俺も……」
「はは、いいよいいよ、それに矢後君のところにいってきなよと言ったのは私なんだからね」
「あ、それで初日に急に来たのか」
いいね、少なくとも一方通行のまま終わることは避けられそうだった。
どの季節でも歩ちゃんには元気なままでいてもらいたいのでしっかりと向き合ってあげてほしい。
「それこそ歩ちゃんが矢後君を夏休み最終日まで独占する流れだったよね、なんで今日来ちゃったの?」
「おいおい……あの人が来たらそれかよ」
「違う違う、別に儀間さんとの約束は関係ないよ」
「約束? なんの話だよ」
あれ? 彼の中では儀間さんが来たことになっているのにそれは知らないのか。
私なら裏で会っているだろうぐらいの考えでの発言なのだろうか。
「あ、儀間さんの地元にいくという約束をしてね」
「二人きりでか? なんか心配だから俺も付いていくわ、当然歩もな」
「おおっ」
自分のことでもないのにここまで嬉しいのって不思議だ。
「や、やめろ……ということでそれはあの人に言っておいてくれ」
「分かった」
人数なんか多ければ多いほどいいだろうから受け入れてもらえる前提で動いている。
最悪、気まずくなったときにも二人の力が影響を与えてくれるからいい。
もう目の前でいちゃいちゃしてくれていいからみんなでいきたかった。
「じゃ、そろそろ歩のところに戻らないといけないから帰るわ」
「悪い男の子みたい」
「そんなのじゃない、じゃあな」
この短期間でこれだけの変化だから夏休みが終わった頃にはすごいことになっていそうだ。
「なんか楽しそうだね」
「うん、歩ちゃんと矢後君の関係が変わるかもしれないんだ」
「儀間君がいてくれてよかったね、そうでもないと本格的に一人だったよ」
「二人が幸せなところを見せてくれたら私も幸せな気持ちになれたけどね」
少しずるいけどなにも言わずに内で幸せになっている分は誰かに文句を言われることもないだろう。
あとはやることをやっての繰り返しだ、その場合でもいい人生だったと言える自信がある。
「ないない、泉は心の底から一人でもいいなんて思えないからね」
「そんなことは……もう、なにも言えなくなっちゃったでしょっ」
「はは、だけどお母さん的にはそれぐらいでいてくれた方が助かるよ」
「あーもうその顔は禁止っ」
「はは、歩ちゃんみたいだね」
親、特に母親には勝てないようになっていることを知った。
愚痴を聞いてもらいたいけど邪魔をするわけにもいかないからもやもやしていたら儀間さんから『そろそろいこうか』というメッセージが送られてきていまから会ってもらうことにした。
そうしないと寝られないから、これは仕方がないことなのだ。




