48話 銀槍
投稿遅くなりました。
いいね、ブックマーク、★★★★★評価ありがとうございます!
エーデルロワーナが去った後、ランスディールはまず黒うさぎのちびと、ちびが持ってきた麻袋を役所にあずけた。
ランスディールはちびを白うさぎの里から避難してきた獣人たちと同じ部屋に入れてほしいと頼み、役所を出た。
旅用鞄を背負ったランスディールたちが役所の敷地から出たとき、恐怖心を煽る地響きと巨大な狼型の魔獣の怒りの発声が、波紋のように街へ広がった。
『!』
「!」
振り仰ぐと市壁を太い足で踏みつぶし、唸り声を上げて咆哮した巨大な狼型の魔獣が視界に入る。
遠目でもわかる体毛の覆われた、巨体に怒りに染まって濁った目と吊り上がっている口端。
単体で黒うさぎのちびの里と白うさぎの里を襲った張本人がそこにいた。
ランスディールとカーリージェリーは目を見開き、絶句する。自分たちが遭遇しかけた魔獣が想像を上回る巨体だったことに。
エーデルロワーナの悠長に待っていられないという意味をここで理解できた。
「あれが巨大な狼型の魔獣……」
「あの時遭遇していたら一瞬で踏みつぶされていただろうね、きっと」
「急ごう」
巨大な狼型の魔獣がここまで来ているなら、少し遠回りしてでも接触を回避した方がいい。
ちびを預けたときに事情を説明して、役所から三人組がいた城塔の扉の施錠を解く鍵を借りた。
「こっちだよ」
カーリージェリーが先頭を走り、ランスディーとラミィが後ろにつく。
城塔に向かう途中で巨大な狼型の魔獣が威嚇するような声が聞こえた。
おそらくエーデルロワーナと冒険者たちが戦闘を始めたのだろう。
城塔に着くとランスディールは上着から借りてきた鍵を出す。
カーリージェリーとラミィが辺りを警戒し、ランスディールは施錠を解いた。
中に入って市壁の外に出る扉の閂を抜いて外に出る。
「!」
市壁に沿うように走るとなぎ倒された木々が目に入って、ランスディールとカーリージェリーは驚いて立ち止まった。
大人数人が腕を広げて囲えるほどの太い樹が力任せに押しつぶされ、木の根から倒れ込んでいる。中には踏みつぶされ土にのめり込んでいる樹もあった。
「こりゃあ凄いね……」
「カーリー、煙が上がっている。火の手は見えないけど」
もうもうと白い煙が立ち昇っている方角が白うさぎの里だった。黒うさぎのちびの里と同じように、巨大な狼型の魔獣が炎を吐いて里を焼いたのかと最悪の想像をした。
「煙を吸うのは危険だよ」
「ラミィ。別の経路は知っている?」
『ここから石の柱のあるところまではわかない』
「遺跡周辺だったら案内はできるけれどね」
迷っている時間はない。
ランスディールは今まで通ってきた経路で行くことに決めた。ただし、煙が充満しているなら進路を変更することを話す。
「行けるところまで行こう」
◇◇◇◇◇◇
『ランス! 大丈夫!』
巨大な狼型の魔獣が踏み倒した樹に乗って白い耳をぴんと立てたラミィが周囲の音を拾って、ランスディールとカーリージェリーを手招きする。
「ほんとうに凄いね」
「ああ」
カーリージェリーは率直な感想を口にして、ランスディールもうなずいた。
巨大な狼型の魔獣に踏み倒された樹を乗り越えながら森の惨劇を目のあたりにし、あらためて自分たちがいかに巨大な敵と戦うのかを意識させられた。
「今後の戦闘のことも考えて魔獣との遭遇は避けたいと思っていたけれど」
「気配がないね。あの巨大な狼型の魔獣にみんな気圧されてどこかに行ったのかもね」
白い煙はランスディールが思ったほど街へ流れてきてはいなかった。
さらに、危惧していた魔獣との遭遇も今のところない。
一刻も早く女王ヴィヴィから銀色の槍を受け取るため、ラミィには聴覚で様々な情報を集めてもらい進んでいる。
「問題なのは休憩する場所だね」
ランスディールたちは樹から下りては進み、また樹を上っては下りてを繰り返している。
街から白うさぎの里まではどこかで一泊もしくは二泊は野宿しないと体がもたない。今はラミィの里帰りのとき以上に体力と時間が奪われている。
どこで休憩して回復するのが良いかと、草地が踏みつぶされた場所を走りながら考えていると、ランスディールはラミィに念話で呼ばれた。
『ランス! ヴィヴィがいる!』
ラミィが指した先、以前は倒木があるはずの川の向かい側で、銀色の槍をもった女王ヴィヴィが難しい顔で立っていた。
「女王ヴィヴィ!」
『ランスディールでないか!』
女王ヴィヴィの表情が一変して、白い尻尾を振りそうなほどの明るい表情を見せた。両手で握っているのは銀槍『グレイス・ニルヴァ』。
「エーデルロワーナ師団長に言われて受け取りに来ました!」
『そうか! エルフの者たちに長を頼むことができての。エーデルのところへ行こうとしていたところじゃ!』
巨大な狼型の魔獣によって川底の深さが変わり、流れが以前よりも速くなっている。さらに、倒木が流れないようにせき止め代わりになっていた大きな岩が下流の方へ転がっていて、倒木が流されていた。
「女王ヴィヴィ。ここより川幅が狭いところで合流しましょう」
『いや、ランスディールよ。あそこの岩から向こうの岩へ跳ぶことはできるのじゃ。しかし、この槍をもったままだと跳躍したときの体の均衡が危うくなりそうでの。この槍を受け取ってはくれぬか?』
「わかりました!」
ランスディールは旅用鞄から、教会の裏庭で男たちをしばったときに使ったのと同じ縄を岩場から女王ヴィヴィに向かって投げる。
受け取った女王ヴィヴィは縄で槍を縛りつけ、岩場からランスディールに向かって投げ返した。
半円を描くように落ちてきた銀槍『グレイス・ニルヴァ』はランスディールの利き手に収まった。陽光で素材の良さが艶めいていた。見た目は鉄製のように見えるが、そうでないようにも見える。程よい重さを感じた。
ランスディールが岩場から降りると、女王ヴィヴィは助走して岩場から飛躍して川を飛び越えた。
「よくご無事で」
ランスディールが安堵した息を吐いて怪我はないかと聞くと、女王ヴィヴィは大丈夫だと答えた。
『エーデルロワーナとエルフの長がいたおかげじゃ。しかし、さすがに不眠で駆けたからの、体力はもう限界じゃ……』
女王ヴィヴィは白い耳を垂らした。
女王ヴィヴィは巨大な狼型の魔獣が白うさぎの里に現れたとき、すぐさまエルフの長の代わりに銀槍『グレイス・ニルヴァ』を取りにエルフの里へ向かった。
エルフの長が巨大な狼型の魔獣にしかけた拘束用の魔法は術者が発動している間は縛られているものが内側からどれほど力を与えようとも壊すことはできない優れた魔法である。しかしその代わりに発動中、術者自身はそこから動くことができないこと、魔力は消耗する一方であることが弱点であった。
時間との戦いであるため、女王ヴィヴィは全速力で駆けた。さらに、巨大な狼型の魔獣から攻撃を受けて重傷を負ったエルフの長の治療にかなり魔力を消耗している。
「あたしがおぶっていくよ」
カーリージェリーがしゃがむと、女王ヴィヴィはすまぬと一言断って肩車をしてもらうようにカーリージェリーの荷物鞄の上に座った。
「ラミィはまだ大丈夫だよね?」
『大丈夫!』
ランスディールが聞くと、ラミィは金色の角を光らせて力強くうなずいた。
ランスディールは銀槍『グレイス・ニルヴァ』を自分の背中と旅用鞄の間に挟み、来た道へ足を走らせた。




