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45 白うさぎの逃走

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 エーデルロワーナと会ってから八日が過ぎた。

 指示役であり主犯であろう金髪の女は、ランスディールが事務所を訪れた日以降は無言を貫き通しているという。

 しかし、男たちが認めたことで二度目の狼型の魔獣の襲撃の犯人は確定し、ランスディールとカーリージェリーの濡れ衣は晴れた。

 ランスディールはカーリージェリーとともにギルドへ行き、その報告をした帰り。

 ネネクの宿の前まで来ると、検問室で会った男性事務職員がうろうろしていた。


「あ! ライナスさん!」


 ランスディールの姿を見つけると、会えて良かったと言って、息を切らして駆け寄ってきた。


「どうしたんですか?」

「あの……エーデルロワーナ……師団長が……まだ、お帰りになって、いなくて」


 呼吸を整えながら、男性事務職員は簡潔に説明した。

 黒うさぎのちびに直接会いに行った後、白うさぎの里に行くと言ったまま連絡が途絶えているという。

 王都にある本部から、まだ街に滞在しているかと確認の連絡を受けて、数人の職員で街の中を探しているという。


「いえ。会ったのは八日前が最後です」

「そうなんですね。陛下が早急に相談したことがあるとおっしゃっているようでして……」

「では、許可をいただけますか。道は知っているので、白うさぎの里へ聞きに行ってきますよ」


 運が良ければ道中ばったり会うかもしれない。それならそれでいいとランスディールは思った。


「本当ですか⁉ ありがとうございます!」


 助かりますと、男性事務職員は喜んだ。



  ◇◇◇◇◇◇



 広大な森の中の『ただの森』。

 『精霊獣が住む森』との境界線、石票が柵のようにずらりと埋められている場所。

 一部が崩壊し、苔や絡まっている蔦で幾年の歳月が経過していることを教えるアーチ状の石柱。

 その石柱がランスディールたちの視界に入り、あともう少しの距離での時にラミィの白い耳と黒うさぎのちびの漆黒の耳が同時にぴんとたった。


『ランス! 向こうからたくさんの足音が聞こえる!』


 ラミィは白い耳をたてたまま、警戒態勢をとった。


『白うさぎの里の、みんな……?』


 黒うさぎのちびは自信ないよううで、語尾に疑問符をつけた。


「――ランスディール! なにをしている! 逃げろ!」


 怒鳴り声でランスディールの名前を呼んだのはエーデルロワーナ。

 白うさぎの里の獣人たちを引き連れて、ランスディールたちの方へ向かって走ってくる。

 髪は乱れ、外套と精霊術師の服が汚れていた。


「一体なにがあったんですか⁉」


 ランスディールはよくわからないまま、黒うさぎのちびを抱えて走り出す。

 カーリージェリーとラミィは身をひるがえし駆けだした。


「あいつだ。黒うさぎのちびが話をしてくれた巨大な狼型の魔獣がきたのだ! 私が白うさぎの里についた翌日に現れた。もうあの魔獣に自我はなく怒り狂っている」


 ランスディールと並行して走っているエーデルロワーナが簡潔に伝える。


「幸いにも情報共有するためにエルフ族の長も来ていた。そのさなかに現れたのだ。エルフ族の長が足止めしてくれてはいるが、付き人含めて三人。そう時間は長くはない。王都の騎士団に要請して待つほどの悠長なことも言っていられん! 冒険者を集めて全員で奴を倒すしかない!」

「え⁉」


 ランスディールとカーリージェリーの声が重なる。

 集めて倒すということは、白うさぎの里に冒険者たちを連れて行くということだ。


「言いたいことはわかるが、もう細かい事はいっていられない状況なのだ。白うさぎの里に出てきてからの時間を考えると、今日か明日が限界だろう。あの魔獣が街に来るという最悪の場合も考え動かねば」


 エーデルロワーナは緊迫した表情で告げる。


「数は? 有効な手段はありますか?」

「一体だ。体毛に隠れていて見えにくいが、中型の狼型の魔獣と同様に心臓を守るように胴体部分は固い鱗に覆われている。首周りは少ないように見えた。鱗の固さと体格差を考えると物理攻撃はあまり期待できない。それでも定石通り、足元から狙ってやるしかないだろうが」


 エーデルロワーナはどこか諦めた声音で言い、言葉を続ける。


「火属性の魔法は有効だ。しかし、この場にいる魔法使いは私しかいない。戦力不足だな。唯一期待できるのは、エルフ族の長が持っている『銀槍グレイス・ニルヴァ』だ。どんな固い鉱石でも鱗でも物質なら貫き通す」


 銀製武器はエルフの里にあるという。魔獣の足止めをしているエルフの長の代わりに、女王ヴィヴィがエルフ族の里に取りに行っている、とエーデルロワーナはつけ加えた。

 こうして話をしている間も、エーデルロワーナは時々後ろを振り返っては、白うさぎの獣人の様子を見る。

 生活範囲が里の周囲である白うさぎの人獣たちはリアンド国に保護を求めようと、街へ行きたくても道がわからない。

 だから、白うさぎの里の獣人たちはエーデルロワーナの後ろについて駆けているのだ。

 黒うさぎのちびは会話を聞いていて思い出したのか、それとも巨大な狼型の魔獣の気配がわかるのか、ランスディールにしがみついている。


「ランスディール。私はこのまま白うさぎの獣人たちを連れて役所へ行く」

「わかりました。私たちはギルドへ行きます!」


 まだ瓦礫の撤去も修復が終わっていない、城門塔が見えてきた。


「検問の兵士たちよ! 緊急事態だ! 鐘楼に伝えろっ!」


 エーデルロワーナが走りながら大声で叫ぶ。

 城門塔の左右に配置された検問の兵士たちはエーデルロワーナの声と後ろにいる白うさぎの獣人たちを見て、びっくりして肩を跳ねあげる。


「緊急事態だから手続きは後でする! このまま通してもらうぞ!」


 エーデルロワーナが警鐘を鳴らすように言ったが、彼らは事態をのみこめず驚いたまま固まっている。

 その間をエーデルロワーナと白うさぎの獣人たちが走り抜く。

 黒うさぎのちびを抱き上げているランスディールとカーリージェリー、ラミィも続いて走り抜いた。




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