44話 犯人捜しその後
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金髪の女と男たちを捕まえた後、カーリージェリーは走って兵士たちがいる事務所に行った。
事務所は夜勤を交代でおこなっている。事情を聞いた数人の兵士たちは、カーリージェリーと一緒に教会の庭にきた。
兵士の一人は意識を失っている金髪の女を抱き上げ、残りの兵士たちは男たちにいくつかの質問をした後、事務所にある留置場へ連れて行った。
お礼品を持ったランスディールとカーリージェリーは翌日訪れたが、誰も口を割らないと兵士に言われ、日をおいてあらためて事務所を訪れた。
応接室まで案内され、そこで話を聞くことになった。対応してくれたのはカーリージェリーが連れてきた兵士の一人。
「ディーザがお香をもっていた」
ランスディールが復唱するように聞くと、兵士はそうです、と答えた。
「部屋に入れる前に持ち物はすべて没収します。所持品検査をしたときに内側のポケットから出てきたのです」
留置所に入れる前には脱走や証拠隠滅、自害をさせないために必ず身体検査と所持品検査を行う。金髪の女と男たちは今、留置所で大人しくしているという。
「それについて自供していますか」
「金欲しさに自分が購入した倍の値段で売るためだと」
「どこから入手したとかは?」
「そこは無言を貫き通しています」
「先日の狼型の魔獣の襲撃については?」
「男たちの方が自供しました。女の指示に従って『精霊獣が住む森』に入り、お香を使って魔獣を誘導したと。それを伝えたら、もう逃げきれないと思ったのでしょう。女のほうも関わっていることを認めました。過去に冒険者に酷いことをされて恨んでいた、だから彼らに声をかけて仲間にしたと」
ランスディールとカーリージェリーは肩をなでおろした。
これで自分たちの濡れ衣は晴れたのだ。
「よかった」
「本当に、迷惑かたね」
「いや。そこはお互いさまだよ。あの、鞄のことはなんて言いっていますか?」
ランスディールはとカーリージェリーは金髪の女と男たちを兵士に引き渡した翌日、ギルドに行った。
窓口で説明して、預かってもらっていたあの鞄を返してもらい、事務所へ持って行き兵士に渡している。
「男たちの方が、自分たちの持ち物だと認めています」
兵士はさらなる実証を掴むために聞き取りを続けると言った。
「この件についてギルドと精霊術師団長エーデルロワーナ殿にも報告していただきたいのですが」
ランスディールが事情を説明すると、兵士は了承した。
「ありがとうございました。よければ休憩の時間に皆さんで食べてください」
ランスディールはお礼品として持ってきた、焼き菓子を包んだ木箱を渡した。
夜遅くに協力してくれたお礼ですというと、兵士は手を振ってはじめはいいえ、そんなと控えめに断ってきたが、ランスディールがではご家族へと言い変えると受け取ってくれた。
事務所を出る際にもう一度お礼を言って、今は露店が並ぶ通りを歩いている。
「ああいうお礼品って渡したほうがいいんだね」
「仕事の内だから用意しなくてもいいんだよ。ただ、今回は時間帯が時間帯だから。それに、ギルドや王都にある精霊術師団とか他部署への報告書って大変で。私は数回しかやったことないけれど。末端の部署はやることが多くて大変だよ」
カーリージェリーが感心したように言うと、ランスディールは騎士団にいた頃の話をした。
「騎士学校を卒業した後、卒業生は家柄に関わらず、短期間でも街の警備や巡回を担当する部署に配属さる。私も経験した。だから、その先の大変さが目に浮かんでしまって」
なるほどね、とカーリージェリーは相鎚をした。
(近衛騎士団もそれなりに忙しかったけれど、彼らのような街と密接に関わって警備する部署だって大変だ。彼らのような人たちがいるから治安は保たれている)
冒険者たちだけで、この街も国も治安が形成されているわけではない。
自分は退団してしまった身だ。だからこそ逆に今、ランスディールは有難さを実感した。
「まあ、何はともあれ、今夜からぐっすり寝られるよ」
そう言ったカーリージェリーの安堵した顔に、ランスディールはそうだねと笑み浮かべる。
話をしながら通りを歩いていると、この街にきた初日にラミィからあれが食べたいと言ってきたベリーが生地に練り込まれた丸いパンを売っている店に着いた。
ラミィと黒うさぎのちびはネネクの宿で留守番をさせている。
以前のように鞄を開けられ、ジャムを大量消失するのは避けたいからだ。
留守番の時間が短くても長くてもラミィの機嫌はきっとよくない。なので、ご褒美として買って帰ることにしたのだ。
宿に着いて部屋の扉を開けたら、ランスディールの旅用鞄は開けられていて、盗賊に荷物を荒らされたのではと疑いたくなるほどの、酷い散らかりようになっていた。
「……」
「うわ!」
ランスディールは紙袋を抱えたまま言葉をなくし無言。悲しくも予想は当たってしまった。
カーリージェリーは目を見開いて、その光景に驚愕した。
「ラミィ……」
ランスディールは主犯であるラミィに向かって力なく呟いた。聞かなくても断言できるのは、この散らかりようを以前にも見たことがあることと、ちびが勝手に人の物に触れない性格を知っているから。
『ランス! 遅い!』
ラミィは機嫌がよろしくないようで、頬を膨らませて金色の角を光らせ念話を飛ばしてきた。
今回もラミィは自分で自分の機嫌を直そうとランスディールの鞄からジャム瓶を取り出した。
今は瓶の底に残っているジャムを食べようと舌を伸ばしている最中だ。
ラミィはちびも誘って共犯にしたようで、長椅子に並んで座っている二人の口端にはジャムがついている。
空になった果実のジャム瓶がいくつもテーブルの上に転がっていた。
黒うさぎのちびはランスディールの表情を見て、やってはいけないことをしたのだと悟り、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「はあ……。もう」
ランスディールはため息をついて、テーブルの上に置かれている空瓶を端によけて、紙袋を置いた。
『パン!』
紙袋から漏れている香ばしい匂いとベリーの匂いが、ラミィと黒うさぎのちびの鼻腔をくすぐった。白い耳と漆黒の耳がぴんと垂直にたつ。
「そうだよ。いい子にして待っていると信じて買ってきたのに」
ランスディールは疑っていたことを隠して、わざとらしく言った。
『ごめんなさい』
黒うさぎのちびは反省し、しゅんと耳を垂らして漆黒の角を弱々しく光らせ、素直に謝った。
ランスディールは母親を真似した口調で、今後は黙って鞄を開けて食べないでね、と優しく言い、素直に謝った黒うさぎのちびにベリーが練り込まれたパンを渡した。
『ラミィも食べる!』
「ごめんなさいは?」
ランスディールは鞄を勝手に開けたこと、勝手にジャムを食べたことを謝るよう告げる。
『……ごめんなさい』
ラミィは持っているジャム瓶をテーブルに置いて、純白のような白くてふわふわした耳をしゅんと垂らして謝った。
子供の背丈と変わらない体格。ぱっちりとした大きい目。耳と同じく純白のような白くてふわふわした丸い尻尾。
可愛らしい小動物に見えるその姿で謝られると、ランスディールも必要以上に怒れなくなる。
一応反省したようだし、とランスディールはパンをラミィに渡した。
するとランスディールからパンを受け取ったとたん、ラミィの表情はころりと喜色満面に変わり、もぐもぐと食べ始めた。
「…………」
謝罪をしたことが噓だったかのような身の変わりようの早さにランスディールの首が、がくりと垂れた。
カーリージェリーは、あはははと大笑いしていた。
「笑っている場合じゃないよ」
「わかってる。手伝うよ」
肩を落としているランスディールに同情したカーリージェリーはまだ笑いが収まらないようで、無理矢理口を一文字のようにきつく結んで、床に散乱した布巾や野宿時に使う木皿など小物を拾い上げていく。
「ラミィ、ちびも食べたら手伝って」
ランスディールは母親に似た口調で言いながら、散らかった荷物を一つずつ拾い上げていく。
手伝わせるつもりならパンをあげる前にやらせればいいのに、とカーリージェリーは拾いながら思った。
ランスディールは意外とラミイやちびに甘いことに自覚がないようだ。
すると黒うさぎのちびは食べるのを止めて、長椅子から降りて手伝い始めた。
「ありがとう」
ちびから保存食を受け取ったランスディールはちびの頭を撫でた。
『お留守番してる時に、ペンダントの練習したよ』
「全部の結晶石に魔力が溜められるようになった?」
『うん!』
黒うさぎのちびはランスディールにペンダントを見せた。
「頑張ったね。じゃあ、食べ終わったら放出してみようか」
『うん!』
黒うさぎのちびは嬉しそうに漆黒の角を光らせた。長椅子に戻って座りパンを食べ始める。
『ランス』
入れ違いのようにラミィも床に転がっている荷物を持ってきた。
「ありがとう」
『今度からジャムちょうだい』
少しは反省したようで、ラミィはランスディールにお願いを言ってきた。
「ないとだめ?」
『たい……じゃない。お腹空く』
ラミィは誤魔化そうとして慌てて言いなおしたが、ランスディールは退屈と言おうとしたのがわかった。
(待っている間、ちびに色々教えてあげれば時間なんてあっという間に過ぎると思うんだけどな)
もともと女王ヴィヴィから黒うさぎのちびが人の国で生活できるか体験させてほしいといわれて連れてきた。今のところは拒否反応のようなことは見られない。ラミイとの仲も悪くない。
そして鞄の持ち主も見つかり、濡れ衣の件も解決した。だから落ち着いたらランスディールはちびを一度女王ヴィヴィの元へ帰そうと思っている。やはり幼いうちは同胞のもとで暮らしたほうがいいと思うから。
「おしゃべりだけじゃ飽きちゃうってこと?」
『うん』
「じゃあ、今度お菓子作ろう。前にも言ったけれど、この街にジャムを売っているお店はないから、なくなったらずっと我慢しないといけなくなる。それか果物の干物で我慢するかだよ」
『む。……わかった』
ずっと我慢しないといけないのはさすがに嫌なようだ。
ラミィはランスディールの譲歩に頷いた。
◇◇◇◇◇◇
夕日が地平線に半分ほど沈んだ時間帯。
鞄の持ち主だった三人組の彼らがこそこそしていた市壁の裏側の近く。少し歩けば『ただの森』に入れる、人気のない平地。
「じゃあ、さっそくやってみようか」
『うん』
ランスディールが離れると、ちびはペンダントの結晶石に溜めている魔力を放出するため、本体に刻まれている古の文字――呪文を唱える。
ちびの言葉に反応した結晶石は、中にある微粒を星のように輝かせて魔力を放出した。
ちびの影が揺らぎ、はじめは少しずつ広がっていく。そしてある程度の大きさになると勢いをつけて一気に拡大した。
「この間の比じゃないね」
「そうだね」
『ちび成長した』
ちびから離れて見守っているランスディールとカーリージェリーは驚き、ラミィは努力した同胞を褒めた。
城門塔内にある応接室で初めて影のポケットを見た。そのときの影のポケットの広さは室内の半分に近かった。
それを基準にするなら、初日にちびが溜められたのは結晶石二つで、放出したら単純に倍近い広さだった。
しかし、今回の結晶石六つは単純に六倍にした面積ではないように見える。
(師団長から貰った初日は上手く出来なくて、二つしか溜められなかった。あれからまだ七日くらいしか経っていない。あれはこんなに直ぐに出来るようになるものか。そんなに難しくはないと言ってはいたけれど)
あの時ランスディールは黒うさぎのちびの隣で、一緒にエーデルロワーナの説明を聞いていた。
ランスディールは人間だ。人は魔力をもっていない。だから話を聞いていても想像の範疇からは超えられない。
それに対してちびは、うんうんと何度も頷きながら聞いていた。
ちびはあれから毎日練習して、今日やっと六つ魔力を溜められるようになった。
ちびの成長が普通なのか早いのか、ランスディールには判断できない。
エーデルロワーナは最後に、規模がわからないうちは室内で魔法をつかうのは危ないのでやめたほうがいいと言っていた。
だから、こうしてこっそりと人気のない場所で試しているわけだが。
(もっと色々聞いておけばよかった)
『ランス、来た!』
ランスディールが悔いていると、ラミィから長靴の足音が近づいてくると目深に被ったフードから念話で知らせてきた。
「ちび」
『ちょっと時間がかかる』
ランスディールが声をかけると、ちびは振り向いて困った顔をした。
漆黒の耳でも足音に気づいているが、影のポケットが最大限に拡大されているので、その分もとの陰の大きさに戻すための収縮に時間がかかると漆黒の角を光らせ、ランスディールへ念話で送る。
「カーリー、時間がかかるみたい」
「わかった。行ってくるよ」
カーリージェリーは城門塔の方へ走って行った。
先日事務所にお礼品を持ってきたことで、兵士たちの間でランスディールの株が上がった。
城門塔の扉が閉まる時間になると、検問の兵士は親切に言いに来てくれるのだ。
『あっちで会話してる』
ラミィはカーリージェリーが兵士をつかまえて上手く時間稼ぎをしてくれていると念話で教えてくれた。
ランスディールがはらはらしながら見守る中、ちびの影のポケットは少しずつ収縮している。
カーリージェリーの声が大きくなった。そろそろ限界という合図だ。
「すみません! ライナスさん!」
これ以上は待てなくてカーリージェリーを置いてきた兵士が、ランスディールを呼びに来た。
「すみません! すぐに行きます!」
(なんとか間に合った!)
冷や汗をかいたランスディールは黒うさぎのちびを抱きかかえ、ラミィを連れて兵士の所まで走っていく。
「すみません。蟻とか虫が気になるみたいでなかなか離れなくて」
小さい子供は興味をもつと夢中になる。それを理由にランスディールは空笑いして誤魔化した。
「わかりますよ。男の子は虫好きですからね」
自分も小さいときはそうでした、と兵士は気さくに笑う。
そうですよね、とランスディールは言い、怪しまれないために笑顔を貼りつけて城門塔まで戻った。
読んでくださりありがとうございました。
次回8月20日予定です。




