41話 花屋の看板娘
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「美形は得だね」
ランスディールの顔を半眼で見ながらカーリージェリーは言った。
カーリージェリーはラミィを連れて少し離れた所から、看板娘がランスディールの微笑みに一撃で堕ちた瞬間を見ていた。
ランスディールが聞けば、娘は呼吸をするようにあれこれと情報提供してくれた。
その気になれば結婚詐欺もできそうだねと言った。
ランスディールは勘弁してくれ、恋愛関係はごめんだと肩をくすめた。
「ちび、歩きづらい?」
『大丈夫』
心配したランスディールに黒うさぎのちびは足元を見て歩きながら、漆黒の角を光らせて念話を送った。
店員にちゃんと黒うさぎのちびの足にあった靴を選んでもらったが、生まれて初めて革靴を履いているので違和感があるようだ。
黒うさぎのちびの歩行練習も兼ねて、黒うさぎのちびの歩行速度に合わせて歩いている。
「次、どうする? 酒場は早くて夕方からだよ」
カーリージェリーに聞かれたランスディールは黒うさぎのちびの様子を見ながら、街並みを見まわして花屋に目がとまった。
黒うさぎのちびに小休憩とらせるまでの距離にもちょうどいい。
「あそこに行く」
「あたしはそこの角で待っているよ」
女性店員を見つけたカーリージェリーは、変に誤解されるのはごめんだと、ラミィを連れてランスディールから離れる。
ランスディールは黒うさぎのちびを連れて、花に水やりをしている女性店員にあの、と声をかけた。
「あ、はい。いらっしゃいませ!」
「ちょっとお時間よろしいですか?」
「は、はい! 大丈夫です!」
花屋の女性店員はランスディールの顔を見るなり、頬を赤らめる。
店員は十代の女の子だ。
彼女もランスディールの白金髪の髪に青灰色の瞳に心を奪われたようで、足元の黒うさぎのちびに気がついていない。
「実は困っていまして」
ランスディールは事情を説明し濡れ衣を着せられていることを伝えた。
きっかけとなったジェイドラル・ギルの名前をだすと、看板娘はあの人ですかと言った。
「食事のお誘いがしつこい人なんですよね」
私、何度も断っているんです、と愚痴った。
「ここ数カ月の間で『獣人が住む森』もしくは怪しいお香を持っている人を見かけませんでしたか?」
「えっと、先々月だったかしら?女性の冒険者さんから、ねえあの噂知ってるって、聞かれて――」
『ねえ、知ってる? 最近、変な臭いがするお香を使って、魔獣退治をしている冒険者がいるみたいよ』
『え、そうなんですか?』
『ええ。勘単に魔獣をおびき寄せられるように、動物の肉を乾燥させた粉末が入っているみたい。気をつけたほうがいいわ』
「その冒険者って、誰かわかりますか?」
「名前まではちょっと。革鎧を着た金髪の女性です。二十代くらいかな。目元がぱっちりしていてきれいな人でした」
仲間が怪我をしてしまい、お見舞いの花を買いに来たのだと言っていた。
他にも顔立ちなど細かいところを聞き、お礼に硬貨を数枚渡した。
「あの!」
看板娘は立ち去ろうとするランスディールを呼び止めた。
看板娘はこれっきりの縁にはしたくはなかった。
向こうから声をかけてきたのだ。これは母なる神が自分にもたらしてくれた最良の縁だと思っていた。
そう信じたい。
「なんでしょう」
「あの……。私、母子家庭なんです」
「それは、大変ですね」
ランスディールはいきなり家庭の事情を話してきた看板娘に動揺する。
「はい。家計を助けるために私、ここで働かせて頂いているんです」
「…………」
母子家庭と聞いた途端、ランスディールは嫌な予感がして無言になった。
ランスディールは今すぐに心から逃げたいと一本足を後退させる。
ランスディールは独身だ。婚約者もいたが白紙にした。それから新しい縁談は断り続けている。
双子の姉妹の上には姉がいて年齢的には看板娘と近いと思う。
(年齢的に範囲内だからといっていいってわけじゃない)
ランスディールは旅を始めたばかり。まだ身が軽いままでいたい。
「母に負担をかけたくないという気持ちもあるんですが、やっぱり諦めきれなくて……」
「頑張ってください」
ここから離れたい一心で、ランスディールは反射的に答えた。
「私、画家になりたいんです! デッサンさせてもらえませんか⁉ お兄さんみたいに『白馬の王子』のような顔の綺麗な男の人を描いてみたいと思っていたんです! あ、もちろん謝礼はお支払いします!」
看板娘は頬を赤らめ、鼻息も荒く勇気を出して言った。
(結婚話じゃなかった⁉)
ランスディールは予想外の展開に内心驚いた。
しかし。
「申し訳ありません。この子の面倒を見ないといけないので」
「え? あの、お時間が空いているときでいいんで……す⁉」
看板娘はランスディールの足にしがみついている子供に気がついた。
鼻先まで隠れるフードのせいで顔はよくわからないが、服装から男児だとわかった。
物語に出てくるような『白馬の王子』さまの顔立ちをしたランスディールの顔に心を奪われていて、足元に視界が入らなかった。
「あの、既婚者なんですか?」
看板娘は恐る恐る聞いた。
「え? えっと……連れが待っているので……」
ランスディールは言葉を濁して、少し離れているカーリージェリーにちらりと目を向ける。
「⁉ …………そうですか」
看板娘は遠い目をして、大丈夫ですと言った。
最良の縁だと思った人の好みは、自分の想像の斜め上だった。
「お待たせ」
ランスディールは黒うさぎのちびを抱えて足早にその場を立ち去って、カーリージェリーと合流した。
「あたしのほう見たかい?」
「……………いや。気のせいだと思うよ」
ランスディールは目をそらした。
露骨に目をそらしたランスディールに、カーリージェリーはふうんと意味ありげな視線を向ける。
「次はギルドだね。エディーザという人が本当に冒険者登録しているか確認しないと!」
笑顔でわかりやすく話を変えてきたランスディールにカーリージェリーは、飲食店の看板娘と先ほどの看板娘の反応を思い出す。
「無垢な少女を惚れさせるからそうなるんだよ」
カーリージェリーは半眼で言った。
「いや、そんな、普通に話をしただけだよ。疑われるようなことは一瞬でもしてないからね?」
ランスディールは浮気の疑惑を向けられた恋人の言い訳のように、必死に主張する。
「最後は誤解されてなかったかい?」
「…………」
ランスディールはまた露骨に目をそらした。
肩が下がり、ため息をついきたいという顔をしている。
『?』
そのきかっけをつくっている黒うさぎのちびは、ランスディールとカーリージェリーの会話についていけず、首をかしげる。
「街に妙な噂が流れないことを祈るんだね」
「心から祈るよ」
ランスディールは切に願うように言った。
『ランス、頑張れ!』
「うん、頑張るよ」
その場にいなかったラミィには理由がわからない。
しかし、生まれた時から一緒に暮らしてきた家族だ。励ますのは当然。
ラミィは気落ちしているランスディールを元気づけようと、頭が撫でられないかわりにランスディールの腕をぽんぽんと軽くたたき、応援するように金色の角を力強く光らせた。




