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34話 魔獣との戦い ②

「カーリー、天幕へ連れて行こう」


 検問の若い兵士の苦悶した表情は薄れている。

 今なら外套を担架代わりにして二人で運んでもよさそうだ、とランスディールはカーリージェリーに伝える。

 今でも苦しい戦闘に立たされている冒険者たちに加勢することも大事だが、救える命を救うために医療班へ負傷者を連れ行くことも同じくらい大事だ。


「ああ、わかった」


 カーリージェリーは剣を鞘に収め、検問の若い兵士へ駆け寄た。

 ランスディールは外套を脱いでそれを地面に敷いた。カーリージェリーと掛け声を合わせて、検問の若い兵士を外套のうえに移動させる。

 慎重に歩いて路地を出ると、カーリージェリーが先ほど倒した狼型の魔獣の屍を同胞の狼型の魔獣が喰っていた。

 口の周りに赤黒い血がべったりとついている。


「!」


 目が合うと、狼型の魔獣は唸り声をあげて鼻面に皺をよせた。食事中のところを邪魔されて機嫌が悪くなったようだ。

 ランスディールとカーリージェリーは警戒しながら、検問の若い兵士を隠すように先ほどの細い路地へ戻る。


「やるしかない?」

「こっちの方に道があるけど……住宅街だ。もし追いかけられて交戦になったとき、家の中にいる住民に被害がでるかもしれないね」


 カーリージェリーは頭に入っている経路を思い出しながら答える。

 狼型の魔獣は炎を吐く。住宅街で交戦した場合、その炎が家に移ったら火災になってしまう可能性がある。


「やろう」


 先に倒したほうがいいとランスディールは言った。

 住民に被害が及ぶ危険性がある、先ほどの魔獣が追いかけて交戦になるかもしれない、という不安を抱えながら怪我人を運ぶのは危険だ。

 すぐ近くで横になっている怪我人をかばいながらの交戦はとても大変で、炎を吐かれたらかばいきれないだろう。


「今のところはあの三匹だけみたいだね。あたしはむこうの二匹をやるよ。あっち頼めるかい?」


 屍の狼型の魔獣を境に、ランスディールとカーリージェリーに近いほうが一匹、反対側に二匹。

 カーリージェリーはランスディールが同時に数体の魔獣の相手をするのは荷が重たいと判断した。


「わかった」

「無茶するなよ」


手短い会話で分担を決めた。

 カーリージェリーは大剣をするりと抜いて、狼型の魔獣へと駆けだした。

 ランスディールもふっと軽く息を吐いて地を蹴った。

 カーリージェリーや冒険者たちのように経験が豊富にあるわけではない。深追いをせず、確実に仕留める方向へもっていければ大丈夫だと言い聞かせる。

 ランスディールは検問の若い兵士のほうに狼型の魔獣を行かせないように移動しながら、狼型の魔獣の腹部に向かって剣を振り下ろす。

 狼型の魔獣は瞬発力を発揮し、ランスディールの剣先を回避して炎を吐いた。


「!」


 ランスディールは素早く身を引く。

 数秒前まで立っていた石畳は火で炙られたように黒焦げた。

 怪我人を運ぶにせよ、自分たちよりも先に戦っている冒険者たちに加勢するにせよ、自分まで大怪我するわけにはいない。治療魔法が使えるラミィもいないので、負傷したらその分だけこちら側の状況が悪くなる。

 そんなランスディールの胸中などお構いなしに、脚をばねのように縮めて蹴った狼型の魔獣は突進してきた。

 ランスディールは間一髪で回避する。

 嚙みつこうとした魔獣の牙は空振りに終わり、がちっという歯と歯の衝突音がランスディールの耳に入る。

 ランスディールの手に嫌な汗がじんわりと滲み出た。


(本当に人とは違うな)


 近衛騎士団にいた頃は対人戦ばかりだった。

 ランスディールの護衛対象は王族だったのだし、王都に魔獣が現るなどそうそうないのだから当然といえばそれまでだが。


(もう少し真面目にあの人の話を聞いておけばよかった)


 近衛騎士団の中に、一時冒険者をしていた先輩騎士がいる。

 ランスディールが騎士団を退団することを聞きつけ、なぜが食事に誘われた。

 自慢話とともにあれこれ助言をくれたのだが、そのときはこんな状況に自分が置かれるとは思ってもみなかったので、話を真面目に聞いているように装っていた。

 ラミィの里帰りに行って帰って、すぐにこの街を出て、特に目的もなく気の向くままに色々な国を見て回る。そんな未来だろうと想像していたからだ。


 果敢に攻撃姿勢で攻めてくる狼型の魔獣に、ランスディールは反撃できる機会を見いだせないほど苦戦していた。

 狼型の魔獣の繰り出す攻撃は前脚の鋭い爪で相手を負傷させる、口から炎を吐いて熱傷させる、牙で嚙みつく、誰でも予想できる単調なもので見切りはできる。

 しかし、心臓を守るかのように逆立った硬い鱗が胴体部分にあるので、手ごたえのあるダメージが与えられる部分は首や足など限定される。


(一対一なのになんでこうも。いや、一対一だからか。ラミィに頼りすぎていたのかもしれない)


 ランスディールは苦笑した。

 カーリージェリーと出会う以前にも、ラミィの里帰りに付き合ったこともがある。その時にも魔獣との戦闘経験はあるので全くの素人ではないのだが、ラミィ抜きで戦うのは初めてだ。

 ラミィは『神の盾』と呼ばれる母なる神の恩恵によって得た力で物理攻撃や魔法防御ができる結界が張れる。さらに創傷を治療できる魔法ができる。

 防御と回復術を得ているラミィは意外と優秀なのだ。普段の言動から手を焼かされているので、素晴らしい部分が霞んでしまうだけで。


(ぼろぼろな姿で迎えに行ったら、なんていわれるだろう)


 ラミィがいないとランスはだめ、というようなことを言われそうだ。


「っ!」


 何度目かわからない、飛びかかってきた狼型の魔獣の爪が直撃してランスディールの上腕を引っかいた。

 皮膚が削りとられ、飛び出すように鮮血が宙に舞う。

 ラミィのことを考えていて隙を与えてしまったのか、回避力が体力低下により落ちているのか、狼型の魔獣が学習しているのか、戦闘開始の頃よりも繰り出す爪の一撃が的確になってきている。


(このままだと母なる神のもとに行くのは私のほうになるのかな)


 あと少し上だったら首、頸動脈が切られていた。

 ランスディールの身が総毛立つ。

 視界の端で、二匹の狼型の魔獣と戦闘中のカーリージェリーの苦戦している姿が映る。


(肩幅のある重装備の剣士だって、童顔の修道士と一党パーティーで戦っていたくらいなんだ。そう簡単には倒れてはくれないよな)


 せめて自分が視界に入らない瞬間、隙が作れないかと、狼型の魔獣を警戒しつつ周りを確認する。

 視界に映ったのは焦げてくすぶって黒い煙をあげ、半壊状態の城門塔と近くの市壁。

 地面に転がっているのは魔獣の返り血をあびて赤黒くなった鉄兜と黒焦げているマント、折れている矢など冒険者たちが使っていたもの。

 幸いにも他の魔獣は冒険者たちが相手をしていて、あぶれている魔獣は見当たらない。


(やってみよう)


 ランスディールは剣を鞘に収めて城門塔へ向かって駆け出した。





読んでくださり、ありがとうございました。

沢山の作品がある中で、自分の作品を読んでくださった方がいると思うと、とても嬉しいです。

とても励みになります!

これからもよろしくお願いします!


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