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27話 検問所

 街をぐるりと囲む市壁は灰色の煉瓦で積み重ねられ、見上げるほどに高い。

 この街の出入口は二箇所あり、そのうち広大な森側にある城門塔には検問をする兵士が交代制で担当し、常に警戒している。

 左右に造られた城塔には伝令役も兼ねて弓兵がいる。魔獣が襲ってきたときすぐに街の中にある鐘楼に合図を出して住民に伝えられるように、また魔獣が近づいてきたら矢でなどで牽制や攻撃など臨機応変に動けるように。


 先月、ある冒険者たちが法外を用いて魔獣をおびき寄せた。成功したが、実力不足で狩る側から狩られる側になり街に逃げ帰ってきた出来事があった。

 魔獣は冒険者たちを城門まで追いかけてきた。

 城塔で見張り役をしていた兵士がすぐさま鐘楼へ合図を送り、冒険者総出での退治に発展した。

 幸い住民に怪我はなく、破壊された市壁の修復工事は終わり、元通りになっている。

 門の前で立っている検問の若い兵士は、先輩兵士から油断するなと言われ、気を引き締めて立っていた。すると、広大な森から歩いてくる人物が見えて、眉をひそめた。

 顔が綺麗な白金髪の男が一人と鍛えられた肉体をもつ短髪の女剣士が一人。女剣士は大剣を腰に下げている。格好からして二人が冒険者であることはわかった。

 しかし、白金髪の男の隣を歩いている子供の背丈と変わらないものは鼻先まで深くフードをかぶっていて顔がわからない。被り物をしているのか、頭の形が尖っている。

 さらに、白金髪の男の腕には小さい子供を抱えている。


 冒険者は前衛、中衛、後衛担当を決めて一党パーティーをつくる。検問に向かって歩いてくる冒険者は剣士が二人で前衛しかいない。

 冒険者の組み合わせにしては不自然だ。

 一目見て怪しいと感じた検問の若い兵士は、白金髪の男と女剣士を警戒した。


「待て。検問をおこなう。冒険者なら証を見せろ」


 検問の若い兵士が固い声で言うと、顔が綺麗な白金髪の男と女剣士は首にかけていた、ギルドから発行された証を見せる。


「そこの子供は?」

「精霊獣です」


 顔の綺麗な白金髪の男はそう答え、服の内側から別の証をだして見せた。

 国が契約主に発行した認定証と、顔の綺麗な白金髪の男が代理で預かっていることを証明する代理証明証だ。密輸や誘拐ではないことを証明するもの。


「失礼いたしました! どうぞお入りください」


 連れの精霊獣が白うさぎだと知ると、兵士は言葉遣いを改めた。

 リアンド国にとって白うさぎといえば、勇者アヴァベルルークスと共にドラゴンと戦った白うさぎの里の女王ヴィヴィや過去に広大な森をさまよっていたある時代の王の命を救った恩人の獣人としても知られている。

 こういった経緯から国旗には白うさぎが描かれ、リアンド国と白うさぎの里の間では友好関係が築かれている。

 兵士は失礼な対応をしてはならない相手だと知り、一歩下がって道を開けて態度も改めた。


「ありがとう。……実はこのこも獣人で。師団に登録をしたいので、精霊術師の方を呼んでもらえますか?」


 顔の綺麗な白金髪の男は視線で抱き上げている精霊獣をさし、白うさぎの里で契約を交わした、と検問の兵士に事情を説明する。

 検問の兵士はわかりましたと頷き、応接室へ案内しますと城門塔の一部となっている平屋へ行くための木製の扉を開けた。

 城門塔の一階を通り過ぎると薄暗い廊下にでた。

 背が一番高い女剣士の位置でも窓はない。天井に近い位置に空気孔があり、そこから差し込む明かりを頼りに歩く。

 検問の若い兵士は廊下に二つある木製の扉のうち、手前の扉を開けた。


「ここでお待ちください」

「お手数をおかけします」


 顔の綺麗な白金髪の男が微笑んで丁寧に言うと、検問の若い兵士はきょとんとした。

 育ちの良い貴族の青年のような柔らかな雰囲気と冒険者の格好が一致せず、不思議なものを見たような感覚がおきた。


「いえ。とんでもございません」


 検問の若い兵士はその感覚を隠し、平常を保って一礼して扉を閉めた。

 顔の綺麗な白金髪の男、ランスディールは扉が閉まったのを確認すると、隣に立っている白うさぎの獣人ラミィに声をかけた。


「どうしたの?」

『異常なし。変な音も匂いもしない』


 ラミィは部屋に入るとすぐに獣人がもつ聴覚と嗅覚を活かして警戒し、部屋の点検をおこなっていた。


「ありがとう」

『ランス、脱いでいい?』


 ランスディールがお礼を言うとラミィは顔をあげた。深くかぶっているフードから問うような目と合う。

「いいよ」


 ランスディールから許可をもらったラミィは背負い鞄を床におろして、勢いよくばさりと外套を脱いで長椅子へ放り投げた。気になるようで、両手で耳の毛の流れを整える。


「ラミィ。その外套ちゃんと畳んで」


 ラミィが無造作に置いた外套を見たランスディールはもうと言いたい言葉を飲み込んで、母親の小言にも似た言い方で促す。


『む! あとでちゃんと畳む!』


 耳の毛の流れを整えることを優先しているラミィは、言われなくてもわかっていると言いたげに金色の角を光らせた。

 天井には吊下灯、部屋の奥には赤い煉瓦の暖炉。客人に配慮した藁入りのクッションが敷かれた長椅子が二つに、艶のない木製の簡素なテーブルが一つ。

 風景画などはなく、空気の入れ替えと部屋を明るくするためにある木製の扉がついている窓が一カ所。


 ラミィ同様に部屋を見回して点検したカーリージェリーも、ランスディールやラミィから少し離れたところに立って異常がないことを確認して荷物をおろした。


「素がでてたよ」


 カーリージェリーはランスディールが冒険者登録をした理由が素性を隠すため、ということを知っている。


「今はあえてそうしたんだ。検問の兵士に好印的に見られて損をすることはないから」


 大丈夫なのかと聞いてきたカーリージェリーに、ランスディールは大丈夫だと言って、黒うさぎのちびを長椅子に下ろす。


「まずは靴を買わないとね」


 素足で地面を歩くのは危ないからと、ランスディールは白うさぎの里から黒うさぎのちびを抱きかかえてきた。幸いにも帰りは魔獣に遭遇することなく帰ってこられた。


『くつ?』


 黒うさぎのちびは知らない言葉を聞いて頭に疑問符を浮かべる。


「ラミィが履いている革製で作られた履物だよ。地面に何が落ちているかわからないからね」

『怪我をしてしまうの?』

「そういう可能性があるよという話だね。衛生的にも良くないから」

「そういえば白うさぎの里の獣人たちは裸足だったね。あれ、危なくないのかい?」


 カーリージェリーが思い出したように言う。


『みんな生まれたときは裸。だから裸足』


 ラミィは外套を畳みながら、当然と言わんばかりの顔で金色の角を光らせた。


「いや、それは人間も同じだけどさ。友好関係なんだろう。里に泊って思ったけど交流ってないのかい?」


 そういえば女王ヴィヴィは革靴履いたなとカーリージェリーは呟く。今になってその違いに疑問がわいたようだ。


「特に交易のようなことはしていないよ。お互い困った時は助け合いましょうっていう程度の条約で――」

『靴、面倒くさい!』


ラミィはランスディールが言い終えるのを待たず、口を挟んだ。


「はあ?」


ラミィの単純な理由に、カーリージェリーは思わず頓狂な声をあげる。


「紐靴だから。脱ぐときは紐をほどかないといけないし、履くときは紐を結ぶだろう。逐一それをするのが面倒くさいらしいんだ」


 ランスディールが当人に代わって思考を説明する。


「それは慣れだろう。危険性を考えれば履いたほうがいいじゃないか」

「見ての通り原始的な生活をしているから……」


 ランスディールが文化の違いだと言うと、カーリージェリーは納得した。

 里で暮らしている白うさぎたちはワンピース型の服は着ていたが、寝床はほった穴蔵。井戸はなく、主食は森の恵みから採取した木の実や果物だった。


「性格とか金銭的な理由じゃないんだね」

「そうだね。金銭的な問題は女王ヴィヴィの契約主が何とかすると思う」

「女王ヴィヴィの契約主って……。いや、聞いちゃいけないんだったね」


 カーリージェリーはランスディールと契約したときの約束事を思い出して、わいた興味に蓋をした。




読んでくださり、ありがとうございました。

沢山の作品がある中で、自分の作品を読んでくださった方がいると思うと、とても嬉しいです。

とても励みになります!

次回7月21日予定です。


高評価、いいね、ブックマークよろしくお願いします!


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