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26話 契約

『では、これから契約をおこなう』


 女王ヴィヴィの立会いのもと、ランスディールと黒うさぎのちびとの契約が交わされる。

 絨毯の近くの草地でお互いにお見合いするように、ランスディールは膝立して向き合う。

 女王ヴィヴィはランスディールの手首と黒うさぎのちびの手首を掴む。

 そして目をつむり、何やら聞き取るのが難しい言葉を唱えはじめた。


「!」

『⁉』


 女王ヴィヴィが唱え終えると、ランスディールと黒うさぎのちびの手の甲に魔法陣のようなものが浮かびあがった。いくつもの輪と、その中にある細かい文字と文様が描かれたもの。


『終わったぞ』

「え? もう終わったのですか?」


 女王ヴィヴィがうむと頷く。

 熱は感じるが痛みはない。

 ランスディールと黒うさぎのちびはまじまじと自分の手の甲を見る。

 物語のように風が吹いて地面が輝いて、というような想像をしていただけに、あっという間に終わってしまったのでランスディールは拍子抜けした。


『ちびよ。人の国は色々な人間がいる。知らない人間にはついて行ってはいかんぞ。ランスディールのそばから離れないように。ちゃんということはちゃんと聞くのだぞ』


 女王ヴィヴィは生徒に注意事項を説明するように、あれこれといい始める。

 黒うさぎのちびは真剣な表情でうんうんと頷く。


「それ、なんの文字だ?」


 覗いてきたカーリージェリーが見たことないなと言った。


「私もわからない。古代文字とか?」


 ランスディールはよく見ようと手の甲を顔に近づけてみた。しかし、もともと字が小さくて、さらに見たことのない字ばかりなので意味はなかった。

 王宮に行けば図書館がある。さまざまな本が置かれているのでそこに行けばわかるかもしれない。


『そうじゃ。いにしえのころから使われている文字じゃ。人の国では廃れてしまったようじゃが』


 説明を終えた女王ヴィヴィは、黒うさぎのちびに旅支度をするようにと穴蔵へ行かせた。


「あの、薄くなっているのですが」


 手の甲、肌に馴染んで染み込んでいくように輪も文字も薄くなって消えていく。

 ランスディールは不安顔で女王ヴィヴィに説明を求めた。


『それでいいのじゃ。『契約の輪』は他者に見せない方がよい。消えていく仕組みなのじゃ』

「知られたらなにかまずいことでも?」

『その輪の中にある文字は誰と誰が契約しているかが記されておる。見えるままだと脅しの材料に使われてしまうぞ。おぬしに恨みをもつ者がいたとしよう。ちびを誘拐すれば簡単におぬしを呼び出すことも脅迫することもできよう』

「気をつけなければならないことはありますか?」


 ランスディールは納得して、注意事項の確認をする。


『一方が命を落としたら、それは自然消滅して消える。もし、おぬしになにかあったらちびは困る。人間と意思の疎通ができなくなるからの。同胞以外に自分の念話が届かない状況になる』


 ランスディールはわかりましたと頷く。


「あの、これは女王ヴィヴィ以外に手を加えることはできますか?」

『それはできぬ』

「では、解約するときも女王ヴィヴィにお願いすればいいんですね?」

『うむ。その契約の輪は、目に見えない力が働いておって、離れ離れになったときにはお互いどこにいるか方角がわかることが利点かの。アークスは第六感だなと言っておった』



 ◇◇◇◇◇◇



『ランス!』

「!」


 念話で送られてきた幼い声にはっと振り向く。

 男の子とも女の子とも判断しにくい高めの声。

 声の主、黒うさぎのちびは麻袋を抱えて穴蔵から戻ってきた。

 黒うさぎのちびはランスディールと一緒に行けることが嬉しいようで目が輝いている。


「忘れ物はない?」

『うん! ちゃんと見てもらった!』


 黒うさぎのちびの後ろには、旅支度を手伝った白うさぎの獣人たちが立っていた。

 麻袋には木の実と果実が入っていると黒うさぎのちびは念話でランスディールに送る。

 そして、女王ヴィヴィが昔使っていたというフード付きの旅用の外套をおさがりでもらい、着ている。

 漆黒の耳はなにかと目立つので、人さらいなど未然に防ぐ意味もある。


『僕の声、ちゃんと届いてる?』


 黒うさぎのちびはずっとラミィを介してランスディールと意思の疎通をしていた。

 不安げな表情でランスディールを見上げ、首を傾ける。


「届いているよ。よろしくね」


 ランスディールは片膝をついて手を差し出すと、黒うさぎのちびが裸足であることに気づく。


『すまぬ。ちびにあう靴が用意できなかった。我の里では靴はみな履かないのじゃ』


 ランスディールの視線に気がついた女王ヴィヴィが、申し訳なさそうに金色の角を光らせて念話を送る。

 黒うさぎのちびの旅支度を手伝った白うさぎの獣人も女王ヴィヴィにつづいて金色の角を光らせた。

 悲しくもランスディールに届いていないが、謝罪していることはその表情でわかった。


「大丈夫です。靴はこちらで用意します」


 ランスディールは女王ヴィヴィに自分が黒うさぎのちびを抱えて街まで連れて行くと伝え、黒うさぎのちびに向き直る。

 黒うさぎのちびは意味が分からず、ランスディールの手を見て、顔を見た。


「これからよろしくお願いしますっていうときは、握手をするんだよ」


 人間の文化だよとランスディールが教えると、黒うさぎのちびは『よろしくお願いします』と念話で送り、小さい手を出して握手を交わした。



読んでくださり、ありがとうございました。

沢山の作品がある中で、自分の作品を読んでくださった方がいると思うと、とても嬉しいです。

とても励みになります!

定期的に投稿します。

今後もよろしくお願いします。


高評価、いいね、ブックマークよろしくお願いします!


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