24話 白うさぎの里に戻ってきた ①
作成中の為、投稿とまっていましたが再開します。
これからもよろしくお願いします。
ラミィの震えが止まった後、ランスディールたちは窪地のような場所から命からがら白うさぎの里に帰ってきた。
「あれ、やばいな」
カーリージェリーは立ったまま腰に手をあてて、乱れている呼吸を整え、ふ―っと息を吐いた。
「そう、だね」
肩が動くほど荒い呼吸のランスディールも同意する。
地面に座り込んで荷物をおろし、新鮮な空気を肺に送り込む。
騎士団で鍛えられた足でも追いつけない、俊足で先頭を行くラミィを見失わないように走るので精一杯だった。
(もう普通に立っているんだ。こっちはまだ呼吸が荒いのに)
羨ましさと恨めしさが複雑に絡み合った視線でランスディールはラミィを見る。
自分よりも小さい身体のどこにそんな回復力があるのか。
身体能力を存分に発揮して帰ってきたラミィは、そんな視線など気にしていないのか、気づいていないのか、ランスディールの隣で普段通りの姿で立っている。
ラミィは心配して駆けてくる同胞たちの足音を拾い、白い耳をぴんと立てた。
『ランス、ちびきた!』
ラミィが指した先に、白毛の白うさぎたちに混じって、短い手足を一生懸命動かして駆けてくる黒うさぎのちびが見えた。
その手には落とさないようにぎゅっと握られた懐中時計。
目を輝かせて一生懸命駆けてくる姿が可愛いく、ランスディールの笑みがこぼれる。
膝をついて待っていると、黒うさぎのちびはランスディールの胸に飛び込んできた。
黒うさぎのちびは漆黒の角を星のように光らせた。
『ランス、お帰りって言ってる』
「ただいま」
ラミィから送られてきた念話を受け取ったランスディールは、黒うさぎのちびの頭を優しく撫でる。
黒うさぎのちびは嬉しそうに目を細めた。ランスディールの指が当たる度に、耳がぴくりと動く。
「ありがとう。大事に持っていてくれて」
ラミィが通訳して黒うさぎのちびに念話を送る。
黒うさぎのちびはこくんと頷き、懐中時計を差し出すようにランスディールへ返す。
受け取ったランスディールはもう一度ありがとうと言って、服の中にしまった。
◇◇◇◇◇◇
ランスディールは黒うさぎのちびを連れて、白うさぎの里の中心部に向かう。そこに女王ヴィヴィがいた。
ランスディールは声をかけて結果を伝える。
『やはり、まだいたか』
ランスディールから話を聞いた女王ヴィヴィは無事に帰ってこられてよかった、と金色の角を光らせた。
勇者アヴァベルルークスからもらったという絨毯の上にランスディール、カーリージェリー、ラミィ、黒うさぎのちびと女王ヴィヴィが腰をおろし、各々果物や水分補給をとる。
『のう、ランスディールよ。おぬしは最終的にどうするつもりじゃ』
「どうとは?」
『その革の鞄についてはそなたら人間側のものじゃから、解決はしてほしいと思っておる。しかし、あの魔獣は人間の手には負えないと思うのじゃ』
女王ヴィヴィの意見に、ランスディールは窪地のような場所に避難したときを思い出す。
(騎士団に所属していたころは、相手は同じ人間だった。言葉が交わせるし、体格に多少の差はあっても、経験と知識と体制が整っていれば解決できるものだった。けど、あれはそういうものじゃない)
あの時に感じた緊張と不安は今までのものとは違った。
(あれは、圧倒的な存在感と力と恐怖でねじ伏せてくる存在だ)
積み重ねてきた鍛錬と技と知識をもって準備しても勝算がどれだけあるか、と言わしめるほどの生き物だ。
「そうですね。そうかもしれません」
ランスディールは視線を絨毯まで落とし、そして、黒うさぎのちびを見た。
案の定、黒うさぎのちびは女王ヴィヴィの言葉に反応して、不安そうな顔を見せていた。
(できることがあるなら協力したいけど……)
ランスディールは旅を始めたばかり。とくに目的もないので、この問題が解決するまで冒険者の街や白うさぎの里に留まってもかまわないが、はたして今の自分はどこまでできるのか。
「一度街に帰って調べてきます。鞄を見るかぎり冒険者だと思いますのでギルドにも報告します。魔獣に関しても」
せっかく教えてもらったのに無駄になってしまったのは悔しい。だからといってあきらめるわけにはいなかない。
広大な森の中が難しいなら、ギルドや役所から情報を集めるしかない。
ギルドは把握していない情報を提供してくれた冒険者には、情報提供料を支払ってくれる。そういう仕組みもあるので、毎日情報が更新される。聞けば、自分たちが知っている以上のことをギルドは知っているかもしれない。
今、ランスディールが黒うさぎのちびにも白うさぎの里にもしてあげられるのはそれくらいだ。
「わかり次第報告します」
女王ヴィヴィはよろしく頼むと、金色の角を光らせた。
「女王ヴィヴィ。もし、あの魔獣がここに来たらどうするのですか?」
仮定の話をしている段階ですでに危ないな、とランスディールは思いながら聞いた。そう遠くないうちに黒うさぎのちびの里のように住処を荒らされるのではないか。
その時に尊い命を失う可能性は十分にある。
何より、黒うさぎのちびは何日も一人で必死に逃げていた。ようやく保護してもらえる場所にたどり着いた。
もし、白うさぎの里が黒うさぎのちびの里と同じような状況になったら、また黒うさぎのちびは不安と恐怖を抱える日々に戻ってしまう。
女王ヴィヴィの性格なら他人事のように思ってはいないはずだ、とランスディールは思った。
『避難する』
女王ヴィヴィは結論のみをランスディールに念話で送った。
「何処へ、ですか?」
『……エデルのところに世話になろうと思っておる』
エデルとは勇者アヴァベルルークスがドラゴン退治の時に共に戦ったエルフ族の女性、エーデルロワーナだ。今は王宮で精霊術師をしている。
「でしたら今からでも」
そう考えているのなら、いつでも避難できるよう準備は整っているのだろう。
ランスディールはそう思って聞いたのだが、女王ヴィヴィは首を振った。
『のう、ランスディールよ。おぬしは自分の育った家を今すぐに手放せ、と言われたら迷いなくできるか?』
女王ヴィヴィは真っ直ぐにランスディールを見つめて問うた。
「それは……」
『黒うさぎのちびにとっても、我らにとっても生まれて育った里は大事な『家』なのじゃ。そう簡単にはいかぬ……』
月日を重ねてうまれた思い出や情が決断を迷わせる。
それはランスディールにも理解できる。自分が生まれた時には父と母がいてラミィがいた。
父は国境騎士団に所属しているので普段から不在が当たり前だ。それでも、ラミィや弟妹たちがいるから今でも暖かくて明るい家庭だ。
(確かに、はいそうですね、と簡単に手放せるものじゃない)
父や母、弟妹たちの顔が思い浮かんできて、少しだけ懐かしい気落ちになる。
「わかりました。もしなにかありましたら連絡をくださいますか。事が大きくなってからでは対応が後手にまわってしまいますので。王都にある精霊術師団の本部にもこの件は伝えます」
リアンド国と白うさぎの里の間ではお互い助け合っていきましょう、という条約が交わされている。その役目を担っているのは王都にある精霊術師団本部だ。
『うむ。よろしく頼む。そんなに心配するな! 大丈夫じゃ!』
女王ヴィヴィは努めて明るく振る舞った。
それが逆にランスディールの不安をかきたてたが口を結んだ。
心配はしても、これ以上のことは口を出してはいけない。
これは女王ヴィヴィと白うさぎの獣人たちの問題だから。
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